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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
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異譚26 避けて、避けられて

 結局のところ、その日は家で夕飯を作って朱美と一緒にご飯を食べるだけだった。食卓を囲んだので進歩と言えば進歩だけれど、核心に触れる話は出来なかった。


 春花が『ご一緒しても良いですか?』と訊ねれば、朱美はゆっくりとだが確かにこくりと頷いてくれたのは、ある程度の関係値を築けたと考えても差し支えないだろう。


 それ以上の話が出来なかったのは、単に朱美の体力の問題だったのだろう。ご飯を食べた後、朱美は眠たそうな目をしていた。今日は泣きながら話をしていたので気力も体力も限界だったのだろう。


 今日はもうお休みしましょうと言って、春花は食器を持って朱美の部屋を後にした。


 春花としてももっと考える時間が欲しかったので、時間を得られた事は僥倖であった。


 翌日である日曜日は春花も対策軍に向かわなければいけなかったので、朱美と朝食を摂った後に朱里と一緒に家を出た。お夕飯を一緒に食べたので、朝御飯も一緒に食べられるだろうかと思い声を掛けてみたら、今度も頷いてくれた。そのため、朱里がランニングをしている間に、朱美と朝食を済ませていた。


「アンタ、あの人と上手くやっていけてるみたいね」


 対策軍に向かう最中、朱里は感情を感じさせない声音で春花に言った。


「そうかな?」


「そうよ」


 春花としては朱美と上手くやっていけているという自信は無い。泣いて事情を話してくれたり、一緒にご飯を食べてはくれているけれど、それが上手くやっていけているという事になるのかは分からない。


「あの人が誰かを部屋に入れるなんて初めてだもの。……まぁ、宗教に入った時に縁を切られたみたいだから、友達なんて一人もいないらしいけどね」


「そうなんだ……」


 朱美の友人からすれば、『面倒のかかる友人』から『面倒を持ってくる友人』に変わってしまったのだ。元々良い噂を聞かない宗教団体だったために、朱美と縁を切るのに迷いは無かった。


それに、朱美の方も友人とは連絡を取り合わなかった。そもそも当時は連絡手段すら持ち合わせていなかった。風の噂で朱美の事情を知った友人が、別の友人に事情を話し関わらない方がいいと促す。その繰り返し。


そうやって、朱美の知らない内に朱美は友人達から縁を切られていった。それを知ったのは、宗教を抜けて少ししてからだった。


「アタシも、あの人の部屋には入った事無い。そもそも避けられてるし、アタシも避けてるし」


 どうして、と聞いても良いものかと少し悩んで、それと同時に今まで気付かなかった当たり前の疑問に気付く。


 互いが互いを避けているのであれば、どうして二人は一緒に住んでいるのだろうか、と。


 童話の魔法少女の中で、朱里はアリスに次ぐ高給取りだ。最初こそそんなに余裕は無かっただろうけれど、現在の給料であれば朱美と別居する事も可能だ。朱美の部屋や生活費を負担したとしても、今と同じ生活をするのは訳無いはずだ。色々な手続きが面倒かもしれないけれど、それでも嫌い合っている(・・・・・・・)相手と一緒に住む事の面倒に比べればなんてことない労力のはずだ。


 なのに、どうしてそうしないのだろう?


 そう考えると、春花は唐突に一つの答えに辿り着いた。


「東雲さんって……」


「何よ?」


「もしかして、すっごいケチ?」


「蹴り飛ばすわよアンタ」


 唐突に馬鹿にされ、言葉と同時に春花の尻を蹴る朱里。


「もう蹴ってる……」


 そこそこの勢いで蹴られたので、痛そうにお尻をさする春花。


「……私が、代わりに、さする……」


「ああ、これはどうも」


「……いえいえ……」


「ったく。急に何言い出すんだか。アタシは別にケチじゃ無いわよ。無駄な浪費はしないし、買い物する時だって本当に必要か吟味はするけど、必要だった値段を惜しまずちゃんと買うもの。どっちかというと、アンタの方がケチ臭いと思いますけどー?」


「僕はケチじゃないよ」


「半額シールとか割引シール貼ってある物ばっか買って来るくせに?」


「物が同じなら安い方が良いでしょ? それに、買われなかったら捨てられちゃうんだから勿体無いよ」


「新鮮ならそれに越した事は無いでしょーよ。消費期限とか気にして焦って料理しなくて済むし。それくらいのお金渡してるでしょ?」


「食材は新鮮な方が良いだろうけど、いつも僕が作った料理美味しいって食べてくれてるでしょ? 鮮度は腕でカバー出来るもん。それに、余らせる程買って無いから消費期限とか気にする前に全部消費出来てるし。……それとも、僕の料理、本当は美味しく無かった?」


「うぐっ……そ、そんな目で見ないでよ……。アンタの料理は、美味しいわよ。ちゃんと……」


「……うんうん……春ちゃんの、料理は、絶品……」


「本当? 良かった……」


 二人の言葉を聞いて、春花は安堵の笑みをこぼす。


 二人。そう、二人だ。


 少しして、その違和感に気付く。


「って、アンタいつの間に!?」


「あ、魚見さん」


「……やっと、気付いた……」


 いつの間にかしれっと春花の隣に並び、朱里に蹴られた春花のお尻を撫で続ける女、詩。勿論、気付かれても尻を撫でるのは止めない。


「なんでコイツの尻撫でてんのよ! アンタも嫌がりなさいよ!」


 朱里は詩の腕を掴んで春花の尻から詩の手を離す。


「自然過ぎて気付かなかった……」


「……つまり、私の手は、春ちゃんの……尻……?」


「んな訳無いでしょうが。ていうか、声掛けなさいよ。……いや、冷静に考えて、なんでアンタ声を掛ける前にセクハラしてる訳?」


「……口より先に、手が出るタイプ……」


「どっちの意味だとしても最悪だからね、アンタ」


 暴力だろうがセクハラだろうが、口より先に出て来ていいものではない。流石に人を選んでやっているのだろうけれど、だからと言ってセクハラをして良い理由にはならない。


「……それより、痴話喧嘩、してた……?」


「して無いわよ。コイツがアタシの事をケチだって言うから、否定してただけ。そもそも何で急にそんな話になったんだか……」


 説明を求めるように春花を見るけれど、朱里の家庭の話が起因しているので詩がいる前で説明をするわけにも行かない。


「え、えへへ……」


どう言ったものか悩んだ末に、曖昧に笑みを浮かべて誤魔化す春花。


「……アンタが笑うようになったのは良い事だけど、その誤魔化し笑いはムカつくわ」


「い、いひゃい……」


 笑みを浮かべる春花の頬をぐいっと引っ張る朱里。


「……やっぱり、痴話喧嘩……」


「だから違うっつーの」


「……照れるな、照れるな……」


「照れてねぇつーのー」


 不満げに否定する朱里だけれど、詩は『言わなくとも全て分かっているぞよ』と言った様子でむふむふと笑みをこぼす。


 その姿にイラっと来たので、対策軍に着いたら白奈にセクハラの件を伝えようと決めた朱里であった。


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