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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第7章 蜘蛛の巣
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女子会 11

 求婚が失敗に終わったレクシーは、何事も無かったかのように朱里達の元へ戻り、楽しそうにお喋りに興じている。


 まるで台風のようだったレクシーから視線を外し、目の前のタブレット端末に視線を戻す珠緒。


「てか、意外だよな。あいつ、酒強そうなのに」


「レクシー、酒、中くらい。ワシ、酒つよつよ」


 そう言いながら、レクシーの飲んでいるお酒よりも度数の高いお酒を、平気な顔でごくごくと呷る。先程からぐびぐび飲んでいるけれど、まったく酔った様子の無いシャーロット。


「……それも、意外……」


「うい。良く言われるます」


「ていうか、あれ泥酔してないのか? はっちゃけ過ぎだったろ……」


「今日、スペシャル酔っとる。テンション高めの時代」


 普段のレクシーであれば、あんなにテンション高く酔う事は無い。気は緩むし、笑いのツボも浅くなるけれど、しっかりと自制をし、慎んだ行動を取る事が出来る。


 だが、今日のレクシーは自制をする必要が無いのに加えて、ずっとやってみたかったお泊り女子会、しかも全員が同じ服に身を包むと言う仲良し女子感満載の会にテンションはぶち上がっている。


 そのため、春花に対して求婚すると言う誰も予想しなかった行動を起こしたのだ。


「……でも、楽しいなら、何より……」


「何よりじゃありません。まったく、気を緩めすぎです。春花さんは一応男子なのですから、適切な距離感を持って接して貰いたいものです」


 ぷりぷりと怒った様子のチェウォンだが、周りの者はどの口がと言いたげな目でチェウォンを見る。


「なら、これも良く無いんじゃないカ?」


 凛風が代表してチェウォンに言えば、チェウォンははっきりとした口調で返す。


「いえ、必要です。これは春花さんを護るための防御陣形なのですから」


 チェウォンの言う防御態勢とはすなわち、春花の周囲を人で囲んでいる現状を指している。


 ソファに座る春花の隣にチェウォンと珠緒。春花の足元に凛風。その凛風を挟むようにシャーロットと詩が座っている。背後はがら空きだけれど、そこはチェウォンが頑張って抵抗する。


「……まぁ、あたしは別にかまわねぇけどよ」


 映画を一緒に観ながお喋りをしているだけだ。コメディ映画なのでお喋りをしながらでも観られるので、お喋りをしていてもチェウォンは特に文句を言わない。


 珠緒は女子会に拘りは無いので、こうして皆でまったりした時間を過ごせるのであればそんなに文句は無い。


 因みに、座る場所にも限りがあるので、みのりと餡子、唯と一は少し離れた位置でボードゲームやカードゲームをしている。ボードゲームであれば手を止めて餡子が書く(喋る)時間を取れるので、餡子も気にせず楽しむことが出来るだろう。


 実際、四人は楽しそうにボードゲームに興じている。


「しゃ、借金!? また借金しちゃったよ!?」


「シノギ、奪われた……」


「ハジキ、撃たれた……」


『指切っちゃいました!!』


「……あいつらなんのゲームしてんだ……」


 騒ぐ四人を見て、どんなゲームをしているのか少しだけ気になる珠緒。


「それにしても、随分過保護ネ」


 春花の膝に頭を預けるようにして、チェウォンの顔を見やる凛風。


 凛風が揶揄うように言えば、チェウォンはむっとしたように眉を寄せる。


「当り前です。酔っ払った成人女性に言い寄られた春花さんの精神的ストレスを思えば、これくらいは当然です」


「めっちゃディスられとる」


 仲間が酷い言われ様だけれど、シャーロットはけらけらと楽しそうに笑う。完璧超人であるレクシーが文句を言われる事など殆ど無い。それほどまでに隙が無く、完璧な振る舞いをしているのだ。こうも醜態をさらし、こうもぼろくそに言われるのも珍しい。


 それに、ぐうの音も出ない程の妥当な評価だ。楽しいのは良い事だけれど、いささか羽を伸ばし過ぎである。


「防御陣形の事だけじゃ無いネ。仲良しこよしの事ヨ」


 凛風が言っているのは、巻き込まれた防御陣形の事ではない。


チェウォンはぴったりと春花の隣に座り、春花の手を握って自身の太腿の上に置かせている。タブレット端末で流れている映画を観てはいるけれど、時折レクシーに意識を向けている状態だ。


 チェウォンだけが警戒態勢であれば別に文句は無いのだけれど、巻き込まれている少女達からしたら少しばかり異を唱えたくもなる。


「女子会って、もっと和気藹々(わきあいあい)するものだったはずネ。こんな厳戒態勢でやるのと違うヨ」


「私だってこんな厳戒態勢望んでません。ですが、秩序を乱されたのであれば話は別です。私は友人である春花さんを護る義務があるのですから」


 そう言って、春花の手を握る力を強めるチェウォン。


「別に、ストレスは感じてませんよ? ちょっとびっくりしたぐらいで……」


 しかして、告白された側の春花は特にストレスを感じた様子も無い。酔っ払ってるんだから仕方ないよね。くらいの気持ちである。きっと真面目に言った訳では無いのだろうとも考えている。


 結婚を前提に付き合うにしても、日本とイギリスでは距離があり過ぎるし、何より自分に求婚されるだけの魅力があるとは思えない。少し知り合いの男の子を揶揄ってやろうくらいのつもりだったのだろう。


「いいえ、そんな事はありません」


 春花は何ともないと言うけれど、チェウォンは頑としてそれを否定する。


「良いですか? 春花さんは寛容が過ぎます。相手の悪い所はちゃんと悪いと言わなければいけません。今回、犯罪者(レクシー)さんが身内だったから笑い話で済むかもしれませんが、これが見ず知らずの女性であれば笑い話では済みません。変な人に言い寄られたら、直ぐに周りの人に助けを求めるのです。良いですね?」


「はぁ……」


「はぁ、じゃありません。春花さんは自分の魅力に無頓着過ぎます。良いですか? 清潔感が在って、家事全般が得意で、所作が可愛らしい春花さんはとても魅力的なんですよ? 分かってます?」


 怒ったように言われるけれど、春花は自分の魅力なんてものは分からないので曖昧に小首を傾げるしか出来ない。


「分かってないみたいですね……」


 春花の反応を見て、むっと眉を寄せるチェウォン。


「では、皆さん一つずつ春花さんの良い所を言ってください。まずは私から。とても優しいです。出会ったばかりの私に友人が出来るように協力してくれました。はい、次」


 春花の良い所を一つ言って、珠緒を見やるチェウォン。


「え、あたしも?」


「当り前です。私よりも春花さんと一緒に居る時間は長いのですから、良い所の十や二十は出て来るでしょう?」


「えぇ……」


 突然の無茶振りに面倒臭そうな表情を浮かべる珠緒。


 ちらりと春花の顔色を窺えば、いつもと変わらない何を考えているか分からない無表情で珠緒を見ている。


「……付き合いそんなに長くねぇしなぁ……」


「そうだね。ヴルトゥームの時から、だよね」


 事務員として仕事をしてはいるけれど、その間は直接的に関わったりはしなかった。


 最近は話をするようにはなって来たけれど、関わって来た期間はあまりにも短い。


「あー……飯は美味かったな」


「ふふっ、ありがとう」


 絞り出すようにして珠緒が言えば、春花は少しだけ微笑んでお礼を言う。


「では次! シャーロットさん!」


 珍しく微笑んだ春花に思わずぎょっとしてしまう珠緒だったけれど、そんな珠緒の様子に気付いた様子も無く、チェウォンはシャーロットに水を向ける。春花も、珠緒からシャーロットへ視線を移す。


「出来れば、気恥ずかしいから止めていただけると……」


「何を言うのです! 自身の魅力を正しく認識してください! 常々思いますが、貴方は自己肯定感が低すぎます。貴方が私達にとってどれほど素敵な人なのかを――」


 くどくどくどくど春花を説き伏せるチェウォン。春花は黙ってチェウォンの有難いお説教を受け入れる。


「ワシの番……」


 春花をべた褒めする気満々だったシャーロットはお預けをくらい、しょぼんとした顔でチェウォンを見るけれど、チェウォンの口は止まる事は無かった。


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