女子会 16
次で最後です。
次が終わったら、新章に入ります。
お覚悟を
お夕飯を食べ終わった後、春花以外の全員が申し訳なさそうな表情を浮かべる。
それはそうだろう。甲斐甲斐しくお世話をする春花を尻目に、春花が食べる分を残す事も無く食べ尽くしてしまったのだから。
しかし、全員が申し訳なさそうな表情を浮かべてはいるけれど、春花は特に気にした様子もなく林檎を齧っている。
気にした様子を浮かべていないだけではなく、本当に特に気にしていない。そもそも春花は小食だし、お夕飯前に食べたお菓子である程度食欲は満たせている。足りなければカフェテリアに常備されている軽食を食べれば良いだけの話だし、気が向いたら余った食材でなにか簡単に作れば良い。
春花にとってはたったそれだけの事。
だが、春花以外にとってはそれだけの事では無い。
すき焼きを作ったのは春花であり、その春花が一口も食べていないというのは明らかに問題だ。少しでも残っていればまだマシだっただろうけれど、食べ尽くし界隈もびっくりな程綺麗に食べてしまっている。
「その……本当にごめん……」
「言い訳がましいかもしれないが、あまりの美味しさについ手が止まらず……」
「……申し開きも、無い……」
「本当に申し訳ございません……春花さんの手料理に、つい浮かれてしまい……」
「ごめん」
「なさい」
「いや、途中で気付けよって話ではあるかもだけど……全然気付かんかった……すまん」
「夢中になり過ぎちゃったネ……」
『本当に申し訳ございません』
「素直にごめんなさいする」
「私も、楽しさと美味しさで、つい……」
「ごめんね~。今から用意するからね~……」
「わ、わたしも手伝うよ! す、直ぐ作るからね!?」
口々に春花に謝罪する少女達だったけれど、春花はけろりとした様子で林檎を齧っている。
それどころか、何故そこまで謝るのだろうと不思議に思っているような表情を浮かべている。
「いえ、別に。お菓子でお腹一杯でしたし、それに、綺麗に食べてくれたので洗い物も楽でしたし」
「ぐっ……」
「洗い物も気付いてたら終わってた……っ」
「せめて洗い物にさえ気付けていれば……」
春花があまりに自然に食器を片付けたりするものだから、まったく気付く事が出来なかった。結果、夕飯のお世話を全て春花が行ったという事になる。
と言っても、食器洗いも食洗器があるので食器を運ぶだけである。食洗器に入らない鍋は春花が手で洗ったので、それだけでもやっていればと思うのだ。
「本当に、気にしてませんよ? それに、あれだけ美味しそうに頬張って貰えて、僕の方こそ、嬉しくて……」
全員、春花の作った料理に夢中になっていた。あれだけ美味しそうに頬張ってくれたのであれば、作ったかいがあると言うものだ。
以前の春花であれば、こんな気持ちにはならなかっただろう。料理を喜んで貰える事がこんなに嬉しいとは思っていなかった。
「美味しいって喜んで貰えて、凄く嬉しいです」
そう、素直な感想を口にしてから、春花は齧りかけだった林檎を食べる。
そんな春花の言葉を聞いて、唯と一は春花の隣に移動してぎゅーっと春花を抱きしめる。
「唯も」
「一も」
「ママの料理」
「食べられて」
「「すっごく嬉しい」」
ぎゅーっと春花を抱きしめる力を強める。
春花が自分からこんな事を言ったのは初めてであり、いつも面倒を見て貰っている二人は、どこか春花に無理をさせてしまっているかもしれないと思っているところがあった。けれど、今春花の心底からの本音を聞けたような気がして、嬉しくなってぎゅーっとしたくなってしまったのだ。
二人に抱きしめられ、春花は照れるでも恥ずかしがるでも無く、嬉しそうに少しだけ頬を緩める。
「ありがとう、二人共。僕も、お婆さんに教えて貰った料理を、二人に料理を食べて貰えて嬉しいよ」
春花も素直な気持ちを口にする。
三人の様子を見て、完全に母と子の関係だなと思う面々。それでも、三人の境遇を考えれば、そんな関係であっても良いのかもしれないとも思う。
片や記憶喪失で家族はおろか、過去の自分の記憶の全てを失っており、片やとんでもない両親にネグレクトをされ、親の愛情を知らずに育った双子。母のように慕える相手が居て、どんな形であれ慕ってくれる相手がいると言う事は、三人にとっては幸せな事なのかもしれない。
「じゃ、ワシも」
三人の温かい空気に割り込むように、春花の背後に回り込み、ぎゅっと春花を抱きしめるシャーロット。
「なんであんたが抱きしめてんだよ」
「お礼。身体で払うます」
「払える身体じゃねぇだろ」
「お互い様だす」
「あんたよりゃマシだよ。……………多分」
シャーロットと珠緒の身長は殆ど変わらない。そして、体型もそんなに変わらない。女性的な起伏に関して言えばどっこいどっこいといったところだろう。
「お礼なんて、大丈夫ですよ。それに、本当にお腹は――」
と、言った直後、春花のお腹からくぅ~っと可愛らしい音が鳴る。
その音を聞いた瞬間、笑良と白奈はキッチンへと向かう。
「やっぱりお腹空いてるじゃないの~!」
「口では何て言っても、身体は素直なのよね。今から作るから、ちょっと待ってて」
二人は慌てて料理を作りに行く。
「瘦せ我慢しなくて良いヨ。お腹空いたら空いたって言うネ」
「いえ、別に痩せ我慢では……」
本当にお腹は空いていなかった。けれど、どうしてか急にお腹が鳴ってしまい、空腹を主張し始めたのだ。
「お腹空いて無かったんだけどな……」
どうしてだろうと、不思議そうに小首を傾げる春花。
「ま、気でも緩んだんじゃねぇの?」
「大きい子供の世話をしたんだから、そりゃ疲れるわよね」
「……十人以上の、大家族……」
「くっ、お世話をされた手前、何も否定できません……!」
「つまり、ワシのママ。甘え放題。最高」
わしっと春花を抱きしめる力を強めるシャーロット。そんなシャーロットを見て、慌てて春花から引き剥がそうとするみのり。
「ち、違うよ! み、皆のママなんだから! ひ、独り占めは駄目だよぅ!!」
「……ママぁ、膝枕ぁ……」
「だ、駄目だよぅ!! ひ、膝から離れてよぅ!!」
いつの間にか春花の膝に頭を乗せて寛ぐ詩を見て、シャーロットを引き剥がしながら文句を言うみのり。
春花を中心にわちゃわちゃと騒がしくなる中、春花は淡々とした口調でこぼす。
「……僕、結婚すらしてないんだけどな」




