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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い

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異譚5 お墓参り

 春花達が駅に集合したのは、駅がもっとも集合場所として適していたからだ。駅から徒歩で十分程の場所。春花達は今回の集まった理由となる場所に辿り着いた。


 墓。墓。墓。墓。墓――


 敷地内に入れば、一面に広がる墓が視界に入る。


 春花達が訪れたのは霊園。此処は、異譚の被害に遭い、身寄りも無く亡くなった者達の眠る場所。


 この場所に来たいと言ったのは凛風だった。


「お墓参りがしたいヨ」


 誰の、とは言わなかったけれど、それが誰のお墓参りであるかは直ぐに理解する事が出来た。


 凛風の言葉に他の三人も賛同したので、凛風達が帰国する前日に全員で時間を作ってお墓参りに来たのだ。


 春花達が辿り着いたのは、簡素な墓石だけが立てられたお墓の前。簡素な墓石には『上狼塚家之墓』と彫られていた。


 瑠奈莉愛の死は、面識のあった四人にも伝えられていた。哀悼の言葉を伝える事はしたけれど、直接こうして来る事は容易では無かった。けれど、日本に来た際には絶対にお墓参りをしようと決めていた。今回日本に来た四人の誰もが思っていた事だ。言い出すタイミングを気にしていたので、凛風が言わなくともいずれ誰かが提案していた。


 お墓の前で、全員が手を合わせる。とはいえ、人数とお墓の大きさが合っていないので、チェウォン達の後ろで手を合わせている者もいるけれど。


 異譚支配者や異譚生命体になってしまったので、このお墓に瑠奈莉愛達の遺骨は収まっていない。異譚が終わった時点で全て塵となって消えてしまった。


 だから、このお墓には何も無い。それが分かっていてなお、少女達はお墓に向かって手を合わせる。レクシーやシャーロット、チェウォンや凛風からすれば手を合わせるのは馴染の無い文化だろうけれど、春花達に合わせて手を合わせている。


 手を合わせ終わった後、少女達は瑠奈莉愛達のお墓を綺麗にする。最近出来たばかりのお墓なので、全然汚れてはいないけれど、それでも来たからには洗うべきだろう。


お墓を洗い終えた後、唯と一はみのりのお金でしこたま買い込んだお菓子をお墓にお供えしていく。


「本当に、残念です」


 長椅子に座り、自動販売機で買って来たお茶を飲むチェウォン。


 お墓を綺麗にしてくれたのはチェウォン達海外の魔法少女四人である。後はお供え物を置くだけなのだけれど、あんまり数を置く訳にはいかないので双子が真剣に吟味している最中なのだ。


「異譚の記録は私も確認しました。それに、瑠奈莉愛さんのご家庭の事情も……」


 手に持ったお茶を意味も無く弄ぶ。


 瑠奈莉愛とは付き合いが長い訳ではない。それでも、瑠奈莉愛が優しい良い子だと言う事は少し遊んだだけでも良く分かった。何せ、不愛想な自分にも優しく明るく接してくれた。礼儀正しく、多くの人から愛される愛嬌を持っていた。


「春花さんは大丈夫ですか? 瑠奈莉愛さんのご家族とも、仲良くされていたと聞きました」


 上狼塚家の全員が異譚支配者、もしくは異譚生命体となってしまった。仲良くしていた人達が唐突にいなくなってしまったのだ。そんな春花の気持ちを考えれば、察して余りあるだろう。


 ちらりと、春花を見やる。


 春花の表情はいつもと変わらない。いつもと変わらない表情で、少女達がお菓子を吟味している様子を見ている。


「仲が良かったかどうかは、正直分かりません。付き合いも短いですし、上狼塚さんの事を良く知っていた訳でも無いですし」


 元気で明るくて家族思いで、強く在ろうとしているけれど、年相応な弱さも持ち合わせていて、そんな年相応の女の子だった。


 何が好きで何が嫌いかなんて話はした事が無いし、瑠奈莉愛の趣味も知らない。家で何してるとか、学校ではこうだったとか、そういう話もした事が無い。


 そんな関係を果たして仲が良かったと言って良いのか、春花には分からなかった。


 瑠奈莉愛が亡くなる少し前、春花に頭を撫でて欲しいと言ったり、一緒に家でご飯を食べようと言われたりもした。


 だが、瑠奈莉愛が異譚支配者になった直後、アリスへ向ける感情は憎悪のみとなっていた。


 異譚支配者になる前は少しは春花の事を慕ってくれていたのかもしれない。けれど、異譚支配者になった後にそれを上回る程の憎悪を抱いていた事は否定できない。


 結局のところ、瑠奈莉愛の心中は分からない。けれど、自分の心中であれば何となくは分かっているつもりだ。


「……けど、やっぱり悲しいです。知り合いが亡くなるのは、凄く……」


 春花がそう言えば、隣から腕が伸びて来て春花の肩を寄せて自身の肩に預けさせる。


「辛いときはいつでも言ってくれ。私であれば、いつでも話を聞くからな」


「……ありがとうございます。……ん?」


「そうですよ。私もいつだって相談に……って、ちょっと!! 貴女は半径二メートル以内の接近は禁止です!! 即刻離れてください!!」


 ごく自然に春花の隣に座り、ごく自然に春花の肩を抱き寄せていたのは、チェウォンではなくレクシーであった。あまりに自然な動作だったため二人共反応が遅れてしまったのだ。


「まあまあ、悲しみに暮れる春花くんを慰めているだけだよ。大目に見てくれたまえ」


「駄目です! それに、今すっごく大事な話をしてました! 茶化されては困ります!」


「別に茶化しては無いさ。友人や知り合いが亡くなるのはとても悲しい事だ。それに、自分の悲しいや寂しいと言った負の感情を吐露するのが苦手な子もいる。そういう子は得てして自分だけで抱え込んでしまいがちだ。一人でも多く、相談出来る相手や、気晴らしに話が出来る友人が居るべきだと、私は思うけどね」


「それは、そうですが……」


 思いがけずレクシーから正論を言われてたじろぐチェウォン。


「これでも、私は大人だ。君達よりも人生経験は豊富なつもりさ。明日でイギリスには帰ってしまうが、それでも友人である事に代わりは無い。近くの者に話せなくとも、遠い異国の地の者に話せる事もあるだろうしな」


 言って、春花の肩を抱いていた手で春花の頭を優しく撫でる。


「何かあれば、いつでも相談に乗る。気楽に電話をくれたまえ」


 優しく頼もしい笑顔で言うレクシー。


「くっ……私には無い大人っぽさが……っ」


 自身には無い大人っぽさを見せつけられ、悔しそうに歯噛みするチェウォン。しかし、チェウォンもこのまま引き下がるつもりは無い。


「わ、私も相談に乗りますよ! いつも通り、通話で近況報告だってします! 絶対に私を頼ってください! 春花さんは一人で抱え込んでしまいそうなイメージがありますから、少しでも不安だったり寂しかったら、いつでも連絡をしてきてください。良いですね!?」


 春花の手を取り、真剣な表情で春花に告げるチェウォン。


「……二人共、ありがとうございます」


 二人の言葉に、素直にお礼を言う春花。


 有栖川春花としての出会いはごく最近で、付き合いだって短い自分に対して、此処まで親身になってくれているのはとてもありがたい事なのだと分かっている。


 だからこそ、二人の言葉を素直に受け取る。


 その結果、相談をダシに自分に気兼ねなく通話して来てねという二人のほんのわずかな下心にはまったく気付いていない。勿論、春花を案じての言葉に嘘は無い。春花だけではなく、他の者にも同じように伝えるつもりではある。……あるのだけれど、少しばかりの下心はやはり芽生えてしまう。大きく表に出さないのは、場を弁えているからこそだ。


 こうして、二人の言葉は素直に受け止められ、その後も特に曲解する事無くお墓参りは終了した。


 最後にもう一度手を合わせて、また来る事を告げてから霊園を後にした。


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