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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
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異譚64 いっちょやったりますか

 文字通り爆誕した冷たい太陽。その冷気を含んだ熱気は異譚内部に爆発的に広がった。


「『冷気も熱気もこの家を害しません!!』」


 異譚に充満した魔力に紛れる事も無い程に強烈な魔力を感知した瞬間に、シュティーフェルは即座に「猫の二枚舌(ねこじた)」で冷気と熱気から半壊した家を護る。


「うぁ……っ」


 遠く離れた位置から届いた冷気を伴う熱波にも関わらず、シュティーフェルの魔法と建物を護る魔法少女の魔法の上から、その衝撃波で建物を揺らす。


 シュティーフェルの許容を大きく超える威力に、シュティーフェルの鼻からたらりと血が垂れる。


 シュティーフェルは誰にも気付かれないように乱暴に鼻血を拭う。もっとも、全員が小屋を揺らす衝撃波に気を取られてシュティーフェルの様子には気付いていなかったけれど。


「……こりゃ、不味いわね……」


 窓の外に見えるソレを見て、ロデスコは冷や汗を流す。


 窓の外に見えるのは青い太陽。青白い光は異譚の全てを照らし、闇夜に紛れる事を決して許さない。青い太陽の近くの物は凍えながら燃え尽き、その存在すら思い出せぬ程の灰燼となる。


 青い太陽の周囲は陽炎のように歪み、ドライアイスのように白い靄が掛かっている。陽炎と冷気の靄は相反するもののはずなのに、青い太陽の周囲では完全な調和が保たれており、陽炎と冷気の靄が独特なコントラストを生み出していた。


熱を発しながら冷気を帯びているとこんな風に見えるのかとどうでも良い事を頭の片隅で考えながら、ロデスコはこの後の方針に頭を悩ませていた。


 それは、いつか映像の中で見た生ける太陽と酷似した姿だった。


 青い太陽の姿を見て、ロデスコは一番の貧乏くじを引いてしまった事を覚る。他の異譚の様子など分からないけれど、存在するだけで世界を破壊する相手が一番(たち)が悪いのだから。


 全員で戦う。それは出来ない。生半可な実力では青い太陽に近付いただけでお陀仏だ。同じ炎属性であり、冷気にも耐性があるロデスコが一番の適任だろう。逆を言えば、この場にロデスコ以外の適任が存在しない。


 それに、この場を護る者も必要だ。人手が足りない以上、攻勢にばかり人員を回す訳にもいかない。


 つまり、青い太陽とはロデスコ一人で戦わなければいけない。


「ふぅ……」


 深く息を吐く。


 一人で勝てるかどうか、正直自信は無い。それでも、やらなければいけない。今この場で一番強い自分が、不安を見せてはいけないのだ。


「どうする、ロデスコちゃん~……」


 青い太陽を見て、不安を見せないように気丈に眉を寄せるアシェンプテル。


 ロデスコは安心させるようにアシェンプテルの頭をガシガシと乱暴に撫でる。


「アレとはアタシが戦うわ。炎にも冷気にも耐性があるのはアタシくらいだしね」


「だが、一人で大丈夫なのか? アレは、どう見てもまともじゃないだろ……」


「そうね。……不安にさせるかもって思って言いづらかったけど、あの敵、アリスの最初の異譚に出て来た核に似てんのよね」


 ロデスコは真弓と玲於奈、アシェンプテルの三人にだけ聞こえるように言う。


「最初の異譚って、あの……?」


「ええ。十万人が死んだ最悪の異譚。その異譚の二体目の核に姿形がそっくりなのよね」


「そ、それって、大丈夫なの~?」


「分からないわよ、戦ってみなくちゃ」


 勝てる、とは口が裂けても言えない。こんなに強くなった自分でも、勝てない相手が居る事くらいは痛い程に分かっている。


 それに、無責任な事は言えない。無責任な希望程、残酷なものは無いのだから。


「でも、アタシ以外にアイツと戦える奴いないでしょ。アンタ達の攻撃はアイツに届く前に燃え尽きるか凍り付くだろうしね」


 アリスの攻撃ですら生ける炎には届かなかった。魔法少女になりたてとは言え、万能にして高威力を誇るアリスの攻撃だ。それが通らないのであれば、生半可な攻撃では確実に届かないだろう。


 恐らく、各国の魔法少女の上澄みくらいでしかあの青い太陽には勝てないだろう。


 真弓達も、青い太陽を一目見て分かったのだろう。ロデスコの言葉に反論する事は無かった。


「だから、アタシが行く。アンタ達はこの人達を護って。アタシがアイツに勝っても、誰も護れなかった意味無いからね」


 異譚を終わらせる事に意味が無い訳では無い。だが、魔法少女の仕事は異譚を終わらせる事だけでは無い。異譚に巻き込まれた人達を助ける事も仕事であり使命でもある。


「アシェンプテル。アタシが行った後は真弓の指示に従って」


「分かったわ~……無茶、しないでね~?」


「しない訳にもいかないでしょ。あんなのが相手なんだからさ」


 そう言って、ロデスコは青い太陽と戦うべく歩き出す。


「シュティーフェル。真弓達の言う事を良く聞いて動きなさい。良いわね」


「わ、分かりました!」


「よし」


 去り際にシュティーフェルの頭をがしがしと撫で、律義に玄関から出て行く。


「さて……いっちょやったりますか」


 ぱんぱんっと頬を叩いて、改めて青い太陽と向き直る。


 燦々と凍え燃える青い太陽は、発生した位置から動いていない。


 絶えず生み出される熱風と冷風が吹きすさぶ。ロデスコが魔法少女だから耐えられるけれど、一般人であればそれだけで悶え苦しむ程の温度。


 急激な温度差により異譚内部の気流はおかしな事になっており、あちらこちらに出鱈目に風が吹き荒れている。


「よし」


 一歩、力強く踏み出し、空を駆ける。


 自身に立ち向かおうとするロデスコの存在を感じ取ったのか、青い太陽は不気味に蠢いた。


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