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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第7章 蜘蛛の巣
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異譚49 龍星

エピローグ書いて七章終了です。その後、SSを書いてから八章に入ります。

 三人のお陰で大部分が削れた。それでも、神核まではまだ遠い。にも関わらず、上空で待機していた二人は余裕の表情を浮かべている。


「行けるんでしょうね?」


「誰に言ってるのですか? 貴女こそ、覚醒ほやほやで私に後れを取ったら恥ずかしいですよ?」


「はっ! このアタシが、アンタに後れを取った事があったかしら? アンタこそ、大口叩いといてアタシの火力に付いて来られなかったら恥ずかしいわよ?」


 チェウォンの挑発にロデスコは鼻で笑って返す。


 とはいえ、笑っていられる状況ではない。未だに神核までの距離は遠い上に、他の皆と同様に二人の残りの魔力量もそう多くは無い。加えて言うのであれば時間も残されていない。


 つまり、この一撃で決めなければいけない。


 それを理解していてなお、二人は笑みを浮かべている。


「では、お先に失礼しますね。認めるのは悔しいですが、初速は私の方が遅いので」


「本気で行って良いわよ。全然追い付くから」


「初めからそのつもりですよ」


 笑みを浮かべ、チェウォンは急降下する。


 この提案はチェウォンの方からした。スノーホワイトが凍らせた段階で、順繰りに大技を放っていては間に合わないであろう事に気付いたチェウォンは、アーサーと凛風にある程度削って貰ってから二人で大技を放とうとロデスコに提案をした。


 同じ属性、同じ攻撃方法であれば二人もタイミングを合わせやすい。それに、魔法はイメージだ。二人の炎が合わさり、より強力な大火となる事をイメージ出来れば、きっと神核まで届く。


「とはいえ、イメージするのは苦手です。……今はただ、勝てる未来だけ思い描きましょう」


 腹を括り、チェウォンは力の限り咆える。


「燃えろッ!! 百頭龍(ラードーン)ッ!!」


 気迫の声と共に、百頭の龍がチェウォンから放たれる。常であれば、百頭の龍はそのまま敵に降り注ぐ。だがそれでは面の攻撃になってしまう。一点に集める事も出来るけれど、それだけでは威力は足りないし、何よりロデスコと合わせる事が出来ない。


 故に、チェウォンが導き出した答えは一つ。


「来なさいッ!! 百頭龍(ラードーン)ッ!!」


 放たれた百頭の龍は旋回し、チェウォンの背後に回り込む。そして、百頭が一つに合わさり、一つの龍となってチェウォンを飲み込む。


 自分自身が龍と一体となりながら蹴りを放つ。これが、チェウォンの導き出した答え。


 巨大な龍は豪速でアトラク=ナクアへと迫る。


「なるほど。そう来たか……。うん、良い事思い付いたわ」


 にやりと勝ち気に笑みを浮かべ、ロデスコは高らかに声を上げる。


「燃えろッ!! 赤い靴(ロデスコ)ッ!!」


 直後、赤い具足は発熱し、全身から熱波が吹き荒れる。


 ロデスコは速度を上げ続けるチェウォンに追い付くべく、炎を噴き上げて下降する。その様子は正しく流星。


 初速が既に最高速度であるロデスコは、みるみる内にチェウォンへと追い付く。


 流星が龍と並ぶ。その瞬間、二つの炎が溶け合い、混ざり合う。混ざり合った炎は火力を上げ赤熱し、造形の弱かった龍はその輪郭を鮮明にするも、胴体の途中からは真のある尾と、靄のような尾が生えている。それはまるで、彗星から放たれるイオンテイルとダストテイルのような形状だった。


「行くわよッ、チェウォンッ!!」


「行きますよッ、ロデスコッ!!」


 示し合わせたかのように、同時に互いを呼ぶロデスコとチェウォン。


 身体を寄せて、跳び蹴りの姿勢を取る。


 龍の形をした流星――龍星(・・)がアトラク=ナクアへと降り注ぐ。


 その龍星に誰もが目を奪われた。魔法少女も知能指数の低い灰色の織り手も、龍星(それ)の放つ冒涜的な光に本能から目を奪われた。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああッ!!」


「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああッ!!」


 咆えぬ龍星の代わりに、二人が咆える。


 二人の咆哮を響かせながら、龍星はアトラク=ナクアに喰らい付いた。


 瞬間、巨大な爆発が起こる。爆炎が広がり、きのこの様な雲(・・・・・・・)が上がり、衝撃がアトラク=ナクアだけでなく空気を揺らし、衝撃波は敵味方関係無しに襲い掛かる。


 爆発の熱と衝撃波に、思わず両腕で顔を護る者や、盾を出して身を護る者、身構えや防御が間に合わずに吹き飛ばされる者と様々だ。そしてそれは、蜘蛛達も例外ではない。


「ロデスコ、チェウォン……っ!!」


 あまりの衝撃に技を放った二人の身を案ずるアリス。


 バイザーで二人の安否を確認しようとするも、あまりの熱と魔力の散布で探知が出来ない。


 今出来る事は二人の無事を信じて待つ事だけだ。


 緩やかに炎が霧散し、熱と衝撃によって上がった粉塵が晴れていく。


「うぇっほっ、げほっ、おぇっ……!!」


「けほっ、こほっ……っ……ちょっと、ロデスコさん? 締まらない咳するの止めてください。すっごいおじさん臭いです」


「仕方ないでしょうが! 気管に入ったんだからっほぇっ!! えぇっへっ!!」


「はぁ……もう、台無しです」


 炎や粉塵が晴れた先には、悠然と立つ……とは、少しばかり言い難い二人の姿が在った。


「良かった……」


 二人の無事を目視で確認できたアリスは、安堵の息を漏らす。


 おじさんみたいな咳をしながらも、ロデスコは頑張って呼吸を整えながらアリスの方を見上げる。


 そして、安心させるように力強く親指を立てる。


 それを見ただけで、アリスは放ち続けていた致命の極光を止めた。勝ったのだ。二人はやり遂げて見せたのだ。


「アンタが喰うよりも、アタシ達の方が早く喰い終わったわね。御馳走様。ゲテモノ神様」


「韻踏んでます?」


「別に踏んで無いわよ! アタシもちょっと思ったけど!」


 言い合いながら、二人はその場に座り込む。


 流石に疲れた。魔力も残り少ないし、体力的にも相当消耗している。周囲に灰色の織り手の気配も無い。少し休む余裕はあるだろう。


 ゆっくりと、アトラク=ナクアの身体が崩れていく。それに気付いてはいるけれど、二人に焦った様子は無い。


「あー……疲れた……送迎よろしくね、アリス」


 二人の前に降り立つアリスに、ロデスコはだらしなく脚を伸ばしながら言う。


「私も疲れてる」


 そうは言うけれど、アリスは背後に小さな飛空艇を出現させている。飛空艇とは分かるけれど、見た事の無い形状をしている。


「乗って。快適な空の旅を案内してあげる」


「ウェルカムドリンクもよろしく。喉からから、お腹ぺこぺこ……」


「私も同乗してよろしいですか? 流石に疲れました」


「構わない。乗って」


「ありがとうございます」


 三人は飛空艇に乗り込み、アトラク=ナクアから離れる。


 途中で他の魔法少女達を拾ったりしながら、ゆっくりと崩れ行くアトラク=ナクアの身体を横断する。


 がらがらと崩れ落ちるアトラク=ナクアを見て、ロデスコはじんわりと自分達が勝った事を実感する。


「ふぅ……これにて、一件落着ね……」


 そう呟くと緊張の糸が切れたのか、ロデスコはゆっくりと眠りにつき、アリスの肩に頭を預けた。


 自動操縦のため、アリスが操縦する必要は無い。そのため、甲板に出て座りながらアトラク=ナクアの様子を見ていたのだ。


「お疲れ様、ロデスコ」


 自身の方に頭を預けるロデスコを労いながら、アリスは崩れ行くアトラク=ナクアを見詰める。


 こうして、史上類を見ない被害をもたらした世界の敵、アトラク=ナクアは倒された。世界規模の戦いは幕を閉じたのだった。


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この物語に決着がつく頃には人類半減してそう。
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