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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
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異譚43 特別ゲスト

「緩やかだね、世界は。穏やかとも言える」


 誰に言うでも無く、男はただ思った事を口にする。


 異譚が無いだけで、世界はこうも穏やかに進んで行く。勿論、穏やかに進まない部分もあるけれど、世界的に見れば誤差の範囲である。


 本当に、異譚など無ければ良いのに。異譚など無ければ、この穏やかな世界は続いて行く事になるのだから。


「出来る事なら、君には異譚の無い世界でゆっくりと生きていて欲しいけれど……そうもいかないのがこの世界だ」


 男が諦めたようにそう漏らした直後、四つの強大な魔力が世界に産み落とされる。


「刻限だ、朱里」


 男は開いて持っていた懐中時計を閉じる。


「この異譚で君は確実に鍵を使う事になる。アトラク=ナクアの時のようにはいかない。君は、鍵を使わざるを得ない」


 産み落とされた四つの異譚を眺めながら、男――エイボンは言う。


「運命と対峙する時だ。朱里。どうかお願いだ――」





 ――死んでくれるなよ。





 けたたましく鳴り響く警報に眉を顰めながら、アリスと朱里は童話のカフェテリアへと急ぐ。


 時刻は夜中の二時。春花と朱里は一緒に家を出て、その後に人気(ひとけ)の無い所でアリスに変身したのだ。


「ったく! すやすや寝てる時に!」


「……しゅ……ロデスコ、寝癖」


 癖で朱里と言ってしまいそうになり、慌ててロデスコと言いなおすアリス。あくまで、朱里と呼んでいるのは春花なので、アリスは今まで通りロデスコと呼ぶのが自然なのだ。


「やって!」


「分かった」


 何をとは言わない。言わなくとも、アリスは理解する。


 走りながら、アリスが出した櫛が朱里の頭を優しく撫でつけて寝癖を梳かす。


 朱里の寝癖が直るくらいに、二人は童話のカフェテリアに到着した。


 既にカフェテリアには数人が到着しており、ブリーフィングの開始を待っていた。


 アリスと朱里が到着して直ぐに残りのメンバーも到着し、直ぐにブリーフィングが開始された。


「ブリーフィングを始めるぞ。と言っても、まだ異譚内部の情報はまだ届いていない。が……今回は全員出動になりそうだ」


 沙友里が苦々しい表情で告げる。


 異譚内部の状況は分からないのにそのような顔をするという事は、内部の情報が分からなくともその異譚が脅威だと判断出来たと言う事だろう。


「まず異譚侵度だ。異譚侵度はS」


「またかよ……」


 沙友里の言葉に、珠緒が溜息交じりにこぼす。


「ああ。まただ。それだけだったら、まだ良かったのだけどな……」


「異譚侵度Sより最悪な展開ってある? 上位者の介入とか?」


「いや、もっと単純だ」


「単純、ですか?」


「ああ。異譚侵度S。それが同時に四つ(・・・・・)発生した」


 沙友里の言葉に、全員が息を飲む。


「嘘でしょ……」


「嘘では無い」


 言って、沙友里はスクリーンに画像を映す。


 映し出されたのは衛星写真。夜なので分かり辛いが、不自然に黒く塗り潰されたような丸が四つ確認できる。


「ヴルトゥームの時も同時多発だったけど~……」


「あの時とは異譚侵度が比べ物にならないわね……」


 異譚侵度S。今まで経験した異譚侵度Sは三回。前橋で発生した二体の異譚支配者による異譚。海上都市での異譚。そして、瑠奈莉愛が異譚支配者に変成した時もまた異譚侵度はSだった。


 正確に数字を出す事は出来ないけれど、ヴルトゥームの時もアトラク=ナクアの時も、異譚侵度Sに相当する被害と難易度だった。実際にはヴルトゥームの場合は限りなく異譚侵度Sに近いAといったところであり、アトラク=ナクアに関しては異譚侵度では測れない程の脅威ではあったけれど。


 ともあれ、死闘を繰り広げた異譚が四つ同時に出現したとなれば、少女達が緊張の面差しになるのも無理からぬ事である。


「編成はどうするの?」


 ただ一人、アリスだけは常と変わらぬ無表情で沙友里に訊ねる。


「私としては、多くても二チームとしたいところだが……今回は四チームで出撃して貰う」


「四? 少数精鋭とはいえ、人数が少なすぎませんか?」


「私は一人でも平気」


「右に同じく」


 アリスと朱里が単独行動でも平気だとアピールする。強がりでも自信過剰な訳でも無く、純粋に今の二人の実力であれば一人でも上手くやる事が出来ると考えているからだ。


 それに、超高速戦闘を得意とする二人に追従出来る魔法少女は少ない。唯一追従出来たとして、ポケットに入れるサンベリーナくらいだろう。まぁ、追従とは言えないけれど。


「いや、チームは既に決まっている。言っておくが、文句は無しだからな」


「文句では無く、提案」


「安全マージンを考えれば一人でも多い方が良いだろう。それに、今は一人でも多く人手が欲しいんだ。お前達の高速戦闘についていけなくとも、他の面々のサポートは出来るからな」


「まぁ、確かに」


「では、チームの発表だ。北の異譚には朱里、餡子、笑良。南の異譚にはアリス、詩、みのり。東の異譚には白奈、唯、一だ」


「……って、それだとあたし一人じゃね?」


 西以外の各方角に三人ずつ配置されているので、一人だけ余ってしまう珠緒。流石に異譚侵度Sの異譚に一人で向かうのは不安なのか、取り繕う事無く表情に出てしまっている。


「そこは安心してくれていい。タイミングが良いんだか悪いんだか、特別ゲストがお前のチームメイトだ」


「特別ゲスト?」


 珠緒がそう聞き返した直後――


「ヤァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 ――少女達が座っているソファの後ろから、奇声を上げて一人の少女が飛び出した。


 あまりに急な奇声に、アリス以外の全員が『ぎゃぁ』だの『きゃぁ』だの悲鳴を上げる。


 そこに立っていたのは一人の少女。輝かしいばかりに光を反射する美しいプラチナブロンドの髪を二つの三つ編みにした、青い瞳を持つ美少女は両手を元気良く上げて満面の笑みで驚き顔の少女達を見やる。


「こんちゃ!! 遊びに来たよぉ!!」


 夜中にも関わらず元気な声を上げる少女の名は、ルーシー・ジェラルド。アメリカが誇る最強の童話の魔法少女である。


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