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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第7章 蜘蛛の巣
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女子会 7

 これだけ皆に好かれているのであれば、アリスの正体が春花だと知られたところで特に問題は無いように朱里は思う。けれど、きっと春花は嫌がるだろう。


 皆が好意を寄せてくれている。その好意が嫌悪に変わるのは、きっと誰であっても怖いはずだ。朱里だって、春花と同じ境遇に立たされれば同じように恐怖を抱くはずだ。


 きっと平気だろうけれど、それを決めるのは朱里ではない。背中を後押しする事は出来るだろうけれど、それ以上の事はするべきでは無いだろう。


 遊んでいる春花達から少し離れた位置に座り、携帯端末で暇潰しにSNSを見る。あんなにぎゅうぎゅうでは朱里の入る隙間は無い。それに、朱里以外の者と関わるのは良い傾向だ。朱里が行って、春花が自分を頼ってしまっても良くない。


「……」


 そこまで考えて、自然と春花が自分を頼るという考えが出て来た事に少しだけ驚く。それほどまで深く関わって来た事は違いないけれど、当然のように頼られると考え、当然のようにそれを受け入れている自分に少しばかり呆れてしまう。


 頼られる事は別に嫌ではないけれど、当然のように受け入れてしまっては、友人と言うよりは保護者である。ある程度は突っぱねた方が良いのかもしれないけれど、突っぱねて春花が悲しそうな表情をしようものならそれに耐えられる自信も無い。


 どうにも、甘やかす癖がついてしまったようだ。春花の境遇を考えれば悪い事ではないのかもしれないけれど、過ぎれば毒ともなろう。


「あいるびーばっく」


「今戻った……って、もしかして、この服はユニフォームとして支給でもされてるのかい?」


 程よい加減を覚えなければいけないなと考えていると、シャーロットとレクシーが戻って来た。


 戻って来たレクシーは皆の恰好を見て、呆れたようにジョークを飛ばす。何せ、全員同じ恰好をしているのだ。しかも、別段示し合わせた訳でも無い。


 レクシーはシャーロットがこの服が良いと言うので一緒の物を買った。レクシーとしてはこのような可愛い服を持っていないので、この機に乗じて可愛い服を手に入れるチャンスであった。


 仕方ないなぁという風を装って買ったけれど、内心ではとてもウキウキである。自分から更衣室で着替えてから行こうと提案するくらいにはウキウキであった。因みに、ジョークを飛ばしてはいるけれど、お揃いの服装で女子会が出来る事をとても喜ばしく思っている。


「お揃、嬉しみ」


 シャーロットは隠す事無くお揃いの服装である事を喜び、春花達の元へ駆けよる。


 レクシーは少しばかり浮足立った足取りで朱里の元へ向かい隣に座る。


「被害が少ないとは言え、常時より品揃えは悪くなっていたな。買うのに気が引けたよ」


「仕方ないわよ。店は無事でも仕入先が無事じゃないところもあるんだから。アタシも家からお菓子持って来たし、女子会する分には困らないでしょ」


「そうだな。こちらも菓子類は抑えて買って来た。このご時世だ、欲張ってしまってはあまりに思慮に欠けるからな」


 大変な時世だけれど、多少はめを外したところで咎められはしないだろうけれど、周囲を顧みずに豪遊しようものなら、それは咎められても仕方の無い事だ。


 その点、衣服であれば幾ら買ったところで咎められる事は無いだろう。それこそ、少し値が張るような物であればお店の売り上げにもなる。生活必需品が優先される中、ブランド物の衣服は優先度が下がる。売り上げが低迷してしまうお店としてはありがたい話なのだから。


「そういや、後来てないのって、チェウォンだけ?」


「そうなるな。土地勘が無いから、迷子にでもなっているのだろうか?」


「あの子しっかり者だから、迷子になるなんて考えられないけど……」


 なんて話をしていると、ゆっくりとカフェテリアの扉が開かれる。


「お待たせしました。ただいま、戻……り……」


 にこやかな笑みを浮かべて戻って来たチェウォンだったけれど、室内を見渡した瞬間から声に元気が無くなっていく。


「ああ、お帰りチェウォン。アンタが最後よ」


「丁度君の話をしていたところだ。迷子になっていないようで何よりだ」


 入って来たチェウォンを言葉で出迎える朱里とレクシー。他の者はゲームに夢中で気付いていない様子。聞こえてくる会話から察するに、丁度ボスと戦っているらしい。応援とアドバイスでとても白熱している。


「……して……」


 ぼそりと、チェウォンが言葉を漏らす。


「? どしたの?」


 朱里が心配したように聞くが、チェウォンは何故だか呆然としていて答えてはくれない。


「どうして……」


 ぽつりと、チェウォンが言葉を漏らす。今度こそ聞き取る事が出来たのだけれど、要領を得ない言葉に朱里はレクシーと顔を見合わせる。


 しかし、二人の疑問の回答は直ぐにチェウォンの口から紡がれる事となる。


「どうして全員お揃いなんですか!?」


 チェウォンがそう声を上げれば、騒いでいた連中もチェウォンが帰って来た事に気付く。


 全員同じ服を着ているのを見て愕然とするチェウォンを見て、顔を見合わせる少女達。


「どうしてって……特に理由は無いわよ?」


「そーそ。お揃いの方がこいつが疎外感ねぇだろって話。ま、あたしは笑良に言われて着て来ただけだけど」


「お、お揃いで女子会っていうのも、い、良いと思うよ!」


「それに、チェウォンも同じ服ネ」


 凛風の言う通り、チェウォンもまた同じデザインの服を着ている。勿論ブランドも同じである。


「そ、そうですけど! そうですけどぉ……」


 チェウォンにしては珍しく歯切れの悪い様子。


 チェウォンは女子会を開くと聞いて直ぐ、春花と同じ服を買うと決めた。理由は単純明快。お揃いの方が仲良し感が増すと思ったからだ。


 お揃いの服に身を包み、夜に語り尽くせば友人として(・・・・・)更に仲良くなれると思ったのだ。


 何人か春花とお揃いにはするだろうけれど、それも居て一人や二人だろうと考えていた。それが、まさか全員同じ恰好になるとは誰が予想していただろうか?


 折角の仲良し大作戦がのっけから躓いてしまった事で、チェウォンは残念そうに肩を落とした。


 ともあれ、これで参加者は全員揃った事になる。待ちに待った女子会が、ついに開かれる事と相成った訳だが……この女子会が混沌に陥る事を、少女達はまだ知るよしも無かった。


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