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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
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異譚11 議会承認制魔法

 お夕飯を作り終わった後、春花は対策軍へと向かった。


 アリスのプライベートルームでアリスに変身してから、童話のカフェテリアへと向かう。


 カフェテリアでは幾人かの少女達が悠々自適に過ごしていた。それ以外の者は訓練室で訓練をしているのだろう。


 アリスは二階に上がり、ソファに座って本を読む。


 最近は皆と一緒に居る事が多かったけれど、やはり一人で本を読んでいる時間はとても落ち着く。皆と一緒に居る時間が苦な訳ではないけれど、一人の時間も欲しいものだろう。


 静かに、一人で本を読み進める。


 読んでいるのは近未来が舞台のSF小説。タイミングが良いのか、悪いのか、たまたま手に取った小説がそれだった。


 思い起こすのは、自身の新しい力の事。


 アリスの致命の大剣(ヴォーパルソード)の未来的な意匠が輝き、未来の科学力(・・・)を行使する事の出来るあの力。


 アリス・エンシェントの時は問題にはならなかった。だが、今回の力は違う。


 アリスの新しい力――みのりやシャーロット達が協議した結果、アリス・フューチャーとなった――は各国対策軍の首脳会議で議題として挙げられる程に、各国の首脳陣は問題視していた。


 アリス・フューチャーの出現させた人工衛星は、本来のアリスの有効射程圏内をはるかに超える距離に展開された。


 加えて言うのであれば、その人工衛星は離れた位置にあるアトラク=ナクアの脚を攻撃出来た。国を跨いでいたアトラク=ナクアの脚を攻撃出来たのだ。つまり、アリスがその気になれば、アリス一人で国を攻撃出来るのだ。それも安全圏からの攻撃だ。


 アリスの致命の極光を防げる者はこの世に誰一人としていない。アリスであれば、国を一つ壊滅状態にする事など訳無い事だと、アトラク=ナクアとの戦闘で証明されてしまったのだ。


 勿論、アリスにそんな気は毛頭無い。アリスの敵は異譚と旧支配者であり、人間同士で争うつもりなど無い。誰に何と言われようとも、人を傷付ける事など絶対にしない。


 と、アリスが言ったところで、各国がその言葉を鵜呑みにして納得する訳も無い。


 日本以外の国からすれば、常時銃口を向けられているような状態なのだ。そんな状態で敵意は有りませんと言われても信用できるはずも無い。


 日本側も無条件に信用しろというのが都合の良い話である事は重々承知している。そのため、アリスの許諾や考えを聞かずに、とある条件を提示する事でアリス・フューチャーでの魔法使用の許諾を得た。


 一つ。それが世界全体を揺るがしかねない敵の場合のみ変身を許可する。


 一つ。個人の判断でのアリス・フューチャーへの変身を禁止する。アリス・フューチャーへの変身、及び人工衛星の使用は議会の承認が必要な物とする。


 一つ。それらが護られなかった場合、アリスの魔法少女としての活動を停止させ、アリスの個人情報を各国へと開示する事。その上で、二十四時間の監視を徹底する事。


 以上の条件を持って、アリス・フューチャーの力の行使を各国になんとか(・・・・)認めて貰う事が出来た。


 アリスの魔法は議会承認制魔法という括りに区分された。文字通り議会の承認が無ければ発動出来ない魔法だ。こんな区分は今まで存在しておらず、アリスのために作られた制度とも言える。


 アリスとて、あの力が危険視される事は分かっていた。その気になれば、世界中のどんなところだって攻撃出来る力。そんな力を、各国が黙認するはずなんて無い。


 それでも、そんな事をするのではないかと疑いの目で見られるのは、正直に言って気分が悪い。


 だが、魔法少女の領域を逸脱した力だと言う事も理解している。


 そうやって考えていると、不意に、安姫女(アンジェ)と戦闘した時の会話を思い出す。


『ふふふっ』


「なにがおかしいの?」


『いえ、ね? これだけ強いと、どっちが異譚支配者かもう分からないと思ってね』


「そんなの分かり切ってる事。私が魔法少女で、貴女が異譚支配者」


『ふふふっ。そうね。そうよね。貴女がそう思ってるなら、そうよね。ふふふっ、ふふっ、ふふふっ』


 貴女がそう思っているなら。あの時確かに、安姫女(アンジェ)はそう言った。鍵は覚醒と知性を与えるとも言っていた。安姫女(アンジェ)は、アリスの知らないナニカを知っていた。もっと言うのであれば、アリスが何者であるのかも知っていたのだろう。


「……私って、いったい何なんだろう」


「……アリス、私の、嫁……」


「――っ」


 我知らず漏れた言葉に返事があり、思わずびくりと身を震わせるアリス。


 慌てて本を閉じて声の方を確認すれば、そこには詩の姿があった。アリスの座るソファに寝ころび、アリスの膝に頭を乗せながら携帯端末を見ている詩。思考に没頭していたせいか、詩が近付いていた事にも気付かなかったし、詩の頭が膝に乗っている事にも気付かなかった。


「……居たの?」


「……うい……」


「びっくりした」


「……私も、びっくり……」


 気付いた上で好きにさせているものだと思っていた。まさか気付いていなかったとは思わなかったので詩も驚きである。


「……衛星の、事……?」


「それもあるけど、私の力が魔法少女の枠に収まらない事が、ちょっと気掛かりで……」


 あまりに特異過ぎるアリスの力は安姫女(アンジェ)の言った通り、魔法少女というよりも異譚支配者に近いような気もする。いや、異譚支配者にだってアリスのような力を持っている者はいなかった。


「そんな力を持ってる私って、何なんだろうって……」


「……むーん、難しい事、分からない……」


「そう……」


「……けど……」


 携帯端末から視線を外し、仰向けになってアリスを見やる詩。


「……別に、アリスが、何者でも、良い……」


「良くないと思うけど……」


「……私は、気にしない。アリスが、宇宙人でも、トモダチ……」


 言って、詩はアリスに人差し指を向ける。


「……そーいう奴が居る、って事、憶えといて……」


 詩にとって大事なのは、アリスが何者かであるよりも、アリスと過ごしてきた確かな時間の方だ。その時間がある限り、詩はアリスが何者でもアリスの味方で居られる自身がある。


 人差し指を向けて来る詩に対して、アリスは人差し指をくっつけて言葉を返す。


「私、あの映画知らない」


「……ふっ、私も……」


 満足そうに微笑み、詩はそのまま横を向いて携帯端末を操作し始める。


 根本的な解決は何一つしていない。それでも、詩がそういう風に言ってくれる心遣いは素直に嬉しかった。


「ありがとう」


「……いーえー……」


 気負った様子の無い詩の態度を見ていると、少しだけ心が軽くなったような気がした。


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