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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
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異譚47 ドロシー

「にしても……でっけー壁だなー、おい」


 西の異譚に入った途端に視界に広がったのは、見上げる程に巨大な壁。左右を見ても壁は切れ目なく何処までも続いており、恐らくは異譚を囲むように出来ているのだろう。


「これ、入り口あると思うか?」


 イェーガーは隣に立つ少女に問いかければ、少女も同じように左右を見てから答える。


『あったとして、素直に通してくれるとは思いません』


「だよなぁ……」


『無駄な戦闘は避けて、上からお邪魔しましょう』


「っぱそれが一番か。てか、これぜってー空間広がってるよなぁ……」


『暗幕が半球状である以上、中心に行くほど天井は高くなりますからね。この壁の規模と位置を考えると、明らかに暗幕を突き破ってしまいます。イェーガー、暫く見ない間に賢くなりました?』


「これくらいふつーだっつーの! なめんなロボ子!」


 とんっと軽く肘で小突くイェーガー。


 小突いた肘に返って来るのは人体の感触では無く、硬質な鋼の感触。


 イェーガーの横に立つのは、AI魔法少女のイヴ。イヴは魔法少女に変身すると電子の世界から出てくる事が出来る。


 見た目は人間のようだけれど、身体の節々を見ればイヴが機械である事は一目瞭然である。


 まず顔。目や鼻、口もあり、髪の毛もある。顔は一目見ただけでは機械と分からないくらいに精巧である。


 次に身体。女性的なラインの出た美しいプロポーションの上に、ぴっちりと表面に張り付くラバースーツのような素材の衣服を着ており、上にはショート丈のジャケット、脚にはショートブーツといった格好をしている。


 ここまではぱっと見で人間のようには見えるけれど、耳の代わりには円形のデバイスが装着されており、そこから斜めにアンテナのような部位が伸びている。


 目は瞳孔がカメラのレンズのようになっており、身体の中からは微かにモーター音が聞こえてくる。


 イヴ曰く、服は脱ぐ事が可能で服の下にはちゃんと肌があるそうだが、見た目は完全に球体関節人形らしい。


 手には手袋を付けているので、露出は顔だけになる。機械らしい特徴を上げはしたが、服さえ脱がなければ初見の者には分からないだろう。


『イェーガーは自力で登れますか?』


「無理だな。あたしはドロシー(・・・・)に運んでもらうわ」


『イヴがジェットパックで快適な空の旅をご案内しますが?』


「何があるか分からねぇから、あんまし音立てたくねぇんだよなぁ……あと、あんたのその光ってるライン消せ。位置がバレる」


『おや。これは失敬』


 ラバースーツの表面には何故か発行するラインがあり、闇夜では大分目立ってしまっている。一応オンオフは可能なので、イェーガーに言われて直ぐに光を消すイヴ。


 イヴの見た目はどことなくアリス・フューチャーを彷彿とさせる。


 二人が雑談をしていると、二人の目の前に長いロープが垂れ下がる。突然の事だけれど、二人には驚いた様子は無く、むしろ待ってましたとばかりにロープに歩み寄る。


「危険無し、って事か」


『そのようですね』


 二人がロープを掴めば、ロープはひとりでに上へと引っ張られる。


「って、あんたも付いてくんのかよ」


『温存ですよ、温存』


「上も大変だろうな。あんた重いだろうし」


『むっ、レディに重いは失礼ですよ。訂正を求めます』


「じゃあ体重言ってみろよ」


『確か、トンは無かったはずです』


「誰だってねぇよ」


 ロープに掴まりながらも雑談を続ける二人。話をしながら、イヴは少しイェーガーの様子を以外に思った。


『イェーガー、少し丸くなりました?』


「あ? 別に太ってねぇよ」


『いえ、そうでなく。以前お会いした時より、険が取れたような気がしましたので。こんなにお話した事も無かったですし』


「……まぁ、少しあってな。これが終わったら、話してやるよ」


『お、死亡フラグと言うやつですか? 映画だったら死んでますよ?』


「今良い話風だったよな? 映画だったら『酒のつまみくらいにはなるんだろうな?』みたいに返すとこだよな? なぁ、本場のAIさんよぉ」


『イヴはお酒呑めませんし』


「あたしだって飲まねぇよ!」


「お? お? なに喋ってるか? 楽しいお話だったらバンザイだが?」


 離している間に壁の上まで辿り着いたようで、壁の上で待っていたルーシーが会話に混ざりたそうに入って来る。


 綺麗な金髪を二つの三つ編みにし、ギンガムチェックのエプロンドレスに身を包んだルーシーは、銀の具足(・・・・)をカツカツと鳴らしながら二人に歩み寄る。


「別に楽しい話じゃねぇよ。異譚(これ)が終わったら湿っぽい話に付き合えよって言ってただけだ」


「おぅ……湿っぽい話はいやいやよ」


「わんっ!」


 ルーシーがそう言えば、同意するようにルーシーの足元から鳴き声が聞こえてくる。


『トトもそうだそうだと言っていますね』


「犬の言葉分かんのか?」


『いえ、全然。犬の畜生の言葉なんて分かる訳無いじゃないですか』


「なんだよこいつマジで……」


 何言ってるんですか? とでも言いたげな眼でイェーガーを見るイヴ。


「トトは少しはしゃいでるだけだ。久し振りだな、小さき狩人よ」


「あれ、イェーガーが居るー。って事は此処って日本? わー、オレ初来日だよー」


 ルーシーの後ろから騒がしくしてやって来たのは、初見の者が見れば警戒をするであろう二体。


 一体はのっしのっしと歩く巨大な身体を持ったライオン。本当に巨大で、実際のライオンよりもかなり大きい。その上、威厳たっぷりに喋る。


 もう一体は背の高い藁の詰まった案山子(・・・)だ。白い布に目、鼻、口が描かれており、感情によって目、鼻、口がそれっぽく形を変える。ちょっと気の抜けた声で喋る。


「おう。久し振り」


「久しぶりー。わー、また会えて嬉しいなー」


 案山子はイェーガーの手を握ってぶんぶん振る。


「スンスン。少し、逞しい匂いになったな」


「わんっ!」


『トトもそうだそうだと言っています』


「うむ。そうだな」


 三人だけのパーティーのはずが、随分と騒がしくなったと思うイェーガー。


 犬のトト、ライオン、案山子、そしてイヴ。イヴは少しだけ生い立ちが特徴的ではあるけれど、この四体には共通点がある。それは、四体共、ルーシーの召喚物(・・・)であると言う事だ。


 アリスとは別で、一度召喚されればルーシーの意志で消す事は出来ず、彼等はずっとこの世界でルーシーと共に生活をしている。


 因みに、ルーシーは彼等を消す事は出来ないけれど、好きな場所に呼び出す事は出来る。そのため、アメリカに居たであろうトトとライオン、案山子がこの場に居るのだ。なお、イヴはAIなのでルーシーの携帯端末に移動する事が出来るので、いつでも一緒である。


「相変わらず、楽しいパーティーだな」


 ライオンのたてがみを撫でながらイェーガーが言えば、ルーシーはにっしっしと元気に笑う。


「羨ましかろう?」


「ああ。頼もしい事この上無いくらいにな」


 素直にイェーガーがそう言えば、ルーシーは一瞬きょとんっとしたような顔をするも、直ぐに嬉しそうに笑みを浮かべる。


「おぉっし! それじゃ、行くぞ、みなのもの~!」


 おーっとルーシーが腕を上げれば、全員が腕と前足を上げておーっと返す。


「にっしっしっ! 行っくぞ~!」


 ぴょんっと壁から飛び降りるルーシーを見て、イェーガーとイヴは慌てて口を開く。


「『いや、逆逆!』」


 ルーシーが飛び降りたのはイェーガー達が上がって来た方であり、つまり壁の外側だ。


 二人に言われて気付いたルーシーは、着地をした後に恥ずかしそうに笑った。


「これが、アメリカ最強の魔法少女、ドロシー様ねぇ……」


『天然さもアメリカ最強ですよ』


「うむ、違いない」


「ドロシー顔真っ赤だね~」


「わんっ!」


 にししと笑うドロシーを見て、五人は気の抜けたように笑った。


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