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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
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異譚41 みのりの事情

 仲睦まじく互いを呼び合う二人を見て、みのりはゆらゆらとした足取りで二人に歩み寄る。


「おはよ、みのり」


「お、おはよう。そ、そんな事より、ど、どうして名前を呼び合ってるのかな? い、いつの間にそんなに仲良くなったのかな?」


 挨拶もそこそこに、みのりは直ぐに二人が名前で呼び合う事について言及してくる。


「どうしてって、仲良くなれば当然でしょ? アタシだって、アンタの事みのりって呼んでるし」


「そ、そうだけど。あ、有栖川くんは、お、男の子だよ? ちょ、ちょっと距離を詰めすぎじゃないかな?」


「そりゃあ、仲が良いんだから距離くらい近くなるわよ」


 そう言いながら、朱里は春花にぴたりと肩を付け、こつんっと春花の頭に自身の頭を軽くぶつける。


「破廉恥ぃぁぁぁぁああああああああああああああ!!」


 直後、奇妙な奇声を上げて二人を引き剥がすみのり。


 その奇声に三人の事を見ていなかったクラスメイト達も、びくっと身を震わせて三人の方を見る。


 クラスメイト達の視線など気にした様子も無く、みのりは引き剥がした春花を大事そうに抱きかかえながら血走った目で朱里を見る。


「不潔!! 破廉恥!! ドスケベ魔法少女!!」


「うるっさ……てか、何よその言いぐさ。別に変な事してないでしょうよ」


「あ、頭こつんってした!! ああ許せない!! 忌々しい!! 羨ましい!!」


 歯をむき出しにして唾を飛ばしながら咆えるみのり。


 いつものおどおどとしたキャラは何処へやら。まるで獣のように荒々しいみのりを珍しいモノを見るような目で見る春花。


 因みにみのりがこれほどまでに荒れているのにも理由がある。


 最近、多忙を極めている春花は対策軍に顔を出す時間が少ない。バイトとして事務作業をしている時間は変わらないけれど、アリスとして常駐する時間が明らかに減っている。


 一度帰って朱美とご飯を作ったり、菓子谷家に行って家事を手伝ったりもしているので、アリスになる暇が無いのだ。


 春花としては最低限顔を出したり、休日にはしっかり訓練をしているので、問題は無いと認識している。むしろ朱里や沙友里からはもう少し休んだ方が良いと言われているくらいだ。


 身体に不調は無いし、疲れが溜まっている訳でも無いので、今まで通りこなしている。それに、せっかく朱美が前向きになってくれたのだ。協力したいと思うのは当然である。


 ともあれ、春花がアリスとなる頻度は減った。春花として対策軍に居る時も、基本的には事務局で事務仕事を行っているので、童話のカフェテリアに赴く事は殆ど無い。


 よって、みのりが春花とアリスに会う機会は激減したのだ。その上、朱里の家へ居候をし始めてから、みのりの日課だったストーキングも出来なくなり、悪い夢にうなされる春花を癒すというご褒美も無くなってしまった。


 チェシャ猫からは『キヒヒ。サンベリーナ、クビ』と言われて、一方的に解任させられたので、当然納得出来るはずも無い。食い下がろうとした時には既に姿を消していたので食い下がる事も出来ず、『む゛ぅぅぅぅうううううう!!』っと唸って地団駄を踏んだ。


 因みに春花は眠っている間に夢にうなされる事は少なくなった。うなされても、ヴルトゥームがテレパシーで干渉して上手く鎮静させてくれているので、みのりに頼む必要も無くなったのだ。


 ヴルトゥームは誰に言われるでも無く、勝手にうなされている春花を鎮静させている。出来る植物ヴルトゥームは日頃の恩を忘れないのだ。


 その結果生まれたのが、この悲しき生き物である。


 春花に会えないフラストレーションから少しでも春花と仲良くしている朱里を見ると、獣の如き野性を抑える事が出来なくなってしまう。


「そんなね、べたべたするものじゃ無いんだよ!! 異性なんだから!!」


「今まさにべたべたしてるアンタはどうなのよ」


「こ、これは仕方無くだよ!! しゅ、朱里が不純異性交遊をしてるから、仕方無くこうして引き剥がしてるんだよ!!」


「あら、それは聞き捨てならないわね」


「あー……面倒なの増えた……」


 みのりの言葉を聞いて、いつの間にか登校して来ていた白奈が音も無く朱里の背後を取る。


「聞き間違いかしら? 今、不純、異性、交友、と、聞こえたのだけれど?」


 白奈はゆっくりと朱里の肩に手を置く。ぐぐぐっと力を込めてくるので普通に痛い。


「コイツが勝手に言ってるだけよ」


「じ、事実だよ!! 朱里はドスケベ大魔神だからね!!」


「誰がドスケベ大魔神よ。小学生みたいな事言ってんじゃ無いわよ」


「そう。なら有罪ね」


「だから、何もしてないっての。コイツが過剰反応してるだけよ。てか有罪判決早すぎんでしょうが」


「そう。でも、念のため詳しく聞かせて貰えるかしら? 朱里は何をしたのかしら? 事と次第によっては、ね?」


「はぁ……ダメだコイツら。全然話聞かない……」


 既に狂戦士状態(バーサーカーモード)に突入してしまっている二人に、思わずげんなりする朱里。


「な、名前で呼び合ってたよ!」


「そう。死刑ね」


「そ、それに、肩をくっ付けて頭こつんってやってたよ!」


「あら、死刑ね」


「あ、あとあと! それで得意気になってたよ!」


「まあ、死刑ね」


「最後のアンタの主観でしょ! てか、刑が重すぎんでしょ!!」


「大丈夫よ」


「何が!?」


「一瞬で終わらせるから」


「何も大丈夫じゃ無い!」


「安心して任せて」


「任せられるか!」


 わーぎゃーと朝から騒がしくする四人――春花は当事者にも関わらず蚊帳の外だけれど――を見て、クラスメイト達はなんだただの日常風景かと納得して自分達の時間に戻る。


 きっと、春花が二人の事を名前で呼べばそれで解決するのだろう。何せ、二人とも仲良くしてくれているクラスメイトだ。苗字よりは名前で呼ばれた方が、距離が縮まった感じがして嬉しく思うのだろうとは分かっている。


 だが、それはなんだか違うような気がするのだ。上手くは言えないけれど、春花の中で何かが違うような気がする。


 なので、春花が出来る事は静観である。上手く言いくるめられる自身も無いし、二人を宥められる自身も無い。朱里に頑張って貰う他無い。いつも騒ぎの中心に居るのだ。二人を宥める事くらい慣れっこだろう。


 騒ぐ三人の間に入れない春花は、そろそろ席に着きたいなと思いながら事の成り行きを見守るしかないのであった。


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― 新着の感想 ―
観葉植物さん結構役に立ってた…
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