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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
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異譚58 三人との違い

 一度渦巻く闇を退けた後、その後を追うスノーホワイト達。


 依然として姿は確認できないけれど、そもそも姿形もはっきりしない相手なので見付けるのが困難を極めるであろう事は分かっていた。


「見付からない」


「見付かんない」


「そうね……」


 ヘンゼルとグレーテルを警戒しているのか、それともまた別の所で暴れ回っているのか。


 なんにせよ、魔力探知に秀でていない三人では見付けるのは困難である。


「アレ、ぐるぐるだった」


「アレ、うずうずだった」


「ええ、闇が渦巻いてるような感じだったわね。形も不定形だったのに、どうしてあんなに強固なのかしら……」


 形は確かに不定形だった。それでも、スノーホワイトの氷を容易く砕いた。氷の侵食も届かなかった。雑兵や定位の異譚支配者であれば氷はその身体を蝕む。だが、渦巻く闇を侵食する事は出来なかった。


 スノーホワイトの力が弱いのか、それとも相手の魔力への対抗力が強いのか。いや、どちらにせよスノーホワイトの力が足りていないのは事実だ。こうなると絶対零度(アブソリュート・ゼロ)が通じるのかどうか分からない。


 基本、一撃必殺には絡繰りがある。


 アリスの場合は全ての属性を兼ね備えた強大な一撃。威力もさることながら、必ず相手の弱点を突く事が出来る。


 イェーガーの場合もアリスは似たようなものだけれど、イェーガーの場合は超強力な毒を体内に撃ち込む。致命の一撃(ヴォーパルソード)には匹敵しないものの、威力そのものも高いのでそれだけで絶命する相手も居る。だが、根本は体内から蝕む毒が原因だ。イェーガーの弾丸は相手の回復能力を上回る程の侵食力を持っているのだ。


 ロデスコの場合は、相手の防御力を超える圧倒的な火力。ただそれだけ。そんな簡単で難しい話。


 スノーホワイトの場合は瞬時に相手を凍結させる事が出来る。表面だけでは無く、骨の髄まで凍結させられる。そういうものなのだろうと思っているだけなので、原理は良く分かっていない。


 多分、そこが他の三人と自分との違いなのだと言う事は理解している。一撃必殺に対する理解力が低すぎる。もっと言えば、自分の魔法に対する理解力と向き合い方だ。


 自分の魔法をある程度理解はしている。だが、そこで止まっている。いや違う、多分、そこで止めている(・・・・・)


 理由はまだよくわからないけれど。


 三人とは向いている方向も違うような気がしている。異譚を終わらせたいという気持ちに変わりはない。それだけは間違いない。それでも、自分と三人には明確な差がある。


 その差も良く分かっていない。ただ、何かが違う。そんな確信があるだけだ。


 だから、そんな三人と同列に扱われる事に引け目を感じてしまう。明らかに足りていない自分が、三人と同列な訳が無いのだから。


 そんな自分と一緒のチームにされたヘンゼルとグレーテルにも申し訳無いと思ってしまう。四人の中で一番頼り無いのが自分だと理解しているから。


「――ッ、スノー!!」


 そんな風にネガティブな思考に陥っていたからだろうか。スノーホワイトはソレの接近に気付けなかった。


 とんっと衝撃を受け身体が前に押し出される。


突然の事に驚きながらも、スノーホワイトは衝撃を受けた方を見やる。


「……ぁ」


 振り返った瞬間、グレーテルが渦巻く闇の奔流に押し流された。


 闇の奔流に押し流されたグレーテルはそのまま民家に強く叩き付けられる。


「グレーテルッ!!」


 闇の奔流に押し流されたグレーテルを見て、ヘンゼルが金切り声を上げながらグレーテルの元へ走る。


 呆けたのは一瞬。直ぐに、スノーホワイトは目の前を流れる闇の奔流に極大の氷をぶち当てる。ダメージが入らなくてもいい。グレーテルを押し潰し続けている闇の奔流を途切れさせられればそれで良い。


 だが、スノーホワイトの氷は闇の奔流の表層を撫ぜるだけでその勢いを止める事は叶わなかった。


「――ッ!! ヘンゼル!! キャンディ爆弾!!」


「――っ、ぼんぼんぼんっ!!」


 自分の攻撃では駄目だと判断したスノーホワイトは、即座にヘンゼルに指示を出す。


 取り乱しながらも自身の攻撃が有効打になりえる事を思い出したヘンゼルは、即座にキャンディ爆弾を生成して爆破させる。


 キャンディ爆弾から放たれた炎と光によって、闇の奔流は蜘蛛の子を散らすように霧散する。


 闇の奔流から解放されたグレーテルは受け身すら取れずに力無く地面に倒れる。


「グレーテル!! グレーテルぅッ!!」


 慌ててグレーテルに駈け寄るヘンゼル。スノーホワイトも闇の奔流が来た方向を警戒しながら、二人の元に移動する。


「……っ」


 ちらりとグレーテルの様子を見やれば、良くない状況だと言う事は一目で分かった。


 手足があらぬ方向に(ひしゃ)げ、闇の奔流に押し潰された身体は所々が抉れている。


 見るからに重傷。常人よりも生命力の高い魔法少女とはいえ、放置しておいて良い怪我では無い。


「ヘンゼル。グレーテルを連れてさっきの体育館に避難して」


「――っ、りょ、了解!!」


 問答をしている時間は無い。グレーテルが助かる為には、一分一秒だって無駄には出来ないのだ。


 ヘンゼルはゆっくりとグレーテルを抱き上げ、キャンディケインに跨る。


「スノーは、どうするの?」


「何とか時間を稼ぐわ。倒せそうなら倒すけどね」


 とは言え、スノーホワイトの攻撃が通用していないのは二人共理解している。


 それでも、全員で撤退するという選択肢は無い。


「行って」


「分かった」


 震えた声でヘンゼルは頷き、大事そうにグレーテルを抱えながら飛び去って行く。


「――ッ!!」


 その瞬間、スノーホワイトは自身の背後に巨大な氷壁を展開する。


 高さ三十メートル。厚さ五メートル。長さ百メートルにも及ぶ巨大な壁。


 展開された巨大な氷壁は、渦巻く闇とヘンゼルとグレーテルを遮る。それと同時に、他の魔法少女達の進路を阻む事にもなれば、民家やお店等を破壊する行為でもある。


 それでも、ヘンゼルとグレーテルを追わせてしまったら、その先で被害が出る。グレーテルを治療できる魔法少女は体育館にしかいない。それ以外にも居るかもしれないけれど、探している余裕は無い。


 だから、何が何でも此処から先に通してはいけない。


 ある程度の距離まで接近しているので、相手の場所はなんとなく分かる。距離を保ちつつ、こちらから攻撃を仕掛ける。いや、ダメだ。スノーホワイトの攻撃は痛痒すら与えられていない。やるなら、接近戦で先程以上の高出力の魔法を撃ち続けるしかない。その上で、隙を見て絶対零度(アブソリュート・ゼロ)を放つ。


 頭の中で方針を固め、スノーホワイトは渦巻く闇の方へと駆ける。


「え……?」


 直後、横合いから衝撃を受ける。


 それは渦巻く闇の奔流だった。明らかに本体が居る方向とは別の方向からの攻撃に混乱すると同時に、スノーホワイトの意識は暗転した。


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