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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い

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異譚60 冷たい太陽

 真弓に続いて目的地へと歩いて数分。屋根や外壁の崩れた家屋に辿り着いた。


 その家屋は冷たい炎に侵されていなかったけれど、焼け焦げた跡が見受けられたので真弓達が頑張って消火して一時避難所にしたのだろう。


「りぃちゃ~ん。戻ったよ~」


「戻ったか、まゆぴー。と、ロデスコじゃないか! やっぱりあの炎はロデスコだったんだな」


 真弓の後ろに立つロデスコの姿を見て驚くと同時に、力強い助っ人の登場に歓喜する李衣菜。


「とりあえず、中に入って休むと良い。とはいえ、ゆっくり寛げる程快適ではないがな」


「少し休めるだけで御の字よ。それに、情報の擦り合わせもしたいしね」


「座れるだけでありがたいわよ~。ワタシ、もう足パンパンだもの~」


「パンパンなのはいつも通りでしょ」


「酷~い! ちょっと肉付きが良いだけだも~ん! それに、脚の太さはロデスコちゃんと変わらないでしょ~!」


「脚の太さは、ね」


「む~!!」


 ロデスコが揶揄うように言えば、アシェンプテルはむくれたように頬を膨らませる。


 脚の太さで言えば、ロデスコは自身の脚が武器なので鍛えた結果の太さではあるけれど、アシェンプテルは別段脚を鍛えていないのにロデスコと同じような太さである。太さは同じではあるけれど、過程の差は歴然である。


が、それが分かっているけれど、これ以上は完全に拗ねてしまうので揶揄う事はしない。


「アシェンプテル先輩! 私はアシェンプテル先輩の脚、柔らかくて好きですよ!」


 以前に、カフェテリアで休んでいる時に話の流れで膝枕をして貰った事があるシュティーフェルがフォローする。本人はフォローのつもりだけれど、その発言はアシェンプテルの脚の肉付きが良いという事実の肯定である。


「ありがとね~」


 シュティーフェルに悪気が無いのは分かっているし、本心からそう言ってくれているのも分かっているので、アシェンプテルはお礼を言いながらシュティーフェルの頭を撫でる。


 アシェンプテルに頭を撫でられたシュティーフェルは気持ち良さそうに目を細める。


 そうやって、緊迫した空気を緩めながら室内に入れば、そこには十二人の一般人と真弓のチームメンバー、他三人の魔法少女が居た。


 数人と聞いていたので片手で数えられるくらいかと思っていたけれど、予想以上に無事な人間が居た事に心中で驚く。


「やっぱり、ロデスコやったんなぁ。心強いわぁ」


「それに、アシェンプテルも一緒だったんですね。強固な(パレス)を持ってる貴女が居てくれるのはありがたいです」


 ロデスコとアシェンプテルを見たうさぎと玲於奈が周囲に聞こえるように声を掛ける。


一般人達は目に見えて疲弊している。体力的にもそうだけれど、精神的にもそうだ。こんな炎に囲まれた異譚で平気で居られるはずも無い。


 ロデスコとアシェンプテルには申し訳無いけれど、彼等の気持ちを少しでも上向きに持って行く為に二人を持ち上げたように声を掛けた。まぁ、その内容自体に誤りは無いし、二人の本心でもあるのだけれど。


「ちょっと。シュティーフェルだって前回大活躍だったんだから」


 ロデスコとアシェンプテルだけを褒める二人に、真昼がむっと怒ったようにシュティーフェルを褒める。


「この子のお陰でアトラク=ナクアの核の位置が分かったんだから。ねぇ?」


「あ、いえ、そんな私なんてまだまだです!」


 突然褒められて、照れたように顔を赤らめるシュティーフェル。


 真昼は二人の思惑が分かっていないのでぷりぷり怒っているけれど、シュティーフェルは自分の実力をまだまだだと思っているので、手放しに褒められると恥ずかしくなって照れてしまう。


 そんな二人を微笑ましく思いながらも、玲於奈は真昼の誤解を解くために口を開く。


「分かっていますよ。彼女の力もまた唯一無二ですからね。頼りにしないなんて事ある訳ありませんから」


「せやんなぁ。こんなにちっこくて可愛らしいしなぁ」


「い、いえ、そんなぁ……っ」


 二人にも褒められて顔を真っ赤にするシュティーフェル。


 照れてるシュティーフェルの頭をわしゃわしゃと撫でるうさぎ。


 わちゃわちゃと程よく肩の力を抜く事が出来ているシュティーフェルから視線を外し、ロデスコは真弓に訊ねる。


「それで、そっちの状況は? なんか分かった事とかある?」


「えーっとぉ……めっちゃメラメラでぇ、べらんめぇに人型が多いかにゃ?」


「炎に巻かれて、生き残った人間も少ない。私達も他のチームと一緒に入ったのだが、人型の群れに遭遇してご覧の通りだ……」


 真弓達のチーム以外の魔法少女三人は、元々チームだったのだろう。童話の魔法少女のように万年人員不足でも無い限りは五人チームが基本なので、三人しかいないという事はそういう事なのだろう。


「アタシ達の情報とそう変わらないわね」


「そっちは空を飛んでたんだろう? 異譚を俯瞰してみて、何か分かった事はあるか?」


「分かった事もあるけど、同時に最悪の想定が出来ちゃうのよねぇ……」


 言って、ちらりとロデスコは疲弊した一般人達の方を見る。


 流石に、彼等の前で話せる内容では無い。何せ、たった数人しか生き残れなかった異譚と酷似しているなんて情報を聞かされたら、ただでさえ疲弊している彼等が狂乱してしまう可能性がある。


 言葉をぼかして、上手く伝える必要があるだろう。


「核の姿は見えなかった。多分、後から出て来ると思うわ」


「後から出て来る? そんな事があるのか?」


「海上都市がそうだったにぇ~」


 真弓は海上都市には行かなかったけれど、ログは確認している。鼻付きと羽根付きが後から出て来た事も把握している。


「あの時は、初めに何体か出て来たけどね。ま、それと似たような感じだと思うわ。最悪の想定が合ってればね」


「その最悪の想定ってなんなんだ?」


「此処じゃちょっとね。二階(うえ)って上れる?」


「ああ。階段は壊れてるが、まぁ私達には関係無いだろう」


 階段が壊れていようとも、魔法少女の脚力であれば難無く二階に上がれる。


「じゃあ、ちょっと場所を変えましょう。そこで詳しく話すわ」


「分かった」


 そうして、四人が二階で情報の擦り合わせをしようとしたその時――



「――っ!!」



 ――遠くの方で、冷たい太陽(・・・・・)が顔を覗かせた。


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