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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い

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異譚48 冷たい炎

短め

 異譚に足を踏み入れた瞬間から、そこが人の生存を許さない場所だと言う事を理解した。


「――っ」


 辺り一面に炎が上がっていた。何処を見ても、炎の海が広がっている。


 燃え上がるのは目を奪われる程に綺麗な青い炎。めらめらと燃え上がり、何もかもを喰らい尽くす程に凶悪だというのに、宝石のようにキラキラと瞬いている。


「これは……」


「随分酷い状態ね~……」


 異譚に入って直ぐ、アシェンプテルは補助魔法をかける。


「アタシの分は良いわ。性質が違う(・・・・・)みたいだけど、炎なら大丈夫でしょ」


「分かったわ~」


 万全を期すのであれば、アシェンプテルの補助魔法を受けた方が良いのだろうけれど、もしもの時の為にアシェンプテルには魔力を温存しておいて欲しい。


 とはいえ、この地獄の中でもしもなんてあるとは思えないけれど。


「行くわよ。炎に触れないように気を付けて」


 炎に塗れた地獄だけれど、炎に燃やされていないところもある。自分一人であれば空を飛んで行くけれど、二人は空を飛ぶ事が出来ない。よって、三人は炎の地獄の中を歩いて進む他無い。


「にしても、全然暑く無いわね……」


「そうですね。魔法少女だから耐性があるのかとも思いましたが、これだけ燃えていれば熱風くらい感じるはずですし……」


 異譚に入った瞬間、炎の地獄に目を奪われたけれど、暑さに驚く事は無かった。これだけの炎が上がっているのであれば、肌を焼くような熱を感じるのが普通だ。


「それに~、息も白いわね~」


 アシェンプテルの言う通り、先程から吐く息が白い。それに、炎に包まれていると言うのに暑さをまったく感じないどころか、肌寒くすらある。


 よくよく見てみても確かに炎は全てを燃やしている。物の焼け焦げた匂いはするし、炎の中を見ればプラスチックは溶け、木材は焼け焦げている。


 燃焼(・・)という現象は確かに起こっているのだ。その上で、炎から熱を感じない。


「奇怪な炎ね」


「そうだね~」


「私達は耐えられてますけど、他の人達は大丈夫でしょうか? 息が白くなるって、相当寒いですよね?」


「まず、それ以前の問題ね。この炎の地獄で、果たして一般人が生き残れるかどうか……」


 そう言って、ロデスコは目の前の状況に既視感を覚える。


 自分は何処かでこの光景を見た覚えがある。実体験では無い。実体験であれば忘れるはずがない。


「……くっそ、まずいかも……」


 既視感の正体に思い至り、苦々しい表情を浮かべるロデスコ。


 炎の色は違うし、瓦礫の山でも無いけれど、一面炎に覆われた光景を確かに目にしている。


「何がまずいの~?」


 苦々しく言葉を漏らしたロデスコに、アシェンプテルが小首を傾げながら訊ねる。


「……アイツ……アリスが最初に入った異譚の映像を見た事があるんだけど……」


「最初に入った異譚って、確か……」


 アリスが最初に入った異譚は記録映像に閲覧制限がかかっており、その上被害者数は十万人を超える過去最悪の異譚。


「その映像の状況と似てんのよね……」


 あの異譚での生存者はたった数人。魔法少女はアリスしか生き残れなかった。


 存在するだけで全てを燃やす生ける炎。あの映像を見た時、ロデスコは勝てない事を直感した。


 同じ炎属性であるロデスコには、あの火力を突破するだけの火力が無かった。よしんば突破出来たとして、生ける炎が内包する熱に包まれればなすすべ無く蒸発する事だろう。


 今はロデスコも強くなった。あの映像を見た時よりも、何倍も強くなったのだ。だから、勝てないと言う事は無いと思っている。


 風の異譚支配者を倒さなくて良い分まだマシかもしれないけれど、それでもあの炎の異譚支配者を倒すには文字通り死力を尽くさなければいけないだろう。


 炎の性質からして、ここの異譚支配者がまったく同等の存在では無い事は確かだけれど、それでも異譚侵度はS。油断出来る相手では無い。


「ネガティブな情報だし、既視感があるだけだからちょっと言うの迷ったけど……それでも、異譚侵度Sだからね。どんな情報でも共有しておきたいのよ」


「アリスちゃんしか生き残れなかった異譚に似てるんだったら、共有してくれてありがたいわ~」


「はいっ! 気を緩めていたつもりはありませんが、より一層気を引き締められます!」


 ふんすと気合十分に返事をするシュティーフェル。


 アシェンプテルはともかく、シュティーフェルは気後れしてしまうかもしれないと思ったけれど、いつも以上に気合を入れている様子を見て少しだけ安心する。


「アンタ達も何か気付いたら教えてね。少しでも生存率を上げる為には、情報共有は必須だから」


「分かったわ~」


「了解です!」


 ロデスコの杞憂であればそれで良い。今のロデスコであれば、大抵の相手であれば一人で倒せるという自負と自信がある。


 その自負と自信を打ち消すかのように、ロデスコの中で嫌な予感がその存在を大きくしていく。


 杞憂であれば良いけれど、これが杞憂になってくれない事を、ロデスコが一番良く分かっている。


 本当に、ロデスコの勘は嫌な程当たるのだ。


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