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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
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異譚16 汚部屋

「上がって~。ちょっちょ汚いけど、ごめんにぇ~」


 真弓に案内され、春花は矢羽々家にお邪魔していた。


 お昼休み。真弓に弟子にしてくれと言われたけれど、春花としてはなんの弟子かも分からないので、二つ返事で承諾する訳にはいかなかった。


「なんの弟子です?」


「お料理! まゆびーにお料理教えて欲しいにぇ~」


「お料理、ですか?」


「にぇ! 色々あって、お料理上手くなりたいの~」


 先程まで見せていた落ち着いた雰囲気はなりを潜め、いつもの様な不思議に明るい雰囲気を醸し出す真弓。


「にぇ? どう? おししょーなってくれゆ?」


「お師匠と言われましても……」


「いーじゃない別に。アンタ料理上手いんだし」


 ご飯をぱくぱく食べながら、朱里が他人事のように言う。


「にぇ? おにぇが~い」


 春花の膝の上に手を置き、うにゅうにゅと潤んだ目で春花を見上げる。


「教えるのは良いんですけど……」


 毎日料理を作り、週に二日は菓子谷家で家事を行っている。その後は対策軍に行き事務仕事かアリスとしてカフェテリアで待機をしている。そうなると、あまり時間は取れないだろう。


「あぁ……アンタ、最近忙しくしてるものね。あんまり時間無いか」


「にぇ!? おにぇがいおにぇがい! ちょっとで良いかや! おにぇが~い!」


 必死に春花にお願いをする真弓。春花の膝に顎を乗せ、あざとさ全開な上目遣いで春花を見上げる。


「……あざとさ、百点満点。愛い……」


 そう言いながら、真弓の頭を撫でる詩。


「うにゅ~」


 頭を撫でられ、心地よさそうに鳴き声を漏らす真弓。


「はっ、ちにゃうちにゃう! にぇ、おにぇがいはるにゃん。お料理教えて~」


 うにゅうにゅしてはいるけれど、真弓の目は真剣な色を帯びていた。だが、流石にこれ以上タスクを溜め込むと本業にしている魔法少女の活動に支障が出てしまいかねない。


 けれど、真弓のお願いを断るのも気が引けてしまう。


「……じゃあ、手が空いてる時であれば……」


「うにゅっ! ほんと!?」


「はい」


「うにゅ~! ありがとうはるにゃん~!!」


 春花の承諾を得られて感極まったのか、真弓はがばちょっと春花に勢いよく抱き着く。


「お、おおおおおお触り禁止だよ!!」


 慌てた様子でみのりが真弓を引き剥がす。


「にぇ! にぇ! 今日は? 今日はへーき?」


 引き剥がされながらも、真弓は春花の予定を確認する。


「一度家に戻ってお夕飯の準備をしてからであれば、大丈夫です」


 今日は昨日のお夕飯の残りもあるので、ある程度おかずを作っておけば朱美のお夕飯の準備は終わる。


「分かった! 連絡すゆから! 準備出来たら迎え行くにぇ~! ばいば~い!」


 春花にそう言い残し、嵐のように真弓は去って行った。


 そうしてお昼休みが終わり、放課後。春花は一度家へと戻り、簡単なものだけれど朱美の分の料理を作ってから、駅まで向かった。駅まで向かえば真弓が迎えに来てくれるらしいので、駅で待っていると可愛いフリル過多のお洋服に身を包んだ真弓が春花を迎えに来た。


「お待たせ~。早速行こうにぇ~」


 春花を見つけるや否や、真弓は春花の手を取って自身の自宅へと案内する。


 駅から徒歩で十分程の場所に、真弓は住んでいた。


 そうして、冒頭に戻る。


 真弓は対策軍の用意しているマンションに住んでいた。朱里の住むマンションよりはグレードが落ちるものの、十分に立派な部屋であるのは一目見て分かる。


 しかして、真弓の言った通り、真弓の家は少し散らかっていた。玄関には様々な靴が散らばっており、そこから廊下にかけて靴下やら服が散乱していた。


「にょわわっ!?」


 突然、慌てたように真弓が廊下を走って何かを拾い上げる。一瞬見えたのはピンクのレースの付いたナニカ(・・・)。これは見なかった事にしようと思い、春花は玄関で散らばっている靴を眺めているふりをした。


「にぇ、にぇへへぇ……きちゃなくて、ごめんにぇ~」


「いえ」


 そんな事は無い、とは言えない有様である。


 そのままリビングへと通され、廊下や玄関とは別格の惨状に思わず絶句してしまう春花。


「……」


「にゃ、にゃははぁ……」


 春花が絶句しているのが分かったのだろう。真弓も気まずそうに乾いた笑いを零す。


 山積みになった脱ぎ散らかした服。ローテーブル一杯に置かれた物。雑多に摘まれた雑誌の山。利便性だけで買った小テーブルの上に乱雑に置かれたメーク道具。等々、上げ出したらキリがない程の乱雑さである。


 春花の視線はリビングを一周すると、そのままダイニングキッチンへと向けられる。


 シンクの中には食器がこれでもかという程詰め込まれ、コンロにもフライパンやら鍋やらが置きっぱなしになっていた。


「これは……」


 この状態では到底料理なんて出来ない。


「……よし」


 一つ気合を入れて、春花は鞄に入れていた割烹着を取り出す。


「か、割烹着!?」


 割烹着を取り出した春花に驚く真弓。しかし、春花は気にした様子も無く、慣れた調子で割烹着に袖を通す。


「まずはお掃除です。話はそれからです」


「は、はい」


「洗剤やスポンジはありますか?」


「あ、あります」


「ちょっと、お借りしますね」


 春花はずかずかとキッチンへと向かい、おもむろに掃除を始める。


 いつ使ったか分からない食器は異臭を放っているけれど、春花は気にした様子も無くスポンジに洗剤を付けて食器を洗い始める。


「矢羽々さんはリビングにあるごみを袋にまとめてください」


「え」


「まとめてください」


「ひゃ、ひゃい!」


 珍しく圧のある春花の声に、真弓はびくっと身を震わせながらも返事をし、ごみ袋を用意してリビングに散乱しているごみを片っ端から入れていく。


「にぇ、にぇぇ……料理は……」


「キッチンがこんな状態で、料理なんて出来ると思いますか?」


「い、いえ……」


「さっきも言いましたけど、料理は掃除をしてからです。こんな状態で料理だなんて……そもそも、こんなに汚れてたんじゃ健康な生活だって出来ないですよ?」


「は、はいぃ……」


「どうして料理を教えて欲しいのかは分からないですけど、まずは住む環境を綺麗にしてからです」


 そう言うと、春花はせっせと食器を片付ける。


 春花から謎の圧力を感じて、真弓は春花の言葉通りにお掃除を行う。少しでも手が止まると春花が声を掛けて来るので、真弓は休む間も無く掃除を続けるはめになったのだった。


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