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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
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異譚56 思いがけぬ合流

 人型の集団から逃げ切ったロデスコ達。冷たい炎に覆われたこの異譚で安全なところなんて無いけれど、比較的に炎の手が少ない場所へ避難をする事が出来た。


「はぁ……まさか、あんなに人型が居るなんてね」


「そうね~。ちゃんと数えた訳じゃ無いけど、過去最多の数よね~……」


 流石に人型の数が多すぎる。ただの異譚生命体よりも頭を使って来る分厄介な相手である人型がまさか一目見て数えきれない程に居るとは思ってもみなかった。


「火の中を平気で歩いてましたね」


 ふーふーとロデスコの炎で焦げてしまった尻尾の先に息を吹きかけるシュティーフェル。


「味方には効かないのか、アイツ等がある程度の炎耐性を持ってるのか……」


「ロデスコちゃんの炎は効いてた~?」


「微妙ね。まぁ、殺せない訳じゃないから問題無いけど」


 ロデスコの炎が効いていない訳では無かった。とは言え、ロデスコの攻撃は炎を纏った蹴りなので物理攻撃ではある。炎が何処まで効いていたかは分からない。


「核も見付からないし、どうしたもんかしらね」


 空を飛んで逃げている最中に周囲を見渡してみた。一面炎に覆われているので光源には困らず、思ったよりは子細に観察する事が出来た。


 けれど、異譚支配者の姿は見当たらなかった。異譚支配者が大型であれば見付けるのは容易いと思ったのだけれど、今回は小型の異譚支配者なのかもしれない。それか、まだ姿を現していないか。


「シュティーフェルも人の姿とか、敵の姿は見て無いのよね?」


「残念ながら……」


 異譚支配者の位置さえ分かれば倒しに行ける。だが、大量の人型と一緒に戦闘をする可能性が高いため、今のままでは自由に戦う事は難しいだろう。


「どうしましょうね~」


「本当にね……」


 せめて、誰か一人でも広範囲攻撃や遠距離攻撃が出来れば楽になるのだけれど、味方の魔法少女の姿も見えないので一緒に戦う事も出来ない。


「――っ! 人の足音です!」


 三人が頭を悩ませていると、不意にシュティーフェルの耳が足音を拾う。


 もう追い付かれたのかと、即座に警戒態勢に入る三人。


「おっ、やっぱりロデちだったにぇ~!!」


 だが、足音の主の声を聞けば、その警戒も直ぐに緩む。


 ひょっこひょっこと炎を避けながら三人の前に姿を現したのは、コンポジットボウを持った真弓だった。


「真弓! アンタも来てたの?」


「うぃ~! まゆぴー優秀だから~」


 えへえへと照れたように笑みを浮かべて頭を掻く真弓。


「自分で言って自分で照れるな」


「でへへ~」


「って、アンタ一人? 他のメンバーは?」


「今はいっぱんぴーぽーの護衛中~! まゆぴーは見た事あるしゅーてぃんすたーが見えたから、単身調査に躍り出たので~す!」


 どうやら、空を飛んでいるロデスコの姿が見えたから一人で様子を確認しに来たらしい。


「なるほどね……って、不味いわねソレ」


 確かに、暗い夜にはロデスコの飛んでいる姿は流れ星のように見えるだろう。つまり、敵にも味方にも位置が知れ渡っている可能性が高い。


「にぇ~? どして~?」


「アンタに見えてたって事は、敵にも見えてたって事でしょうが!」


「にゃっ!? 確かに!?」


「いったん、場所を移しましょ。その、一般人を集めてる場所に案内してくれる?」


「了解っ!! こっちやよ~」


 びしっと敬礼をした後、真弓は三人を先導する為に歩き出す。


 真弓の後を三人は周囲を警戒しながら付いて行く。


「それにしても、こんな場所で無事な人が居るなんてね」


「運が良かったらしいにぇ……」


 真弓が聞いた話によれば、異譚が発生した瞬間に辺り一面が炎に包まれた。その瞬間、物陰に居た者は難を逃れる事が出来た。だが、それ以外の人は異譚が発生した瞬間に炎に燃やされ、瞬く間に灰にされた。


「まゆぴー達が護ってるのも、たった数人なんだぁ……」


「数人でも生きてて良かったわよ~」


 こんな地獄みたいな異譚で数人生きていられただけでも幸運である。非情にも聞こえるかもしれないけれど、最初から死んでしまっていたのであれば魔法少女達に助ける術は無いのだから。


「そうですよ! 生きていてくれた人達だけでも、絶対に護り抜いてみせましょう!」


「うん。勿論、そのつもりだよ~!」


 大勢の命が失われた事は確かに悲しい事だ。だが、魔法少女は悲しみにだけ目を向ける事は出来ない。人を助ける為には、今出来る事、やるべき事に目を向けなければいけないのだ。


「それもそうだけど、アンタ達が居てくれて助かったわ。誰か一人くらい、アタシ達のチームに入れない? 遠距離持ちか広範囲持ちが居ると助かるんだけど」


「うーむむむ……要相談だにぇ。こっちも、カツカツだかやぁ……」


「そりゃ、そうよね」


 同時に四つの異譚が発生している。それも、全てが異譚侵度Sと来ている。異譚が四つと言うだけでも多くの人員が必要となるのに、それが異譚侵度Sともなれば更に多くの人員が導入される。


 真弓達も決して余裕があるわけでは無い。真弓一人だけで調査に出たのも、人手が足りていないからだ。


 ひとまずは此処を離れて、真弓達が護っている人達の元へ行っていったんそこで方針を固めるべきだろう。


 他の魔法少女達と合流するために歩くロデスコ達を、遥か遠くでエイボンは観察する。


「……役者は揃ったかな。ああ、分かってるよ。そろそろ、君の出番だね」


 その場所にエイボン以外は誰も見受けられないけれど、エイボンは姿の見えない誰かと確かに話をしていた。


「うん、好きにすると良い。死んだら、そこまでだったと言う事だ。非情に、残念ではあるけれどね」


 エイボンはふぅっと息を吐く。


 此処から先は、エイボンにとっても賭けだ。一世一代の大勝負と言っても過言ではない。


「頑張りたまえよ、ロデスコ。この歪んだ世界を救えるのは、君だけなんだからね」


 祈るように、願うように、エイボンは天を仰いだ。


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