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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
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異譚35 ごほーこくがあります!

息抜きに別の連載をスタートしました。とりあえず一章だけは頑張る予定です。

「ダンジョンが現れた世界で、オレだけ〇〇〇〇だった」になります。

https://ncode.syosetu.com/n8701ki/

よければチラ見してってください。

 朱美が少しでも何かを出来るようになっても、それで終わりではない。


 朱里が朱美を愛している。が、朱美が朱里をどう思っているかは分からない。


 こればっかりは、春花だけでどうにか出来る事ではないだろう。真弓や千弦のように、本人同士で話しをする必要がある。


 ただ、朱美は朱里を怖いと思っているので、今のままで話し合いが出来るかは分からない。その朱里を怖がる原因となった部分を解決するには、朱里が話をしたくない部分を話さなければいけない事になるけれど、朱里と話をしたがらない朱美に話をするには、春花の方から伝えなければいけない。


 だが、きっと朱里は春花には聞かれたくはないだろう。そう考えると、やはり二人がちゃんと話し合うべきなのだろうけれど……。


「むつかしい……」


「キヒヒ。何がむつかしいんだい?」


 授業が終わり、今はお昼休み。春花はチェシャ猫を抱っこしながら、自動販売機に向かっていた。


「色々」


「キヒヒ。そっか」


 人気(ひとけ)が無いとはいえ、いつ誰と遭遇してもおかしくはない。そのため、朱里の家庭事情を口にする事はしない。


 自動販売機に辿り着くと、お金を入れてチェシャ猫にボタンを押させる。出て来たペットボトルのお茶をチェシャ猫に抱えさせて、春花は教室へと戻る。


 授業中にうんうん悩んでみたものの、結局は当人同士が話し合わなければ解決しない問題で、春花はその話し合うまでの間を埋める事しか出来ない。


 人間関係の修復は容易ではない。それこそ、他人の気持ちを理解するのが難しいと自負している春花では尚更だ。


「おや?」


 教室に戻るといつも通り春花の席の周りに朱里、白奈、みのりが座っていた。だが、春花の席に誰かが座っていた。


「あ、来たわよ」


「にょっ!」


 教室に入って来た春花に朱里が気付けば、春花の席に座っていた人物――真弓が弾かれたように春花の方を見る。


 口の周りにソースが付いているので、お弁当を食べていたのだろう。真弓のお弁当が見当たらないので、食べていたのは春花の作ったお弁当だろうけれど。


「春ちゃ~ん!!」


 席を立ち、どったどったと荒い足取りで春花に駈け寄る真弓。


「え、ちょ」


 まったく勢いを殺さず、そのままの勢いで春花に飛び掛かる真弓。


 危険を察知したチェシャ猫はお茶を抱えたままさっと姿を消し、春花が座っていた椅子に現れる。


 しかして、当の春花はチェシャ猫の様子など気にする余裕も無く、真弓に勢い良く抱き着かれる。


「うわっ」


 小さく悲鳴を上げながら、何とか真弓の攻撃(抱擁)の勢いを殺すために後ろに下がる春花。しかし、完全に勢いを殺しきれなかったので、真弓を振り回すようにくるくると回ってしまう。がっつんがっつん机やロッカーに脚が当たっているけれど、真弓は痛がる様子はない。


「な、ななななななななんっ!? な、何をしてるのかな!?」


 真弓の突然の行動に慌てた様子で席を立つみのり。


 周りのクラスメイトも真弓が突然強烈なハグをかましているので、訳が分からず困惑している。


「あの、どうかされました?」


 しかして、当の本人に慌てた様子はない。冷静に何かあったのかと訊ねると、真弓は嬉しそうに笑みを浮かべながら春花から離れる。


「にゅふふ。今日ね、今日ね、千弦と一緒にお弁当作ったの!」


「! そうですか。一緒に作ったんですね」


 真弓の報告を聞いて、春花は温かい笑みを浮かべる。


 今まで見た事無い春花の温かい笑みを見たクラスメイトは、どきっと心臓が跳ねて顔を赤らめる者が続出する。


 そんな周囲の反応を気にした様子も無く、春花と真弓はお喋りを続ける。


「ちゃんと、千弦さんとは話せましたか?」


「うん! ちゃんとお話出来たよ! 千弦があんなに大人になってたなんて、まゆぴー知らなかったよぉ」


「矢羽々さんが思ってる以上に、千弦さんも矢羽々さんの事を思ってますよ」


「うん! いっぱいお話して、すっごく身に染みたにぇ~」


 あの後、ちゃんと千弦と話をしたのだろう。千弦が思っている事、考えている事、全部素直に話せたのだろう事は、真弓の反応を見て分かる。


「お弁当、美味しく出来ましたか?」


「うん! しっかりお婆ちゃんに教えて貰ったからにぇ! 折角作ったから、春ちゃんと一緒に食べようと思って!」


「そうですか。じゃあ、皆と一緒に食べましょう。……まぁ、矢羽々さんは、もうすでに食べてるみたいですけど?」


「ぎくぅっ!? そ、そんな事、にゃいよ~?」


 まさか気付かれているとは思っていなかったのか、春花の言葉にびくっと素直に反応を示してしまう。


「口の周りにソース付いてますけど?」


「つ、付いて、無いよ?」


「僕が作ったハンバーグのデミグラスソース色ですけど?」


「あ、う、ぐぅ、ぎぃぃぃぃ……っ」


 何も言い訳が思い浮かばなかったのか、苦しそうな声を漏らす真弓。


「……ごめんなさい。食べました」


 しゅーんと肩を落として謝る真弓。春花を待っている間に、重箱に美味しそうなハンバーグがあったものだから、ついつい手が伸びてしまったのだ。


「ふふっ、大丈夫ですよ。ちょっとからかっただけです。さ、皆と一緒にご飯食べましょう」


 そう言いながら、ポケットからポケットティッシュを取り出して、真弓の口周りに付いたソースを優しく拭う。


 真弓は特に抵抗する事無くなすがままである。


 その光景を見ていたみのりが「わっ、なっ、わっ、あっ」と謎の声を上げていたけれど、朱里からすればいつもの光景であるので特に気にはしない。白奈は何故か感慨深そうにその光景を見ている。


「お待たせ。チェシャ猫、お茶ありがとうね」


「キヒヒ。良いんだよ」


 チェシャ猫は春花が座った膝の上にちょこんと座る。


 真弓と一緒に席に着き、早速ご飯を食べる。


「ではでは。にゃにゃ~ん!」


 真弓は春花の前にお弁当を置き、かぱっとお弁当の蓋を開ける。


「おぉ」


 お弁当を見て、思わず感嘆の声を漏らす春花。


「上手に出来てますね」


「にぇへへぇ」


 ラインナップは春花が初めて二人の料理を食べた日と変わっていないけれど、あの日よりも上手に出来ているのは一目見れば分かる。


 お婆さんの意向で、料理に慣れる為に同じ物を二人だけで作れるようになるまで何度も練習したのだ。そして今日のお弁当は、二人だけ作った初めてのお弁当なのである。


「ささ、食べて食べて~」


「はい。では、いただきます」


 春花は箸を伸ばし、卵焼きを食べる。


「……どお?」


 不安そうに春花の顔を覗き込む真弓に、春花はにこっと優しい笑みで返す。


「うん、美味しいです。上手に出来てますよ」


 春花が素直にそう言えば、真弓はぱぁっと華やいだ笑みを浮かべる。


「にぇ、にぇへへぇ……春ちゃんに褒められると、すっごく嬉しいなぁ」


「ふーん。どれどれ」


 照れている真弓を他所に、朱里がにゅいっと箸を伸ばして筑前煮を摘まむ。


「はむっ……うん、うん。んん。美味しいじゃない。しっかり味沁みてるわよ」


「ほんと?」


「ええ」


 朱里も素直に美味しいと口にする。


「ど、どれどれ~」


 みのりも気になったのか、豚の生姜焼きに箸を伸ばし、ぱくりと食べる。


「うん。お、美味しいよ! 朱里よりも上手に出来てると思うな!」


「おい、何故そこでアタシを下げる」


「にぇへへぇ」


 褒められて悪い気はしないので、だらしなく頬を緩める真弓。


「ちょっと貴女達。有栖川くんが食べる分が無くなっちゃうでしょ」


「へーきへーき! 春ちゃんにはまた食べて貰うから~。お姫ちんも、はい、ど~ぞ~」


 そう言って、真弓は箸でつまんだ卵焼きを白奈に向ける。


「そう? なら、いただこうかしら」


 白奈は餌付けされるひな鳥のようにぱくっと卵焼きを食べる。


「あら、本当に美味しいわね。ちゃんとふっくら仕上がってる」


「ふふふ~、でしょでしょ~?」


 白奈にも褒められ、真弓は嬉しそうに口角を上げる。


「キヒヒ。()みたいににんまりだね」


「ふふっ、そうだね」


 それだけ、料理を出来た事、その料理を褒めて貰えた事が嬉しかったのだろう。それに、千弦の考えをしっかり理解できたことも大きいだろう。


「あ、そうそう! 言い忘れてたよ~」


 にゅふふと笑っていた真弓が、唐突に何かを思い出したようにぽんっと手を叩く。


「春ちゃん春ちゃん」


「ん、なんですか?」


「ごほーこくがあります!」


 言って、びしっと敬礼をする真弓はなんて事無いように笑顔で告げた。


「このたび、菓子谷家に養子縁組をしていただく事になりました!」


「「「「え?」」」」


「キヒヒ?」


 唐突の報告に、四人と一匹の思考は見事に停止したのだった。


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