表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
408/489

異譚3 あんがと

 朱美との挨拶を済ませ、一旦朱里の部屋に戻って来る。


「ってな感じだから、あの人の事は気にしないで」


「……うん」


 気にしないでと言われても、同居人である以上は気になってしまう。


 それでも、本人が気にしないでと言うのであれば、こちらから何か言う事はしない。本人にとっても、触れられたくない事だろうし。


「そんな事より、お昼ご飯はどうする? 何処かに食べに行く?」


「キッチンを使って良いなら、僕が何か作るけど」


「良いわよ、気を遣わないで。アンタに家事して欲しくて誘ったんじゃないんだから。お昼はどっか食べに行きましょう。ね?」


 朱美の分はどうするの? とは聞けなかった。此処はきっと素直に頷いた方が良いのだろう。


「……うん」


「よし。決まりね。そう言う事だから、アンタ達はお留守番ね」


『はいはい。どうぞ行ってらっしゃいませ』


「キヒヒ。二人で楽しんでくると良いさ。あ、お土産は期待しているよ」


 ヴルトゥームは当然として、チェシャ猫もペット可の所でなければ入店は出来ない。そのため、二人はお留守番である。


「分かってるわよ」


「じゃあ、行ってくるね」


 二人はお財布と携帯端末だけを持って、お店にご飯を食べに行く。


 二人が選んだのは、朱里の住むマンションの近くのファミレスだ。朱里の住むマンションは家賃も高く、セキュリティも万全。部屋数も多く、設備も整っているのだけれど、対策軍が作ったマンションであるため、魔法少女やその家族以外は入居不可である。


 ともあれ、対策軍が作ったマンションであるため、家賃が高く設備がよくとも、いわゆるところの高級住宅街に建っているわけでは無い。そのため、周囲には普通の民家もあるし、コンビニやファミレスも近くにあったりする。


 朱里の住むマンションからファミレスは徒歩数分圏内であるため、朱里も頻繁にそのファミレスを利用している。


ファミレスに入り、適当に注文をし、ドリンクバーで入れて来たジュースを飲む。


 暫く無言になる二人だけれど、唐突に朱里が口を開く。


「ごめん」


「え?」


 突然の謝罪に、思わず呆けた声が出る。


「気まずかったわよね、あんなとこ見せられて」


 あんなとことは、先程朱美に挨拶した時の事だろう。


「アンタを誘ったのはアタシなのに、アンタに気まずい思いさせるとか……ほんと、なにやってんだって感じよね……」


 からりからりとグラスの中の氷をストローで弄ぶ朱里。


「……あの人、たまにしか部屋から出てこないから、今日みたいな事にはならないと思う。アンタもあの人の事は気にしないで。ばったり会っちゃったら、挨拶だけしてくれれば良いから」


「……うん」


「はぁ……マジでゴメン。気まずかったら、いつでも出てって大丈夫だから。って、誘った側が言う事じゃないわよね……はぁ……」


 本当に申し訳無いと思っているのだろう。落ち込んだ様子で何度も溜息を吐いている。


「大丈夫。お邪魔してるのは僕の方だし。それに、最近は家庭に色々抱えてる人と接する機会が多いから、ちょっと慣れてる」


「それもどーなわけ? 世の中、家族円満の方が珍しいのかしらねぇ……」


 ずごごっと乱暴にジュースを飲む朱里。


「……因みに聞くけど、家庭に色々抱えてる人って誰?」


「菓子谷さん達と、上狼塚さん」


「あぁ……確かに、そうね」


 直接は関わってはいないけれど、朱里もこの三人の家庭環境については聞いている。


「二つとも、アンタが解決したんだっけ?」


「菓子谷さん家はよく話し合わなかった事が原因だから、僕の方から特に何かをした訳じゃないよ」


「それだって切っ掛けを作ったのはアンタな訳でしょ? そりゃ、双子もアンタにべったりになるわよ」


 からころとグラスの中の氷をストローで回す。


「アンタにとっては大した事じゃないかもしれないけど、わだかまりを解決するって当人にとっては難しい事なのよ。その切っ掛けを作ってくれるって、とってもありがたい事なんだから。それに、瑠奈莉愛ん時はアンタが動いてくれたんでしょ? あんな事になっちゃったけど、アイツも解決してくれたアンタには凄い感謝してたしね」


 出来る事なら、末永く幸せに暮らして欲しかった。それが、あんな結果になってしまった事は今でも残念でならない。


「偉ぶれだなんて言わないけど、アンタは確かに誰かを幸せにしたんだから。その事は、ちゃんと受け止めなさいよ」


「……うん」


 話が一区切りついたところで、タイミング良く二人が頼んでいた料理が届く。


「さっ、暗い話は終わり。この後も予定あるから、ちゃちゃっと食べちゃいましょ!」


「うん」


 朱里は頼んだパスタを上品に食べ、春花も頼んだサンドウィッチにぱくりとかぶりつく。


 話に一区切りは付いた。けれど、きっとこの話には続きがあるのだろう。なんとなく春花はそう思ったけれど、朱里にしつこく聞く気にはなれなかった。


 違っていたら朱里の機嫌を損ねるし、失礼になってしまう。


 それに、この後の予定の事を考えれば、深く突っ込んで聞いて朱里と気まずい空気になりたくはなかった。


 それ以前に、春花は何処まで突っ込んだ話をして良いのかが分からなかった。


 これは聞いて良い、これは聞いちゃ駄目。なんとなくは分かるけれど、なんとなくのラインが人よりも浅い事は自覚している。


 瑠奈莉愛の時は自ら首を突っ込んだけれど、あの時程の感情は今の春花には無い。


 まあ、暫くは朱里の家にお世話になるのだ。その間に何かあれば、その時に相談に乗るなりすればいい。春花よりもうんちくのあるチェシャ猫も居るのだ。三人で考えれば、何か良いアイデアも思い付くかもしれない。


 突っ込んで話は聞けない。その線引きが下手糞である事を春花は自覚している。けれど、向こうが話しやすい体勢を作る事は出来る。


「……何かあったら、言ってね?」


「はあ? 急に何よ」


 脈絡の無い春花の言葉に驚きながらも、朱里は少しだけ考えるような仕草を見せた後、小さく返す。


「……ま、なんかあったらね。そん時は、お願いするかもね」


「うん。何かあったら力になるよ」


「……あんがと」


 春花の言葉に、視線を逸らしながらお礼を言う朱里。


 その後、ご飯を食べ終わるまでこの話に触れる事は無く、他愛も無い会話を楽しんだ。朱里が少しだけ取り繕っているように見えたのは、きっと春花の気のせいでは無いだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ