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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い

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異譚4 同棲報告

 ファミレスでお昼ご飯を食べた後、春花と朱里の二人はそのままの脚で駅まで向かう。


 駅まで着けば、そこには待ち合わせをしていた人物達が既に揃っていた。


「アタシ達が最後みたいね」


「そうみたいだね」


 とはいえ、時間にはある程度余裕を持って来た。皆の到着が早かっただけだろう。


「お待たせ」


「いえ、それほど待ってはいませんよ」


 朱里の言葉に、チェウォンが返す。


 駅で待ち合わせをしていたのは、童話の魔法少女達とチェウォン、レクシー、シャーロット、凛風の海外の魔法少女組。


 チェウォン達海外組は明日帰国する予定となっている。なので、自由に使える時間は今日が最後という事になる。


 その最後の時間を使って、チェウォン達はどうしてもしたい事があった。


「お二人さん、ご一緒だね?」


 シャーロットがそう言えば、朱里は何でもないように答える。


「コイツ、暫くアタシん()で預かる事になったからさ。荷解きも終わったし、さっきまでファミレスでご飯食べてたのよ」


「あ、ああああああ預かる!? そ、それって、どどどどどどど同棲って事!?」


 朱里の言葉にいち早く反応したみのりは、慌てた様子で朱里に詰め寄る。


「同棲ですって!? そ、そんな事許されませんよ!?」


 更に、過激派であるチェウォンがその言葉に過剰に反応する。


「しょうがないでしょ。住む家無くなったんだから。それとも何? コイツが路頭に迷ってもいいわけ?」


「それは駄目です! では、ホテル代や食費等は私が全て持つので、いまからホテルを予約しましょう! それが良いです、そうしましょう!」


「もう荷解き終わったつうの。今からホテル取るとか、そっちの方が手間でしょうが」


「で、でもでも! と、年頃の男女が同棲はいかがなものかな!? ふ、風紀の乱れを感じるよ!?」


「アンタの頭ん中だけよ乱れてんのは。そもそも、コイツは女子の下着を平然と洗濯する男よ? 風紀が乱れる方が無理があるってもんよ」


 唯と一の下着を平然と洗濯してしまう春花が、今更朱里と同棲してやましい気持ちを抱くとも思えない。それに、そういう事をしないからこそ、朱里は春花に一緒に住まないかと誘ったのだ。


「あ、あれはつるぺただからだよ!! か、壁に欲情なんてしないでしょ!?」


「みのり」


「かもん」


「あ、ああ!? あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――」


 完全な失言をしたみのりは、双子に手を引かれて近くのコンビニまで連行される。きっと二人の気が済むまでお菓子を買わされる事だろうけれど、完全にみのりが悪いので擁護は出来ない。


 うるさいのが一人減って良かったと思うのも束の間、みのりの居た位置にいつの間にか白奈が立っており、品定めをするように朱里を見据えていた。


「どっちから言い出したのかしら?」


「うわっ、面倒臭いの増えた……」


「いいから答えなさい」


「へーへ……アタシからよ。アパートに住めなくなったって聞いたから、じゃあウチに住めばって誘ったのよ」


「そこでどうしてホテルに泊まらせるという選択肢が出てこなかったのですか? やっぱりやましい気持ちがあるんですか?」


 白奈に追従するようにチェウォンが詰める。


「無いわよ。……ま、料理はちょっと期待してるとこあるけどね。美味しかったし。新しく住むところ見付けるまでだし、ホテル代かけるのも勿体無いでしょ? なら、アタシの家で暫く居候すれば良いって思ったのよ」


「本当にそれだけ?」


「それだけだっつーの。ていうか、アタシが一番最初に気付いて、一番最初に声掛けたんだから、文句言われる筋合い無くない? アンタ達は気付きもしなかなかったんだから」


「うっ、それは……」


「……確かに、そうですが……」


「あーあ。アタシかわいそー。コイツを心配して声までかけて、コイツを信用して家に招き入れただけなのに、こーんなに疑われるんだー? ねー? アタシかわいそーじゃない?」


 これ見よがしに被害者面をして春花に同意を求める朱里。


「まぁ、世間的に見れば男女で同棲って変だし……」


「アンタはアタシの味方でいなさいよ」


 春花のおりこうさんな返答に、朱里は春花の頬をぐにぐにと引っ張って不満を露わにする。


「言ってくれれば、私もホテルを手配したのに」


 話の流れを見守っていたレクシーが春花にそう言えば、春花ではなくチェウォンがきっと高速でレクシーを胡乱な目で見据える。


「貴女は駄目です。春花さんの半径二メートル以内に入らないでください。この性犯罪者」


「そこまで言うかい……?」


 ドストレートに暴言を吐くチェウォンに、流石のレクシーも苦笑いである。


「妥当なんじゃない? 無理矢理キスしたんでしょう?」


「無理矢理じゃないさ。ね、春花くん?」


 ぱちりとウィンクしながら春花に問えば、春花は頬を引っ張られながら答える。


「へへ、はぁ……」


「多分、ええ、まぁって言ってるわ」


「通訳するくらいなら離してあげてもいいんじゃないか……?」


 いつまでも春花の頬を離さない朱里だったけれど、レクシーに言われ渋々ながら頬から手を離す。


「ともあれ、本人が嫌がっていないんだ。合意の上と言っても過言では無いだろう」


「被害者はいつだって強く言い出せないものです。さぁ、春花さん。此処には貴方の味方しか居ません。本当の事を言っても大丈夫ですよ? 私が絶対に護りますから」


 春花の手を取り、安心させるように言葉をかけるチェウォン。


「まぁ、別に……嫌では無いですし……」


 ちょっと驚きはしたし、照れもしたけれど、身体を傷付けられた訳でも無い。少し過剰なスキンシップといったところだろうと考えている。それに、レクシーでなくとも、過剰なスキンシップをしてくる者は多いので、多少は慣れてしまっている。まぁ、良くない慣れなのだろうけれど。


「そ、そんな……」


 春花の言葉に、何故か酷くショックを受けたような表情を浮かべるチェウォン。


「ほら、言っただろう? それに、この話はあの日の裁判で全て終わったはずだ。蒸し返さないで貰いたいものだな」


「得意気に言うけど、アンタ有罪判決だったでしょうが」


「うっ……」


 あの日、レクシーが春花の頬にキスをしてチェウォン達が大騒ぎをした日。その日の内に少女達による裁判が開かれ、満場一致でレクシーは有罪となった。


 有罪となったレクシーは、帰国までの間、春花の半径二メートル以内に故意に侵入するのを禁止され、春花にお詫びの品を献上する事を義務付けられた。


 春花としてはそこまで大事にしなくて良かったのだけれど、周りの者――特にチェウォンとみのり――が大騒ぎしたので、流されるままとなってしまった。


「ま、まぁ、合法的に春花くんにプレゼントを渡す事が出来たから、私としては得でしか無かったけれどね。今日も付けて来てくれているようで嬉しいよ」


 言って、レクシーは春花が腕に付けている腕時計を見やる。


 シンプルなアナログ文字盤の腕時計で、白色を基調としているデザイン。カジュアルなデザインなので遊びに行く時に合わせやすい。


「本当は、もっと良いのを買いたかったのだけれど……」


「いえ。僕、このデザイン好きです。ありがとうございます」


 春花が素直にお礼を言えば、レクシーはふっと柔らかい笑みを浮かべる。


「次はもっと良いのを買うよ」


「だから、前も言ったでしょうが。高校生に高級腕時計渡そうとする馬鹿がどこに居んのよ」


「何を言う。前に選んだものは精々三十万の時計じゃないか」


「普通の高校生は三十万の腕時計なんて付けないのよ!」


 レクシーが春花のプレゼントとして最初に選んだのは、最低でも三十万円もする高級腕時計だ。


「それに、この腕時計だって三万もするでしょ! 高校生へのプレゼントにしちゃ高過ぎるのよ!」


 春花の付けている腕時計は朱里や白奈が何度も審査をして、これならばまぁと妥協した値段の腕時計である。それでも、高校生がプレゼントとして貰うには相当高価な部類に入る事は間違い無い。


「良い物程長持ちするものだ。せっかくだから、長く使って貰いたいからね」


「気持ちは分からないでも無いけど、相手が普通の高校生である事を考慮なさい! 身の丈に合った物を付けるのが一番なんだから!」


 春花は普通の高校生では無いけれど、この場で言うにはあまりに余計な事なので黙っておく。


「ふぇぇぇぇ……い、いっぱい買わされたよぅ……」


 朱里がレクシーを注意していると、双子に沢山お菓子を買わされたみのりが帰って来る。双子は両手にビニール袋一杯のお菓子を持って、誇らしげに掲げている。


「この話は今度きっちり詰めるとして……三人も戻って来た事だし、そろそろ行きましょうか」


「そうですね」


 朱里の言葉に、チェウォンも頷く。


 今までの明るかった空気は一変。朱里達とは別の話で盛り上がっていた珠緒や凛風も、しんみりとした雰囲気を醸し出す。


「それじゃあ、案内よろしく」


「ええ」


 レクシーに言われ、朱里は先頭を歩く。皆も黙ってそれに付いて行く。


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