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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第2章 三本の剣

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異譚17 トライ・アンド・エラー

 合同訓練二日目。


 二日目の内容は中距離戦。要所を抑えて、普段の訓練に生かすための切っ掛けを作るのが今回の合同訓練の内容になっており、一日目に近接、二日目に中距離、三日目に遠距離の訓練をする事で、最終的に全ての距離(レンジ)での戦闘を織り交ぜて異譚支配者(アリス)と戦闘をする。


 なので、今日は中距離戦の訓練だ。


 因みに、今回は星の魔法少女達も最初から参加している。


「まずは動いていない(まと)


 アリスが(まと)を作り、離れたところに設置する。


 的には可愛くデフォルメされたチェシャ猫が後ろ足で立っている絵が描かれている。


「……撃ちづらい」


「気にしないで。バンバン壊して」


 言いながら、アリスは剣を生成する。


「私の魔法は融通が利きすぎるから、多分参考にならない」


 生成された三本の剣が自動的に照準を合わせるように切っ先を的に向け、同時に射出される。三本の剣は狙い違わずチェシャ猫(絵)の頭を貫く。


『『『痛いニャー』』』


 頭を貫かれた的からそんな声が聞こえてくる。


「いや、やり辛いです!」


「なんで声まで入れたんだい!?」


「当たったかどうか分かりやすい方が良いと思って」


「じゃあ別の音にしてくれないかな!?」


「我が儘……」


「当たるたびに痛いって言われたら誰だって心が痛みますよ!」


 加えて言えば、的にされているチェシャ猫はアリスの頭の上にちょこんと乗っているので、本()に見られながらチェシャ猫の描かれている的を狙う事になり気まずさは倍増である。


「キヒヒ。()は気にしないよ」


「した方が良いと思うけど……」


「ともかく、まずは止まった的を狙う練習。自分の魔法を撃ち出すイメージを強固にして、撃ち出す感覚を身体に叩きこむ。そうすれば、魔法の発動も早くなる」


 強引に話を切り、アリスは訓練の開始を宣言する。


 釈然としないまま、皆が的を狙って魔法を放つ。


 多くの魔法少女は武器を生成して魔法を放つ。例えば弓を生成して矢を放つ。この弓と矢は魔法であるが役目が違う。弓はよく在る魔法使いのイメージで言う杖であり、矢は杖から放たれる攻撃などの事象である。


 アリスのように剣だけ生成して飛ばしたり、スノーホワイトのように氷を飛ばしたりする者もいるけれど、多くの場合は武器を生成した上で攻撃魔法を放つ事が多い。


 それは、武器を使った方が魔法を放つイメージをしやすいからである。魔法はイメージが大事であり、正確なイメージを持つ事で威力や精度が向上する。


 弓や銃、ボウガンに杖、自分のイメージしやすい武器を使って相手に攻撃魔法を放つ魔法少女達。


『痛いニャー』


『痛いニャー』


『痛いニャー』


 魔法が直撃するたび、目をバッテンにして痛がるチェシャ猫の的に全員微妙そうな顔をする。


 止まっている的であれば問題無く当てる事が出来ているので、次のステップに移る。


「次は的を動かす。上下左右に動くだけだから、少し簡単」


 ぱちんっとアリスが指を弾いて鳴らせば、的が上下左右に動く。


 上下左右と言っても、限界まで右に行ったら左に戻るという規則性のある動きでは無く、フラフラとランダムに自由に動き回る。


 動き出すチェシャ猫の的に新米魔法少女達は苦戦するけれど、ある程度実戦を経験している先輩魔法少女達は慣れたもので、楽々と的に当てている。


「む、難しい……」


「ちょ、遠く行かないでよ!」


「うわっ、急に方向転換しないで!」


 ぎゃーぎゃーと騒ぎながら、新米魔法少女達は的に向かって魔法を放っている。


 新人の頃の珠緒もこんな感じだったなと昔を思い出しながら、アリスは後方でアンティーク調の椅子に座って訓練の様子を眺める。


 あまりに的に当たらない新米魔法少女達を見て、アリスはぽつりとこぼす。


「魔法ってこんなに当たらないものなのね」



「「「「「「「「「「当り前ですが(だけど)!!??」」」」」」」」」」


 アリスの声が聞こえていたのか、その場に居た全員がアリスの方を振り返って信じられないといったふうに声を上げる。


 全員が一斉に振り返って怒ったように言うので、アリスは思わずびくっと身を震わせて持っていたクッキーを膝の上に落としてしまう。


「ていうか一人でティータイムしないでくれるかな!? 訓練中なんだけど!?」


「暇だったから、つい……」


「新人の子達にアドバイスしてあげてくれないかな!?」


「私のは参考にならないから」


 アリスが視線を的に向ければ、全員が的に視線を戻す。


 アリスは無言で剣を生成する。しかし、その剣は先程とは違いアリスの傍ではなく、全ての的の頭上に一本ずつ生成された。


「執行」


 アリスが一言呟くだけで、十字架を模した剣が一斉に的を貫く。


 その光景に、その場に居た全員が言葉を無くす。


 痛いニャーの大合唱がシュールに訓練場に響く。


「中距離なら全部これで済むから」


 ぱちんっとアリスが指を弾いて鳴らせば、まるで何事も無かったかのように剣は消失し、壊れた的は全て元通りになる。


「何事も回数をこなすしかない。身体に的に当てる感覚や魔法を撃つ感覚を刷り込む。そうすれば自然と魔法を放つ速度も精度も上がる……って言ってた」


 珠緒が。キレながら。


『アリスの特訓ほんっと意味わかんない! 何にも教えてくんないじゃんあの人! なのにしこたま練習だけさせてくんのなんなの!? お手本見せてっていったらまったく参考にならないし! 急に意味わかんないくらい難易度上げて来るし、最終的にアリスと撃ちあいとか意味わかんない!! 後ろで一人でお茶飲んでるし!! 猫撫でてるし!! 本読んでるし!!』


 と、カフェテリアで声を荒げて怒っている珠緒を見た事がある。勿論、アリスは二階席に居たので、少しだけ顔を出してその様子を観察していたりするのだけれど、珠緒は怒り心頭だったためにまったく気付いていなかった。


 怒っていた珠緒だけれど途中で諦めるのは主義に反するのか、それともプライドが許さないのか、アリスの特訓に最後まで着いて来ていた。


 そして、かなり上達した珠緒の腕前を見た笑良が『上達早いね』と言ったら、キレ気味に珠緒が返した。


『もうひたすら数をこなした。トライアンドエラーを繰り返して、成功体験をかき集めて、身体に成功した時の感覚をひたすら叩き込んだ。もうお陰様で撃つ前に当たる当たらないが分かるようになった。ここ数週間で一生分外した気がするけど』


 そして最後に、珠緒はこう語った。


『アリスのは特訓じゃない。いびりよ、いびり』


 額に青筋を浮かべながら、アリスが居る場所で堂々と言った。


 そして、アリスはそんな珠緒にこう返した。


『でも、強くなれたでしょ?』


 そこで堪忍袋の緒が切れた珠緒はアリスを攻撃し始めたが、力の差は歴然であり、そのままあっと言う間にアリスに拘束されてしまった。


『まだまだだった。もっと訓練が必要』


 簀巻きにされた珠緒を見て、アリスは言った。


『殺すー! ぜったいこーろーすー!!』


 そこから、何故か珠緒の当たりが強いけれど、アリスは何故だか良く分からない。


 今も、良く分かってない。


「さ、続けて。トライアンドエラーが上達の近道。いっぱい失敗して」


 だから、やり方を変えるつもりも無い。


 延々、的を撃ち抜かせる。


 アドバイスとか特に無い。あえて言うのであれば、過去の失敗が自分達へのアドバイスだと思って欲しい。


 つまり、失敗から学べという事だ。


 アリスは優雅にお茶を飲みながら、チェシャ猫を撫でる。


 その様子を見ていた全員の額に青筋が浮かんでいるのに、アリスは気付いていない。


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