女子会 13
「それじゃあ、料理当番よろしく。負け組さん達」
熾烈な戦いを繰り広げ、見事最下位になったチームに良い笑顔で夕飯の準備を頼む朱里。
「分かった」
「……うーい……」
「へーい」
『了解です!!』
負けたのは罰ゲームを言い出した詩とシャーロットの所属する春花チーム。
最初こそ優勢だったけれど、徐々に劣勢になり、最後には借金を背負って見事なまでの完敗っぷりを見せつけた。
お夕飯の準備をするのに慣れている春花と餡子は別段罰ゲームを罰ゲームとも捉えてはいない様子だけれど、詩とシャーロットは明らかにテンションが下がっている。
「……出前で、良くね……?」
「激しく同意ます」
「駄目に決まってるじゃないですか。ちゃんと手料理でお願いします」
面倒臭がる詩とシャーロットに、手料理でと釘をさすチェウォン。チェウォンとしては、春花の手料理を食べられる良い機会だ。絶対に手料理一択である。
「じゃあ、お買い物行ってきますね」
「その恰好で行くの~? 上に何か着た方がいいわよ~?」
部屋着のままで買い物に行こうとする春花を引き留め、上から何かを着ていくようにと伝える笑良。提案のように言っているけれど、実質着て行きなさいという指示である。
春花が部屋着で買い物に行くのを恥ずかしがらないのは知っている。他の子達も、餡子以外はそんな事は気にも留めないだろう。だが、本人達が気にしなくとも、周りがそれを気にする。
魔法少女三人が部屋着で楽しそうにお買い物をしていては、今のご時世を考えると周囲からの見られ方はあまり良くはない。こんなに大変な時に楽しく女子会を開くなんて不謹慎だ。魔法少女が護れなかった分こちらが割を食っているのに。なんて、写真にでも撮られてネットにでも上げられてはたまったものではない。
少女達にも羽を伸ばす時間は必要だと理解を示してくれる人は大勢いるだろうし、いつもは集まる事の出来ない海外の魔法少女を労いたいという気持ちを汲んでくれる人も居るだろう。だが、今の不便を魔法少女の怠慢だと思う者も少なくない。
「分かりました。羽織ってから行きます」
「ええ、そうした方がいいわよ~。春花ちゃん可愛いから、隙のある恰好すると悪い人に絡まれちゃうと思うし~」
春花が何処まで笑良の意図を理解しているかは分からないけれど、羽織ってから買い物に行ってくれるつもりだと分かり、内心ではほっと安堵する笑良。
こういう楽しい場だ。下手な言い回しで皆の楽しい気持ちを削ぐような事はしたくない。
「こいつに絡んで勝てる男の方が少ねぇと思うけどな……」
笑良の言葉に、クルールー教団でのガンアクションを思い出しながら呟く珠緒。銃が無くとも、春花の体術には目を見張るものがあった。世の男性の大半は春花に勝つ事は出来ないだろう。
「僕、ちょっと上に着て来ます。三人はロビーで待っててください」
それだけ言って、春花はカフェテリアを後にする。
詩、餡子、シャーロットの三人は、部屋着の上から服を着てお出かけの準備は万端である。
「……でっぱつ……」
「おー」
『行ってきます!』
早々に着替えを済ませた三人は、たたたっと元気良くカフェテリアを後にする。
「いや~、楽しみネ。本場の日本料理~」
「そうだね。春花さんは料理が得意と聞いたから、とても楽しみだよ」
「そーいや、何作るとか聞いて無かったけど大丈夫か?」
「まぁ、有栖川くんに任せておけば問題無いわよ。人数も多いし、料理に割く時間もそんなに無い。となると、ちょっと早いけど鍋かすき焼きかしらね?」
「す、すき焼き、良いね。鍋でも、締めのうどんが美味しいし」
「えー。我、卵焼きとか食べてみたいヨ~。あれ憧れだったネ~」
「まだ滞在期間もあるんだから、お願いすれば作ってくれますよ。かく言う私も、春花さんの本格的な家庭料理が食べてみたいので、お金を支払ってでも作ってもらうつもりです」
「あんまアイツに負担かけるんじゃ無いわよ。まぁ、子供二人の面倒見てるくらいだから、あんまり手間には感じないかもしれないけど」
子供二人と聞いた唯と一は特に怒る様子も無く、元気良く朱里に向けてブイサインを見せる。
「子供の」
「特権」
「貴方達、一つしか歳変わらないでしょうに……」
「でもでも~、春花ちゃんのお料理とっても美味しいから~、ワタシも楽しみだったりするのよね~」
「あの時はお弁当に入ってたのよね。冷めていても美味しかったけど、出来立てならもっと美味しいわよね」
アトラク=ナクアが亀裂を作った後、唯と一のお婆さんが作ってくれたお弁当を食べた事がある。その時に、春花の手料理も入っていた。白奈の言う通り、冷めていても美味しかったけれど、出来立てであればもっと美味しかったに違いない。
「ていうか、誰もあいつに振舞うって言わないよな」
「あー……」
珠緒の何気ない言葉に、幾人かを除いて気まずそうな表情を浮かべる。
「有栖川くんのお料理本当に美味しいから、振舞うっていう感覚無かったかも……」
「確かに~。また食べたい、ってなるのよね~」
「ていうか、あれだけ美味しいとアタシの手料理じゃ太刀打ち出来ないのよね。ご飯を奢るとか、そういう発想は出て来るんだけど……」
「唯と」
「一は」
「「食べ専」」
「ママンの」
「手料理」
「「大好き」」
完全に胃袋を掴まれた上に、お世話をして貰う気満々の唯と一は特に悪びれた様子はない。ただ、母の日やクリスマスなど、記念日にうんと喜ぶプレゼントを渡そうと思案をしている。
「なら、私はディナーにでも誘おうかな。夜景の見えるレストランなんて良いかもしれない。どうせなら、長期休暇の際にイギリスにご招待しよう。イギリスの観光スポットを案内して、最後に夜景の見えるレストラン。うん、完璧だ」
プランを考えて、一人でうんうん頷いているレクシー。本気か冗談か分からないけれど、実行力があるので本気だろうが冗談だろうが春花をイギリスまで誘う事だろう。勿論、費用は全てレクシーが持つ。
「なっ」
先程の求婚の件もあり、レクシーの言動に割と敏感に反応してしまうチェウォンは驚いたように目を見開く。
「で、でしたら、私も韓国にお誘いします。韓国にも美味しい料理はいっぱいあります。何より、イギリスよりも近いので気軽に来ていただけますし。友人として、日頃の感謝の気持ちを込めて労わせていただきます」
とはいうけれど、観光地にはあまり詳しくないチェウォン。後でしっかり調べておこうと脳内タスクの最優先項目に捻じ込む。
「我、男に興味は無いけど、春花なら誘っても良いネ。お友達として、中国を案内するヨ」
レクシーに対抗意識を持って発言をしたチェウォンとは違い、純粋に異国の友人として中国にお誘いしようと考える凛風。凛風も春花への好感度は高い。友愛的な好感度として、ではあるけれど。
「その時は、皆も御招待するネ」
「気持ちはありがたいけど、流石に全員が日本を離れる訳にはいかないからね。でも、その時は中国に行った事の無い子の面倒を任せるわね」
「お任せあれヨ」
和気藹々。その表現が似合うくらい、ゆったりと楽しいお喋りの時間を過ごす少女達。
しばらく、気の抜けた時間をのんびり過ごしていると、荷物を持った四人がカフェテリアに戻って来た。
「戻りました」
お帰りなさいと言いかけた少女達。だが、春花の恰好を見て、全員が言葉を詰まらせる。
「「お帰りママン」」
しかして、唯と一だけは慣れた様子で春花の元へと駆け寄り、手に持った荷物を受け取ろうとする。
二人が慣れているという事は、二人にとっては見慣れた恰好。
そう、春花は割烹着を着ていたのだ。
若々しい少女然とした見た目なのに、割烹着を見事なまでに着こなす春花を見て思わず絶句する一同。
全員が春花から女子力以上の何かを感じ取った瞬間だった。




