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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
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異譚9 臭い、臭くない

 久し振りの授業は恙なく終了し、お昼休み。


 お昼ご飯を食べたり、お喋りをしたり、携帯ゲーム機で遊んだりと、生徒達は思い思いに時間を過ごしている。


 春花も朱里、白奈、みのりの三人と一緒にお昼ご飯を食べている。


「もしかしなくても、そのお弁当、有栖川くんが作ったの?」


「そうよ」


「その有栖川くんはパンを食べてるけど……貴女まさか……」


「じ、自分の分だけ作らせたの?」


「んな訳無いでしょ! コイツがパンで足りるって言って自分の分作らなかっただけよ! 明日からは自分の分も作って来るわよ」


「あ、明日も作って貰う気なんだね……」


「良いでしょべつに! コイツの料理美味しいんだから!」


「そうやってこき使うつもりかしら?」


「コイツが、やるって、言ったの! それに、アタシだって家事をしない訳じゃないっつうの! どーしてそう悪し様に捉えようとすんのよ!」


 今朝に引き続き、授業と授業の間の休み時間のたびに、白奈はチクチクチクチクと朱里を責めるように言葉で突いてきた。


 朱里がチクチク言葉で突かれている間、春花は総菜パンをちみちみと食べる。


 そんな春花を朱里は不満そうな目で見る。


「アンタも、アタシの擁護しなさいよ。アタシはアンタをこき使って無いし、料理だってアンタから言い出した事じゃないの」


 不満げに朱里が言えば、ちみちみと総菜パンを食べていた春花は、パンを咥えた状態でしばし固まる。


 パンを咥えたまま数秒間、何かを考えるように固まった後――因みに、パンを咥えている姿をみのりは抜け目なく撮影している――咥えていたパンを口から離して、春花は朱里に言う。


「……でも、昨日靴下投げられたような……」


 昨日、朱里に服を洗濯すると言ったら、履いていた靴下を脱いで投げて渡されたのを思い出した。


「アンタが洗濯するって言うから、ちょっと投げて渡しただけじゃないのよ!」


「大丈夫? 臭かったでしょう?」


「臭くねぇわ!!」


「わ、わたし知ってるよ! そ、そういうの、スメルハラスメントって言うんだよ!」


「だから臭くないから!! そんなに言うなら嗅いでみなさいよ!!」


 上履きを脱ぎ、脚をみのりに向けて伸ばす朱里。


「ぎゃぁっ!? や、止めてよぅ!!」


「ちょっと本気の悲鳴出さないでくれる!? 流石に傷付くんですけど!?」


 ジタバタと脚を動かしているので、スカートが捲れそうになっているけれど、怒りに満ちた朱里は気付いていない。


 朱里のスカートの中が見えそうになっている事に男子達は気付いたけれど、直ぐに白奈が朱里のスカートを押さえてスカートの中が見えないようにする。


「はしたないから止めなさい。それに食事中よ。臭いし汚いわ」


「臭くないし汚く無いですぅ~!! おら、アンタも嗅いでみなさいよ!!」


「パンツ見えそうになってるわよ」


「それはもっと早く言いなさいよ!!」


 白奈が指摘すれば、朱里は慌ててあげていた脚を降ろす。脚を降ろした朱里に、ほっと胸を撫で下ろすみのり。


「ていうか、コイツだって受け取った時なーんも反応しなかったんだから、臭くないに決まってるじゃない。ね? 臭く無かったわよね?」


 朱里にそう言われた春花は、またもやパンを咥えたまま考え込む。


 数秒の沈黙の後、春花はパンを離してから答える。


「匂ってはこなかった」


「ほら見なさい! 臭くないのよ」


「でも、直接嗅いだわけじゃないから、真偽は分からない」


「なんでちょっと真相を不透明にしたのかしら!? 匂ってこなかったんだから、臭く無いって事でしょうが!」


「でも、ちゃんと嗅いだわけじゃないのに結論を言うのは失礼かなって……」


「ちゃんと嗅いでないで臭いって言うのは失礼かもだけど、臭く無かったって言って失礼にはならないからね!?」


「……確かに、そうかも」


 朱里の言い分を聞いて、確かにと納得を示す春花。


「臭く無かったよ」


「もう遅いわよ!」


 フォローを入れるけれど、今更臭くないと言ったところで今までの流れからその発言が春花の気遣いである事は明白なので、朱里の脚の匂いについての話題に終止符を打つ事は出来ない。


「ま、朱里の匂い云々はさて置いて」


「置いておくな! アタシの名誉にかかわる事なんだから!」


「はいはい、臭くない臭くない」


「それそっちが妥協してる時の言い方よね!? なんでアタシが我が儘言ってるみたいになってんのよ!」


 きーっと怒り続ける朱里を無視し、白奈はいまだパンを食べている春花を見やる。


「もし理不尽な事をされたら言ってね。ちゃんと氷漬けにするから」


「だからしないっつうの! てか、アタシにとってはこの状況こそ理不尽なんですけど!?」


「理不尽な事……」


「アンタも無理矢理思い出そうとしなくて良いから! 理不尽な事なんて一つも無かったでしょうが!」


「な、何でもいいんだよ? み、味噌が薄いって難癖付けられたとか、玉ねぎはみじん切りにしろって怒られたりとか」


「そんな事で怒んないから! てか、何でも良いって何よ! アンタどんだけアタシを悪者にしたいわけ!?」


 腹に据えかねたのか、みのりの頬をぐにぐにと引っ張る朱里。


 みのりは涙目になって抵抗するけれど、朱里に叶うはずもなくなすがままにされてしまう。


「理不尽な事は無いよ。あ、でも……」


「でも、なに?」


「脱いだ服は、洗濯籠に入れて欲しいかな」


「あっ……」


 春花にそう言われ、朱里は昨晩の事を思い出す。


 朱里は春花よりも先にお風呂に入った。その時、つい疲れている時の癖で脱いだ服を洗濯籠に入れずに脱衣所に脱ぎ捨ててしまった。洗濯は自分でやるし、たまに朱美が洗濯をしているようだったので、疲れている時は洗濯籠に入れずに放置してしまっていた。


 いつもは丁寧な暮らしを心掛けているけれど、本当に疲れが溜まっている時は全てどうでもよくなってしまうので、色々な事が雑になってしまうのだ。


 春花に気を遣っている部分もあるので、昨日は少しだけ雑になってしまった。服を脱ぎ、下着を脱ぎ、そのままにしてしまった。


 つまり、春花に下着を見られた事になる。また、朝に脱衣所に入った時は脱いだものは洗濯籠に入っていたので、春花が洗濯籠に入れた事になる。


 いつもは殆ど変わらない春花の表情だけれど、今はとても気まずそうに眉を下げている。


「それはぁ……素直にごめんなさい……」


 流石に恥ずかしかったのか、頬を赤く染めて素直に謝る朱里。


「メスの顔しないでくれる?」


「メスの顔ってなに!? 普通に恥ずかしくなってるだけなんですけど!? 当たり前の羞恥心なんですけど!?」


 白奈の冷たい言い方に朱里が反論するけれど、しらーっとした白奈の視線はお昼休みが終わるまで朱里に向けられていた。


 その隣で、みのりは自分は洗濯籠にしっかり入れてると謎のアピールをしていたけれど、春花には少しも響いている様子は無かった。


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