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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
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異譚63 超再生

 原始獣人達に追われながら、剣使いの獣人との戦闘をこなす。


『反射速度は大したものですが、剣捌きは大した事ありませんね』


 軟体動物を思わせる柔軟な動きも目を見張るものがあるけれど、それだけだ。ただ剣を使っているだけだ。使いこなせているわけでは無い。


 身体能力任せの攻撃など、イヴの分析にかかれば簡単に対応する事が出来る。


 それに、イヴは一人ではない。


 イヴが剣使いの獣人と斬り合い、一瞬だけイェーガーの射線に入る。直後、躊躇わずにイェーガーは引き金を引く。


 撃ち放たれた弾丸は狙い違わずにイヴへ(・・・)と進む。


 放たれた弾丸はイヴの背中へ吸い込まれるように進み、イヴに直撃する直前でイヴが射線から外れる。そして、イヴが遮っていた剣使いの獣人に弾丸が命中する。


「グァッ……!?」


 銃弾を斬り捨てる事の出来る剣使いの獣人だろうと、直前まで弾道が読めないのであれば反応をする事も敵わない。よしんば目視で把握できたとしても、剣で弾くには時間が足りない。加えて言えば、銃弾に気を取られた瞬間にイヴの大斧の餌食になる。


『流石の腕ですね。イェーガー』


 イェーガーの腕前に感嘆の声を上げながら、銃撃を受けて隙が出来た剣使いの獣人の左腕を斬り落とす。


「グォアッ!?」


 腕を吹き飛ばされ、苦悶と怒りの声を上げる剣使いの獣人。


 イェーガーの銃撃は一歩間違えればイヴを撃ち抜く事になってしまう、あまりに危険な一撃だ。イヴの動きを完全に予測しなければ出来ない神業射撃。イェーガー以外の者がやろうものなら、フレンドリーファイア確実の技である。


「あたしに誤射はねぇからな。安心して戦え」


『ええ。ですが、もう終わりです』


 イェーガーの銃弾は心臓付近を撃ち抜いており、その上でイヴが左腕を吹き飛ばしている。威力を弱めた銃弾は体内に残留し、その毒を身体中にまき散らす。銀の弾列(ナンバーズシルバー)程の威力と属性では無い上に、単純な毒を付与しただけの銃弾だけれど、それだけで十分相手を鈍らせる事が出来る。


 イヴの言葉通り、剣使いの獣人の動きは明らかに鈍っており、イェーガーとイヴであれば簡単に倒す事が出来る。


(とど)め、やるよ」


『では、遠慮無く』


 流れるような動きで剣を持った右腕を斬り落とし、その動きのまま縦に真っ二つに切り裂いた。


 手強い相手ではあったけれど、あっさりとした幕引きとなった。


「っし、ひとまず面倒な奴は片付いたな」


「で、どーするー?」


「まだ追ってきてるよー?」


 ドロシーと案山子が言うように、原始獣人の群れは止まること無く追ってきている。


 どうすると言われても、あの数を迎撃できる程の打開策がある訳でも無い。さりとて、このまま走り回っていても埒が明かない。


こうなってしまっては、リスクは承知の上でドロシーの言った策を実行するしか無いのかもしれない。範囲と数を限定さえすれば、被害は最小限に抑えられるだろう。


「ドロシー、範囲を絞って――」


 そこまで口にして、言い様の無い悪寒が背筋を走る。


 殺気とは違う。そんな気配を向けられたわけでは無い。これは、自身の内側に生じたものだ。


不快感をこれでもかと押し付けて来る悍ましい気配。それを受けて、本能的に芽生えた感情が悪寒となって背筋を走る。


「んだ、あれ……」


 後方を注意深く見ていたイェーガーだけが気付いた。その異変。


 イヴに両断されて地に伏す死体。それが、うぞうぞと妙な振動をしている。


 揺れ、地を這い、左半身(互い)右半身(互い)を求めるように、切断面から血管が伸びる。


 血管は絡まり、繋がり、血管を追うように飛び出して来た肉が絡み合う。


「――ッ、ドロシー!! 後ろに竜巻二つ出せ!! 今直ぐ!!」


「らじゃりました!」


 切迫したイェーガーの指示を聞いたドロシーは、イェーガーが何にそれほど焦っているのかは分からないけれど即座に竜巻を二本発動させる。


 突如として発生した竜巻に、原始獣人達は巻き込まれる。巻き込まれ、吹き飛ばされ、遠くの方で地面に落ちて死に、建物に叩き付けられて死ぬ。


 原始獣人だけでは無く、周囲の建物をも崩しながら巻き込んでいく。当然、剣使いの獣人も竜巻に呑まれていく。


 竜巻の中には原始獣人や瓦礫が含まれているので、一度入れば全身をズタズタに引き裂かれる。そうでなくとも、ドロシーの召喚した竜巻は通常の竜巻には無い攻撃力を持っている。巻き込まれればただでは済まないだろう。


 それでも、イェーガーの悪寒は消えない。


「何か、あったのか?」


 ライオンが問うけれど、イェーガーはじっと後方を見詰めたまま答えない。


 だが、数秒後に乾いた笑いを浮かべながらぽつりとこぼす。


「見間違いとか、勘違いだったら良かったんだけどなぁ……」


 一つ息を吐いて、イェーガーは長銃を構える。


 あらゆるものが混在する竜巻の中に、イェーガーはソレを見た。


 ソレは竜巻の中を飛び出し、離れた位置に立っていた尖塔に着地する。


 直後、大気を震わす程の咆哮を上げる。


 狼や犬のように綺麗な遠吠えでは無く、ライオンや虎のように勇猛では無く、それはあまりにも悍ましい音だった。それが咆哮だと分かったのは、その音が口から放たれていたからだ。そうでなかったら、イェーガーはそれを咆哮とは認識しなかっただろう。


「再生持ち……にしたって、反則だろ……」


「おぅ……」


 イェーガーの肩越しにソレを確認したドロシーも、疲れたような声を漏らす。


 尖塔に立ち吠えるソレは、先程戦っていた剣使いの獣人だった。だが、その姿は先程の姿よりも悍ましいものだった。


 無理矢理繋がれた身体は均整が崩れており、その最たるは顔であった。頭のてっぺんは合っているのに、口や鼻の位置がずれており、目もかなり傾いている。


 明らかに正常な状態では無い。にもかかわらず、剣使いの獣人の目は真っ直ぐにイェーガーを見ており、その闘志も、敵意も、確かな意志のあるものであった。


「……はっ。死にぞこないが、いっちょまえに睨んでんじゃねぇぞ」


 相手の目をしっかり見ながら、イェーガーは不敵に笑って見せる。


「そーだそーだ!」


「わんっ!」


 後ろでドロシーも合いの手を入れ、トトが同意するように吠える。


 ドロシーの声を聞いて、イェーガーは動揺している場合では無いと我に返り、即座に現状報告と指示を飛ばす。


「さっきの剣使いが復活した。ドロシーは竜巻を維持。ライオンと案山子は竜巻を超えて来た奴らを頼む」


「らじゃ!」


「わんっ!」


「分かった」


「了解だよー」


 二本の竜巻は範囲も広ければ、近付き過ぎれば吸い込まれる。小型の異譚生命体に分類される原始獣人であれば尚更だろう。


 竜巻を迂回して来た原始獣人の対処をドロシー達に任せる。であれば、当然イェーガーとイヴの相手は決まっている。


 このままあの剣使いの獣人を放置しておくわけにはいかない。異常な程の再生能力。それを目の当たりにしているイェーガー達が、ちゃんと止めを刺さなくてはいけない。


「第二ラウンドだ。イヴ、手ぇ貸してくれ」


『了解しました』


 ライオンの背中から飛び降りながら、イェーガーは復活した剣使いの獣人に向けて引き金を引く。


 真っ直ぐに放たれた弾丸は狙い違わず剣使いの獣人の元へ飛来し、そして――


「オァッ!!」


 ――その手に持った剣によって斬り捨てられる。


「ったく、相変わらず腹立つ野郎だな。……良いぜ、来いよ不格好。もういっぺん殺してやっからよ」


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