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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
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異譚23 汚部屋掃除開始!!

 朝食を食べ終えて、いざお掃除開始である。


 まずはリビングのお掃除から始める。


「二人は、この二つの箱に『要る物』と『要らない物』を別けて入れてください。僕はその間にごみを捨てますので」


 そう言って、春花は二つの箱に『いるもの』『いらなもの』と書いてから、自身は部屋に散乱したどう見てもごみな物を捨てていく。


 お菓子の空き箱。洋服のプライスタグ。三割くらい中身の残ったペットボトル。一つだけ残った五個入りの菓子パン。等々。


「……よくもまぁ、こんなに散らかして」


 ごみを捨てても捨てても床が見えない。ようやく見えて来たと思ったらべたべたに汚れていたり埃まみれだったり散々な有様である。


 ひとまず、ごみを全て捨てない事には床も綺麗に拭けない。春花は無心でごみを捨てていく。


 ごみを捨て続ける春花とは対照的に、真弓と千弦はうんうん悩んだ様子で仕分けを行っていた。


「これ要る?」


「うーん……どーしよにぇ?」


 千弦が持っているのはモバイルバッテリー。いつ買ったのかは定かでは無いけれど、中々に年季の入った見た目をしている。


「まだ使えるならとっとく?」


「そーだにぇ」


「じゃあ、これは要るっと」


 言って、『いるもの』の箱にモバイルバッテリーを入れる。


「次これ。どうする?」


「これかぁ。うーん……」


 と、一つ一つ吟味している二人。明らかにペースが遅い上に、明らかに要らない物に対しても時間を割いている。いや、何が必要で、何が不必要かは人による。それに、思い入れのある物かもしれない。思い入れのある物ならもっと大切にしておけよとは思うけれど。


 しかして、春花がバリバリ働いている間に、二人は同じ所に座ってうんうん悩んで選別をしている。温厚な春花も多少は(・・・)額に青筋が浮かぶ。


 春花は無言で箱をもう一つ用意し、そこに『なやむ』と書いて二人の前にどんっと音を立てて置く。


「悩む物はいったんこれに入れてください。良いですね? 少しでも悩んだらこの箱に入れてください」


「わ、分かりました……」


「りょ、了解だにぇ……」


 笑顔で箱を置いた春花を見て、怯えた様子でこくこくと頷く真弓と千弦。


 二人が頷いたのを見て、掃除を再開しようとしたところで『ぴんぽーん』とインターホンが鳴る。


「んにゅ? 誰だろ?」


 立ち上がり、真弓はインターホンを確認する。


「にゅっ!」


 インターホンの画面を見るなりそう声を上げ、ぽちっと通話ボタンを押す。


「入って入って! って、鍵かかってゆ! 開けに行くから待ってて~」


 そう言って、玄関の鍵を開けに行く真弓。


「この部屋に、人を、招待……?」


「あ、あはは……」


 この散らかりきった部屋に招待するだなんてと、思わず唖然としてしまう春花だったけれど、自分も招待されてこの部屋に入った事に気付き本当にこの惨状を気にしていないのだと納得してしまう。


「そよぷー来たぁ!」


 少しして、真弓が私服姿のそよぷーこと、微風(そよかぜ)玲於奈(れおな)をリビングに連れて来た。どうやら来訪者は玲於奈だったらしい。


「千弦ちゃん、お邪魔します。あれ、春花さんも来てたんですね。あ、割烹着。とっても可愛いです。似合ってますよ」


「ありがとうございます」


 玲於奈は挨拶するや否や、微笑みを浮かべて春花を褒める。お婆さんがくれた割烹着姿は困惑される事の方が多いので、こうしてストレートに褒められると嬉しい。


「そよぷーも手伝ってくれるって~!」


「まだ何も言ってないですが? ……まぁ、この惨状を見て手伝わない訳にはいかないですけど」


 はぁと一つ溜息を吐いて、玲於奈は荷物を比較的綺麗な場所に置く。


「今日は一緒に遊びに行こうと思っていたのに……」


「ごめんなさい。僕がお掃除しようって言ったんです」


「いえ、良いんです。約束をしていたわけではありませんし。それに、この惨状を放っておくと、隣に住む私に皺寄せが来そうなので……」


 腕をまくり、玲於奈は明らかにごみであろう物を摘まんでごみ袋に入れる。


「さ。二人も再開してください。今日中にリビングだけは絶対に終わらせますからね。サボったら……分かってますよね?」


「「は、はい!! 頑張ります!!」」


 春花の言葉にびしっと背筋を伸ばし、てきぱき動いて選別を再開する二人。


 その様子を見て、玲於奈は思わず唖然としてしまう。


「驚きました。二人がこんなに素直に言う事を聞くなんて……」


 二人が汚部屋を作り上げてしまう事は、二人の友人達の共通認識だ。だから、玲於奈達は時折掃除の手伝いに駆り出されるのだけれど、李衣菜や真昼に怒られた時だってこんなにてきぱき掃除をする事は無かった。


「魔法でも使ったのですか?」


「いえ。二人共、素直に言う事を聞いてくれる良い子ですから。ね?」


「はい! 良い子です!」


「めちゃくちゃ良い子~!」


 春花の問いに、元気な声で答える二人。


「なるほど。笑顔の圧、というやつですね。勉強になります」


「そんな、圧なんてかけてないですよ。ね、二人共?」


「圧なんて全然! 女神様は滅茶苦茶優しいです!」


「じぇ~んじぇん、そんにゃ事ありゃ~せんにぇ~!」


「なるほど。良く教育が行き届いていますね」


 ふむふむと頷きながら、何やら感心したような眼差しで春花を見る玲於奈。


「これからは何か悪さをするたびに、春花さんに叱って貰うのが良いかもしれません。二人は夜更かしでゲームをしたり、こうして部屋を散らかしたり、朝起きられなくて寝坊したりと、ちょっとだけ悪い子なのです」


「へぇ……そうなんですね」


「「ぎ、ぎくぅっ!?」」


 冷たい春花の声を聞いて、思わず背筋を伸ばす真弓と千弦。


「そ、掃除頑張んないとなぁ! あ、これ要らない! これも捨てる!」


「だ、断捨離だにぇ! 此処に置いてあるって事は、使わないって事だもんにぇ~!!」


 春花の視線から逃れるように、一心不乱に掃除を進める真弓と千弦。


「おぉ」


 今まで見た事無いくらいに真剣に掃除に取り組んでいる二人を見て、玲於奈は思わず感嘆の声を上げる。


 過去に一度も、こんなに真剣に掃除に取り組んだ二人を見た事が無い。二人が掃除をする姿に感動すら覚える。


「面白いから、りぃちゃん達にも教えてあげましょう」


 玲於奈は携帯端末を取り出し、二人が一心不乱に掃除をする動画を撮影する。そして、それをチームのグループチャットに載せる。載せて満足して、玲於奈は携帯端末を仕舞う。


 その二十分後に応援が来る事を、二人はまだ知らない。


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