異譚48 連撃連打
シュティーフェルの放った魔法は確かに響き渡る。
シュティーフェルの声はアトラク=ナクアの身体を震わせ、小さな波紋となって浸透する。それだけではただの小さな波紋に過ぎない。その波紋は別の波紋に当たり、その波紋は響き方を変える。
響き方の変わった波紋が更に別の波紋の響き方を変え、音は、少しずつ形を変える。
そして――
『ピィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイ――』
――たった一つの音が、運命を好転させる。
「でかした、シュティーフェル!!」
音を聞いた直後、ロデスコは大声でシュティーフェルを褒め称える。
その間も、爆音で鳴り響き神核の真上へ移動するトランプの兵隊。
神核の真上に到着すると、トランプの兵隊はそこに印を付けてから退避する。
「ええ、本当に。良くやったわ。ヘンゼル、グレーテル、この子をお願いね」
「「ほいさっさー」」
シュティーフェルが走っていたのをスノーホワイト同様に見付けていたヘンゼルとグレーテルが、倒れたシュティーフェルの回収に来たのだ。
ヘンゼルとグレーテルにシュティーフェルを預けた直後、スノーホワイトは即座に印の位置へと向かう。
「一番槍は貰うわね、ロデスコ」
氷を放出し続け、その勢いで高速で前進するスノーホワイト。その姿を上から確認していたロデスコは、スノーホワイトが何をしようとしているのかを瞬時に理解した。
「まずは脆くしなくちゃね」
印の真上で止まると、スノーホワイトは優雅に膝を付いて印に触れる。
「絶対零度」
瞬間、スノーホワイトを起点に広範囲に渡り全てが凍り付く。アトラク=ナクアの身体も、その中に居る灰色の織り手も、なにもかも例外無く全てが凍る。
本当であれば出力を調整して、神核に向けて一直線に凍らせたいところだけれど、触れた対象を起点に発動するため方向を定める事が難しい。意識的にやってみたけれど、多少深くまで凍った程度となってしまった。
「ふぅ……まだまだね、私」
膨大な魔力が身体から一気に放出されたため、多少ふらつきながらスノーホワイトはその場を離脱する。
ヴルトゥームの時は咄嗟だったために全ての魔力を使ってしまったけれど、今回は準備をする余裕があった。それでも、この一回が限度だ。次は出せない。
「後はお願いね、アーサー」
「心得た」
スノーホワイトと入れ替わるように、聖剣を携えたアーサーが印の元へとやって来る。
「聖剣解放」
そう唱えた直後、アーサーの持つ聖剣が黄金に光り輝く。眩い程の黄金の光に照らされただけでアトラク=ナクアの身体は煙を上げて焼かれ、凍り付いた部分が融解する。
「派手に行こう」
踏み込み、一閃。
光の斬撃が直撃し、アトラク=ナクアの身体が割れる。氷の影響で脆くなっていたというのもあるだろうけれど、それ以上に斬撃の衝撃は波及しており凍り付いていない部分も罅割れてぼろぼろに破損する。
「まだまだ。シュティーフェルの頑張りに報いないとね」
一閃、一閃、一閃――――
目にも止まらぬ連撃は、まるで地震でも起きているかのようにアトラク=ナクアの身体を揺らす。
アーサーの聖剣は邪なる存在に対する絶対優位の武器。放つ光はそれだけで邪なる相手を焼き、その斬撃ともなれば斬撃そのもののダメージと光の浄化作用により、通常の斬撃以上のダメージを相手に与える。
一閃一閃が特攻であり、相手が邪なる者であれば誰であれ弱点を突かれる形になる。
「聖槍解放」
右手に聖剣、左手に聖槍を持ち、更に連撃の速度を上げる。
アリスと同じように強制的に相手の弱点を突ける。けれど、流石のアーサーと言えども単騎でアトラク=ナクアの身体を切り開き続ける事は不可能だ。此処に来るまでに幾つも戦闘を行っている。魔力を使い果たすつもりで斬りかかったけれど、完全に魔力切れを起こしては離脱が出来ない。
「此処までか……後は任せたよ、凛風」
「承ったネ!!」
アーサーの離脱と同時に、凛風達が觔斗雲に乗ってアーサーが穿った地点へ殺到する。
凛風は多岐に渡る魔法を使う事が出来る。どれも強力無比であり、アリスの魔法には劣るもののその自由度は比較的高い部類に入る。
凛風の魔法は確実に強みである。が、一番の強みはなんと言っても一番頼れる相棒である。
「伸びロッ!! 如意棒ッ!!」
凛風が召喚した分身は一斉に如意棒を伸ばして、穿たれたアトラク=ナクアの身体に叩き込む。
如意棒。その見てくれに反して異常に重く、掠っただけで傷を負い、打たれれば直ちに死亡すると言われている程である。
打てばそれだけで大ダメージを与える事が出来る。それだけも武器として十分な能力だけれど、それを扱う凛風は並外れた棒術の達人である。
故に、ただ振る以上のダメージを相手に与える事が出来る。例えそれが空中であろうとも関係無い。自身が召喚した觔斗雲の上であれば、どんな体勢だろうと痛恨の一撃を相手に与える事が出来る。
その技量は分身にも引き継がれている。つまり、達人の放つ必殺の一撃を、複数人が同時に放つ事が可能という事だ。
凛風の召喚した分身は九体。自身と合わせれば、都合十人の達人が棒術の極意を持って一斉にかかっているという事になる。
当然、さしものアトラク=ナクアと言えどもただでは済まない。
幾つも響き渡る衝撃。
「なーっはっはっはっ!! でっかい的は楽で良いネッ!!」
「女の子とのイチャラブタイムを邪魔した報いを受けるヨッ!!」
「デートの予定が白紙になったネッ!! その命で償って貰うヨッ!!」
口々に文句を言いながら、凛風はアトラク=ナクアを袋叩きにする。
だが、凛風もアーサー同様に此処に来るまでに幾つもの戦闘をこなしている。それに、分身にも時間制限がある。次々と活動限界を迎えた分身が姿を消す。
「あっ、もう消えるネッ!!」
「死ねッ、糞蜘蛛ッ!!」
「お前に食わせるモンは無いネッ!!」
「【放送禁止用語】ッ!!」
最後にとんでもない事を言って、最後の分身が姿を消す。
「フィナーレは譲るネッ!! 此処まで来たら行けるだロッ!?」
觔斗雲を操り、凛風はその場から離脱する。
凛風の言葉を受け、二人は勝ち気に笑みを浮かべる。
「「上等よ(です)」」




