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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
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異譚15 弟子にしてください

 残暑はとうに無くなり、涼やかな日が続いている。過ごしやすい気候ではあるけれど、少し肌寒くはなって来たように思う。


 そろそろ冬服の準備をしなければいけないかもしれないと、余計な事に思考を逃がす。


 朱美の意味深な言葉を聞いてから、幾日が経過した。あれ以来、朱美は春花とは接触してこない。以前のように、春花が用意したご飯を残さず食べてくれているのは良い事なのだけれど、こちらとしてはもっと詳しく話して欲しい所ではある。


 春花は、朱里が理由も無く人に手を上げるとは思っていない。それこそ、何か看過できない理由があったのだろうとは思うけれど、その理由が春花には分からない。


 沙友里であれば何か知っているかもしれないけれど、沙友里に聞くのはちょっと違う気もする。きっと、本人達の口から直接聞かなければいけない内容だろう。


 だからと言って、本人達が話したく無い内容だった場合、無理に聞こうとするのも憚られる。春花だって、自分に起きた嫌な事なんて話したくは無い。まぁ、今のところ憶えていないだけだろうけれど、そういう記憶が無いのでそんな心配はいらないのだけれど。


 ともあれ、やはり他所の家の家庭事情に首を突っ込むのは簡単な事ではない。朱里はいつ出て行っても良いと言っていたので、ゆっくりと問題を解決しようと思う。性急に事を進めては、きっと得られる結果など目に見えているだろうし。


 なんて、ぼんやり考えている間に午前最後の授業は終了。お昼休みに入り、生徒達は思い思いに休み時間を過ごす。


「何ぼんやりしてんの? 体調でも悪い?」


「ううん、大丈夫。ちょっとぼーっとしてただけ」


 春花の体調を心配しながら、春花の前の席に腰を下ろす朱里。もはやそこは彼女の定位置となっており、本来春花の前に座っている名も無きクラスメイトは休み時間のたびに即座にその席を離れるようにしている。


 白奈がそのクラスメイトに「大丈夫? もし二人が迷惑をかけているようだったら言ってね? 私の方から場所を移すように言っておくから」と言ったところ、名も無きクラスメイトは眼鏡をくいっと押し上げてから答えた。


「実は僕、恋愛小説や少女漫画が好きでしてね。彼等が主役なら、僕はモブKと言ったところでしょう。モブの僕は壁となり彼等の織り成す甘酸っぱい青春を眺める。それが良いんですよ。ああ、勘違い無きように。盗み聞きはしていません。ふとした瞬間に、お二人の楽しそうな瞬間を目撃できれば、それで良いのです」


 そう言って、名も無きクラスメイトーーモブKくんはもう一度眼鏡をくいっと上げてから友人の元へと向かったのだった。


 顔には出さなかったけれど、変な人だなとは思ってしまった。自意識過剰では無いにしろ、白奈は自身のルックスにある程度の自信を持っている。そんな自分に声を掛けられても赤面一つもしないのは男子としては稀有な存在であろう。


 それに、言っていた以上の下心は感じなかった。本当にそれ以上の気持ちは無いのだろう。


 まぁ、二人を恋愛小説の主役に例えるのは気に食わない気持ちが湧くけれど、朱里が迷惑をかけていないのであればそれで良い。


 そんな事とはつゆ知らず、二人は今日も今日とて定位置でお昼ご飯を食べる……のだけれど、今日のお弁当は様子が違った。


 どんっと春花が机に大きい包みを置く。春花が教室に入って来た時から気になっていたけれど、聞くに聞けずにいた可愛い猫がプリントされた風呂敷で包まれた大きい包み。


「まさか、本気で作って来るとはね……」


皆が(・・)食べたいって言うから」


 以前、春花が対策軍にお弁当を持って行った際に、朱里だけ食べられるのがずるいという不満が続出した。あんまりそういう事を言わなそうな珠緒も珍しく不満げに「ずりぃ」と言っていた。


 それを聞いた春花は、「毎日人数分は無理でも、時間に余裕がある日なら作れますよ」と言った。


 結果、高校生組は学校でも会えるのでお昼ご飯を作って貰う事にした。中学生組は放課後に対策軍にお弁当を持って行く事で納得をして貰った。


 因みに、徐々に童話のカフェテリアの調理器具が充実していっているので、その内童話のカフェテリアで料理をする事になりそうだと薄々感じている春花である。


「お待たせ~。来たわよ~」


「……腹、減った……」


 一年生のクラスだけれど、物怖じする事無く教室に入って来た笑良と詩。クラスメイト達は驚いているけれど、二人を見て風呂敷の中身を理解する。


「机くっ付けましょうか」


「そ、そうだね」


 他のクラスメイトの机をくっ付けて、その中心に風呂敷から出した重箱を置く。重箱の一段目はおにぎりになっており、二段目に色とりどりのおかずが入っている。


「おぉ~、美味しそう~」


「……じゅるり……」


 椅子を借りて、全員が机を囲うように座る。


「さ、食前の挨拶して」


 朱里が春花に向けてそう言えば、春花は特に疑問に持つ事無く手を合わせる。


「分かった。では、いただきます」


「「「「「いただきます」」」」」


 食前の挨拶をして直ぐ、詩はおにぎりに手を伸ばし、辛抱溜まらんとかぶりつく。


「……んぅ……美味、美味……」


「本当に美味しいわね~」


 もぐもぐと美味しそうにお弁当を食べる詩と笑良。


「……大所帯ね。次からはどっか別の所にする?」


「そうね。食堂とか良いんじゃないかしら? お弁当だけの人も利用できるみたいだし」


「な、中庭で食べるのも良いと思うよ! わ、わたし、レジャーシート持って来るね!」


 朱里達もお弁当に舌鼓を打ちながら、教室以外で食べられる場所の話をする。


「あ~! 美味しそうなの食べてゆ~!」


 六人がお弁当を食べていると、聞き覚えのある声が笑良の後ろから聞こえてくる。


「真弓じゃない。どうしたの? 一年に用事でもあるの?」


 笑良の背後から覗き込んでいたのは、星の魔法少女の一人である矢羽々真弓であった。真弓も同じ学校なので居る事に不思議は無いのだけれど、真弓は高校二年生だ。一年の教室に居るのは普通ではない。


「うにゅ? にゃいよ~。えららんとうーたんが見えたから追って来ただけ~」


 えららんは笑良、うーたんは詩である。名前で呼ばれる事の方が多いので、二人は気に入っている。


「美味しそうだにぇ……じゅるり」


「良かったら、食べますか?」


「にぇ!? 良いにょ!? わーいやったー!」


 春花のお誘いに全身で喜びを表現する真弓。


 おにぎりを一つ取り、ぱくりと一口。


「――ッ!! これは……」


 かっと目を見開いて、そして更にぱくり、ぱくりと味わうようにおにぎりを食べる真弓。


「おかずも食べてください」


「里芋の煮っ転がしとか、味が染みてて美味しいわよ~」


「ではいただきます」


「え、喋り方そんなだった?」


 真剣な眼差しで笑良から箸を受け取り、里芋の煮っ転がしを食べる真弓。


 常のテンションとは違う喋り方に少しだけ驚く一同。


 皆のリアクションに気付かぬまま、里芋の煮っ転がしを食べた後で、真弓は静かな口調で言う。


「このお料理を作ったのは、いったいどなた?」


「僕、ですけど……」


「なるほど」


 頷き、真弓は春花の元へ寄り、その場に片膝を付く。


「春花ちゃん」


「はい……」


「まゆぴーを、弟子にしてください」


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― 新着の感想 ―
モブK君おもしれー奴だったw
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