女子会 8
ようやっと開催されたお泊り女子会。少女達は年相応のはしゃぎようを見せながら、楽しそうに語らいあう。
「レクシーちゃんって、良い人いたりしないの~?」
「居ない居ない! まぁ、ボーイフレンドだったり、結婚だったりは、興味はあるけれど……」
「でも、レクシーは異性より、同性にモテそうよね」
「あー……モテるのは嬉しいんだがな……」
白奈の言葉に、困った様子で微笑むレクシー。
白奈の言った通り、レクシーは異性よりも同性にモテる。同性からの告白は幾度もあったけれど、異性からとなると片手で数えられる程である。
レクシーの恋愛対象は異性なので、女の子達からの告白は丁重にお断りした。傷付けないように優しく言ったけれど、断った後に涙を流された事は少なくない。同性愛に理解が深まっている現代でも、やはり同性への告白には勇気がいるのだろう。まぁ、意中の相手に思いを告げるのだ。どちらにせよ勇気はいる。
「そういう、君達はどうなんだ? ボーイフレンドが欲しいとか思わないのかい?」
「アタシは別に。今は自分の事で手一杯だし」
「私も、特にそういうのは無いかな」
「ワタシは将来素敵なお嫁さんになるのが夢よ~」
朱里と白奈は特に欲しいとは思わず、笑良は将来の夢はお嫁さんだけれど、現状で特に彼氏が欲しいとは思っていない様子。
「うっ……若いって良いな……」
三人の様子にしょぼんと肩を落とすレクシー。
「レクシーだってまだ二十代でしょ? それに、こんなに素敵なんだから引く手あまただと思うけど」
「二十代の一年って、君達よりもずっと早いんだよ……」
現在九月末だけれど、レクシーの体感的にはまだ春を過ぎた程度。もう年始から半年も経っている事に恐怖すら覚える。
「それに、さっき言った通りさ。女性からのお誘いは多いけれど、男性からとなるとからっきしだ」
「レクシーちゃんから誘ってみれば~?」
「受けに回ってはいけないと思い、私も誘おうかと思ったんだが……」
「だが?」
レクシーは難しい顔をして、飲み物を一口飲む。
「……誰が好みだか、全然分からないんだ」
「「「あー」」」
レクシーの言葉に、三人は納得の声を漏らす。
「好意を向けられた事はあるんだが、好意を向けた事が無い。私も十代の頃は魔法少女の活動に専念したいと思っていたから、色恋は避けていたのだ……その結果、自分の好みすら分からない人間になってしまった……」
肩を落とし、ずーんと落ち込んだ様子でクッションを抱くレクシー。
「この性格の人だと落ち着くとか、この顔の人好みとか、そういうのも無いの?」
「うーん……分からん。だが、強いて言えば、優しい人が良い」
「誰だって優しくない人なんて嫌でしょ」
「朱里、茶々入れない。他には何か無いの?」
ぐびぐびっと飲み物を呷るレクシー。
「あー……顔は、別に気にしない。お金だって、私が稼いでるし……でも、家でずっとなまけられても嫌だ。働いて欲しい」
「まぁ、ヒモなんて嫌よね~」
「家に居るなら、家の事は任せておきたいわよね」
「じゃ、家事全般が出来る人ね」
「お金にだらしない人も嫌だ。私が頑張って稼いだお金で好き勝手されるのは腸が煮えくり返る」
「専業でやるなら、相談とかして欲しいわよね~。後は、お小遣い制にするとか~?」
「うん。そうだな。お小遣いの範疇であれば好きにしてくれて構わない」
「お金にだらしない人もNGって訳ね。ま、そりゃそうだわね」
喋り過ぎて喉が渇いたのか、ぐびぐびっと飲み物を呷るレクシー。
「この調子でどんどん言ってきましょう。そうすれば、最終的に自分が求めている人のタイプが分かるでしょうし」
「そうね。じゃあ、もっと細かく詰めていきましょうか」
今は彼氏などに興味は無いけれど、三人共この手の話が嫌いな訳ではない。お菓子を摘まみながら話を続ける。
「身長とかって気にするタイプ~?」
「小さくても良い。背の高い男性に憧れが無いわけではないが……私の背が高いからなぁ……」
レクシーの身長は178センチ。女性にしては身長はかなり高い部類に入る。レクシー以上となるとそうそう居ないだろう。
「確かに、レクシー以上ってなると限られるわよね……あ、でも、イギリスではそうでも無いのかしら?」
「うろ覚えだが、男性の平均身長の数字にそんなに差が無かったような……」
「でも、身長は小さくても良いんでしょ? ならそんなに気にしないでも良いんじゃない?」
「憧れはあるんだから、ちょっとは要素として入れておいても良いでしょ」
やいのやいのと少女達は姦しくお喋りに興じる。
楽しそうにお喋りをする少女達を見て、思わず頬が緩むレクシー。やはり、こうやって年相応にはしゃいでいる方がずっと健全だ。
ぐび、ぐびびっと飲み物を飲む。
ふと、視界の端に映る少年に意識が向く。
春花はチェウォンの隣に座り、タブレット端末で映画を観ている。
「うふふ~。これだけ楽しいんだから、アリスちゃんも来られれば良かったのに~」
「誘ったんだけどね。所用があって抜けられないんだとか」
アリスが春花である事を知っているのは、朱里と白奈のみ。故に、この場に春花が居るだなんて知るはずも無い。
アリスはどうしても外せない用事があって今回は不参加だと、白奈とは口裏を合わせて在る。他の面々に説明もしたし、特に疑問も抱かなかった。最近は付き合いが良いアリスだけれど、元々の付き合いが悪いので、来られなくとも仕方がないとは思われている。一緒に女子会が出来なくて残念ではあるけれど。
「用事があるなら仕方が無いわよ。次の機会にでも……どうしたの、レクシー?」
三人が盛り上がっていると、不意にふらふらっとレクシーが立ち上がる。
レクシーは白奈の言葉に返事をせず、迷う事無く春花の元へ向かう。
春花もレクシーの接近に気付き、自分に何か用でもあるのかとレクシーを見る。
「どうかしましたか?」
小首を傾げて春花が訊ねれば、映画の再生を止めたチェウォンもレクシーを見る。
「春花くん」
「はい」
レクシーは真っ直ぐに春花を見て、頬を朱に染めてしっかりとした口振りで言った。
「私と、結婚しよう」




