異譚66 どーすんだよ、これ
半々となった剣使いの獣人と二度目の決戦。
今度は移動をしながらの戦いでは無いので、イヴを前衛に置いてイェーガーが中距離で剣使いの獣人の隙を狙う。
剣使いの獣人の動きは先程よりも苛烈で無軌道だった。
半身を不自然につなぎ合わせているにも関わらず膂力や反射速度も上がっており、前衛で戦うイヴの攻撃をことごとくいなしていた。
しかして、イヴに焦る様子は無い。冷静に分析と対処を行っている。
同じように、イェーガーも焦りは無い。先程と同じような神業射撃を使って剣使いの獣人にダメージを与えている。
いくら反射速度が上がったとはいえ、何処に放たれたか分からず、目視を出来たとしても既に目と鼻の先まで迫っている銃弾に対処するのは難しい。
イェーガーの弾丸を避けたところでイヴがその隙を見逃すはずも無く、剣使いの獣人の腕を再度斬り落とす。
まったくもって問題は無い。多少パワーアップしたところで、イェーガーとイヴの二人のコンビネーションに勝てる訳も無い。即席のコンビではあるけれど、イヴはその観察力と情報処理能力を持ってすればイェーガーの動きに合わせる事は造作も無い。
イェーガーもまた、持ち前の観察力と洞察力を持ってイヴの次の動きを予測し、その予測に沿って神業射撃を行っている。
ただ身体能力が高いだけの相手が敵うはずも無い。もう一度倒すのは簡単な事だ。
だが、ただ倒すだけでは終わらないだろう。先程見せた、異譚支配者とてあり得ない程の超再生。あの超再生の絡繰りを解き明かさない限り、剣使いの獣人を完全に倒す事は出来ないだろう。
アリスやロデスコのように相手を消し炭にでも出来れば良いのだろうけれど、イェーガー達ではそれは難しい。どうにかこうにか解決策を見付け出すしかない。
「イヴ、なんか分かったか!?」
『基本的な身体能力の向上は見受けられますが、ますが、先程の超再生の絡繰りは分かりません』
戦闘をこなしながら剣使いの獣人の身体を各種センサーで調べていたけれど、これと言った異変や特徴は無いように思えた。
『現状の有効手段は、肉片の一つも残さずに消し炭にする事ですね。再生する肉が無ければ、それで終いでしょうから』
もっと詳しく検査が出来ればまた違った答えを導き出せるのだろうけれど、現状の分析ではこれ以外の答えは見つからない。
「あたしも思ったけど、アリスやあいつじゃなきゃ無理でしょ。もっと現実的な対策とかねぇの?」
『一番の有効手段は消し炭作戦です。ですが――』
言いながら、イヴは剣使いの獣人を軽々と両断する。剣使いの獣人の動きにはもう慣れた。イヴの機械仕掛けの完璧な対応と対策の前に成すすべなく二度目の敗北を刻む。
『――回復を遅らせる毒などがあればもしかしたら』
両断した死体から跳び退り、イェーガーの隣で再生するかどうかを見守るイヴ。
身体を両断されて倒れた剣使いの獣人は暫くは意識があったけれど、暫くもがき苦しんだ後に息絶えた。
「ただぶった切ってどーするよ」
ただ切っただけでは結果は先程と変わらない。超再生の後また襲い掛かって来るだろう。
『この再生で、超再生がどういった絡繰りなのか観察をします』
「再生後は明らかにパワーアップしてたろ。無駄に再生させる事なくねーか?」
『大した向上ではありません。イヴとイェーガーで充分対処可能の範囲です。ですので、リスクを承知で倒しました』
話をしながらも、二人は両断された剣使いの獣人から視線は外さない。
じゅるじゅる、うぞうぞと血管が伸び、両断された身体を繋ぎ合わせようとする。
「これ、再生中に攻撃し続ければ良いんじゃね?」
言いながら、ぱんぱんと銃弾を撃ち込むイェーガー。
ヴッ、グッと口から呻き声を漏らす剣使いの獣人。それが、衝撃による反動なのか、剣使いの獣人がダメージを知覚して漏らした声なのかは分からない。
けれど、攻撃を受けた剣使いの獣人の身体は剣を振って抵抗を試みている。これも、無意識の防衛本能なのか、意識が残っているのか分からない。
『駄目みたいですね』
「だな。ちっとでも遅らせられりゃ良いと思ったんだけどなぁ」
面倒臭そうに頭をがじがじ掻くイェーガー。
両断された部位の再生もそうだが、銃弾が直撃した部分の再生も頗る早い。これではあまりに費用対効果が悪い。
『根本的な解決にはなりませんよ。相手の再生を止め続けても、異譚が終わるわけでは無いのです。イヴ達の目的はあくまで異譚の終息です。この面倒極まりない相手を倒す以外に選択肢は無いのです』
「ま、再生待ってる間にこいつを消し炭に出来る奴が来る保証もねぇしな。面倒臭ぇけど、あたし達で再生出来なくなるまで殺すしかねぇかな」
『無限の再生で無いのであれば、それも手の内の一つですね。しかし、あまり現実的では無いですね』
「なんでさ?」
『再生に魔力が使用されていないのです。恐らく、肉体が持つ特異能力かと思われるのですが……』
「じゃあどうすんだよ」
『どうしましょうか?』
イヴの返答に、思わずイェーガーはイヴの方を見やる。
イヴもイェーガーの方を微妙な笑みを浮かべて見る。
二人が見つめ合っている間に、剣使いの獣人は再生を果たし呻き声とも咆哮とも取れる声を上げて立ち上がる。
再生した剣使いの獣人の身体は先程よりも、より異形の姿に変貌していた。不格好に継ぎ接ぎされた身体に、明らかに身体中に増えた斑紋。身体は一回り肥大化しており、再生時にはみ出たであろう血管が体外に露出しており、うぞうぞと触手のようにうねっている。
「どーすんだよ、これ」
『どうしましょうね、これ』
「『はぁ……』」
復活した剣使いの獣人に視線を戻し、二人は同時に溜息を吐いた。
ただしぶとい敵なら終わりが見えているから良いのだけれど、何度も再生されるのであれば話は別だ。なにせ、ゴールが分からないのだから。
『一つ一つ、何が有効か試していきましょうか』
「それしかねーか。……はぁ、しんど」
大斧を構えたイヴは即座に、剣使いの獣人に肉薄する。
イェーガーもまた、剣使いの獣人に肉薄するイヴを援護するように引き金を引く。
嫌な未来が脳裏に過ぎるが、極力考えないようにして二人は第三ラウンドへと突入した。




