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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
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異譚8 それはそれ、これはこれ

 慣れた通学路を春花と並んで歩く。


「見慣れた通学路でも、アンタが居ると新鮮ね」


「僕も普段通らない道だから新鮮だよ」


 春花と朱里の家は正反対の所にあったので、この道を通る事は無い。いつもとは違う通学路は新鮮な気持だ。


 新鮮な気持ちにはなるけれど、朱里の家は学校にほど近い場所にあるため、その新鮮な気持ちも長くは無かった。


 学校に着き、自分達の教室に向かう。教室に入れば、二人が一緒に登校してきた事に気付くクラスメイトだけれど、最近の二人は仲が良いので『ああ、やっとか(・・・・)』と思いながらも、その考えは早計だと考えてあえて視線を逸らしながらも二人の様子を窺う。


 春花は自分の席に行き、朱里も同じく自分の席に向かう。朱里は自分の席に鞄を置いた後、直ぐに春花の所へ向かい、目の前の席に座ってお喋りを始める。


 その様子を盗み見ていたクラスメイト達は、やっぱりそう言う事かと納得しながら二人の様子を横目で窺う。


「そういや、アンタの料理って彩り豊かよね。双子のお婆さんに教わってるって聞いたから、てっきり煮物とかを教えて貰ってるって思ってたわ」


 少しばかり失礼な偏見があるような言い方だけれど、朱里はお婆さんの作ったお弁当を食べた事があり、その時に食べた煮物がとても美味しかったのを憶えているので、煮物が得意なのだと勝手に思っていた。そのため、お婆さんの得意料理の煮物系を中心に教えて貰っていると思っていた。


「お婆さんも煮物とかの和食の方が得意って言ってたけど、二人に合わせて勉強したんだって」


「あぁ、あの二人って分かりやすい味が好きだもんね」


「唯さんはハンバーグで、一さんは唐揚げが好きなんだよ」


「好みまで把握してんのね……アンタ、本当に二人のママみたいね」


「まぁ、いっぱい料理作ってるから、自然とね。それに、二人共料理感想を毎回言ってくれるから、その熱量でどの料理が好きとかは分かるようになったよ」


「アイツ等あんまし顔に出ないもんね。それに、ママンの作る料理なら全部美味しい、とか言いそうだし」


「うん、言われた」


「言ってるんかい……。でもまぁ、確かにアンタの作る料理美味しいからね。そう言いたくなる気持ちも分からんでも無いわ」


 春花の料理はどれもとっても美味しい。誇張や何も考えずの発言では無く、作ってくれたものが全て美味しいために出る言葉である。


「おはよう。二人共」


 そうやって二人が朝の時間を過ごしていると、白奈が登校してくる。


「おはよ」


「おはよう」


 白奈に挨拶を返す二人を見て、白奈はすっと目を細めて朱里の方を見やる。


「手、出してないでしょうね?」


「出して無いし普通聞く相手逆じゃない?」


「いいえ、合ってるわよ。引き込んだ張本人ですもの」


 しらーっとした目で朱里を見る白奈。


 白奈としてはまだ春花と朱里が同棲している事に納得はしていない。沙友里の家やお世話になっている菓子谷家であればともかく、朱里の家である必要性を感じていない。そもそも、チェウォンが言ったように、費用を出すからホテルに泊まって貰うのが一番世間体的にも当人達的にも良いはずだ。


 加えて言うのであれば、白奈は知らない事になっているけれど、春花がアリスであり、アリスが対策軍内にプライベートルームを持っている事もまた知っている。であれば、次の住居が決まるまではプライベートルームで過ごすのが一番のはずだ。白奈達が気付いていなかっただけで、朱里が誘うまではプライベートルームで生活をしていたのだから。


 それが分からない朱里ではないはずだ。にも関わらず、朱里は春花を誘った。裏があると考えてしまうのは自然な事だろう。


「アンタ、アタシがやましい気持ちがあって、コイツに話を持ち掛けたと思ってるわけ?」


「違うの?」


「違うっつーの。アンタ、アタシの事なんだと思ってんのよ……」


幼気(いたいけ)な有栖川くんを弄ぼうとしている悪女よ」


「ほんとに何だと思ってんの!? アンタからの信用無さ過ぎない!? え、今まで散々一緒に戦って来たわよね!?」


「朱里、良い事を教えてあげるわ」


「このタイミングで何かしら!?」


「それはそれ、これはこれ、よ」


「アタシにとってはなんも良い事じゃ無いんですけどソレ!?」


 つまり、信頼や譲歩は無いと言う事に他ならない。白奈の中では朱里は完全に有罪なのだ。


 騒ぐ朱里を無視して、白奈は春花に視線をやる。その視線は先程まで朱里に向けていたモノとは百八十度違い、温かく優しいモノであった。


「有栖川くん。朱里に何かされたら言ってね? 殺すから」


「殺す!? 今殺すって言った!?」


「あ、間違えたわ。氷漬けにするって言いたかったのよ。本当よ」


「の割にははっきり言ってたけどね、アンタ!」


「嫌だわ、朱里。仲間に殺すだなんて言う訳無いじゃない。私、そういう冗談嫌いよ」


「それはそれ、これはこれって言ってた奴の言葉なんて信用ならないんですけど!?」


「酷いわ、朱里。私の事を疑うだなんて……」


「被害者面してるけど、アタシの方が被害者ですからね!?」


 そうやって朱里が騒いでいると、ホームルーム開始の予鈴が鳴る。


「あら、ホームルーム始まっちゃうわね。有栖川くん、何かあったら直ぐ言ってね」


「うん。分かった」


「分かるんじゃ無いわよ! なにも無いから!」


「朱里」


「何よ!!」


 去り際に朱里の名を呼んだあと、白奈は春花に聞こえない声音で朱里の耳元で言い放つ。


「傷モノにしたら、殺すから……」


 それだけ言い残し、白奈は自分の席へと向かった。


 脅しでも冗談無い声音で言い残していった白奈に、朱里は心底から引いたような表情を浮かべてしまう。


「……アンタ、何かあってもアイツだけは頼らない方が良いわよ」


「そう?」


「そうよ。……ったく、アタシの信用無さ過ぎでしょ……」


 そうぼやきながら、朱里は前の席から立ち上がって自分の席へと向かった。


 どうやら、二人の同居生活は前途多難であるようだった。


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― 新着の感想 ―
ただの日常が来るたび不安になっていくんですが……
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