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魔法少女異譚【書籍化決定】  作者: 槻白倫
第7章 蜘蛛の巣

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異譚47 大きな嘘

 アトラク=ナクアの背中の上を走るシュティーフェル。


『アトラク=ナクアはまだ完全に覚醒してない! 倒すなら今しかない! 脚は私が止めるから、全員で本体と神核をお願い! 何処に神核があるかは分からないから、全員で攻撃して!! 頭部に近い人は頭部を攻撃して!!』


 アリスのこの言葉を聞いて、シュティーフェルは自分の力が役に立つと思った。シュティーフェルの魔法『猫の二枚舌(ねこじた)』は嘘を(まこと)にする能力。ただ、無から有を生み出す事は出来ないし、不可能を可能にする事は出来ない。


 アリスの魔法のように自由度が高い訳では無い。それでも、アリスには無い能力を持っている。


 それが可能な範囲であれば、どんな嘘でも実現する事が出来る。神核を探すのが手間取っているのであれば、この能力は絶対に必要になる。例え徒労に終わったとしても、シュティーフェルは走らずにはいられなかった。


「すみません。私、行ってきます!! 神核を探すなら、私の魔法が必要になるかもしれません!!」


 猫の二枚舌(ねこじた)の効果範囲はシュティーフェルの声が聞こえる範囲。シュティーフェルの声が聞こえない範囲には魔法が適用されない。シュティーフェルの魔法で援護をするには、自分の声が届く範囲まで行かなければいけない。


 となれば、シュティーフェルは前線へ向かう必要がある。


 瑠奈莉愛の時は何も出来なかった。腕を吹き飛ばされ、戦線離脱を余儀なくされた。


 自分の実力不足だ。経験が足りなかった。仕方の無い事だった。なんて、シュティーフェルは思っていない。仕方の無い事なんて無い。シュティーフェルは魔法少女で、誰かを護らなければいけない。実力不足が仕方の無い事だなんて、そんなのはただの言い訳に過ぎない。


 実力不足だろうと、経験不足だろうと、護らなければいけないのだ。最後まで必死になって戦わなければいけないのだ。


 少しでも自分に出来る事があるのなら、その出来る事に没入すべきだ。


「先輩方、申し訳ございませんがこの場はお任せします!!」


 シュティーフェル一人が抜けたところで、戦線の維持に支障は無い。灰色の織り手の大部分は本体の防衛へと割かれているため、街を襲う個体の方が少ないくらいだ。


「ちょっ、シュティーフェルちゃん~!?」


「ひ、一人で行ったら、あ、危ないよ!?」


 サンベリーナとアシェンプテルの返事を聞く前に、シュティーフェルは走り出していた。


 迫り来る灰色の織り手達を巧みに掻い潜り、亀裂まで全力で走る。


「ほよっ!!」


 崖の(きわ)(きわ)で盛大にジャンプし、アトラク=ナクアの脚に飛び乗る。


 脚に飛び乗った後は、本体の方へとひたすら走る。


 走っている間に神核が見つかればそれで良い。けれど、残念な事にシュティーフェルが本体の方へと向かっている間に神核が見つかったという報告は上がらなかった。


であれば、やはり猫の二枚舌(ねこじた)は必要になる。嘘を本当にする力。例え微力だったとしても助力になれるはずだ。


どんな嘘だって、本当にしてやる。どんな嘘だって叶えてやる。世界を救うためなら、喉が潰れようが構わない。此処で動かなかったら、あの時、美奈に助けられた意味が無い。美奈の分まで、人を助けると決めた。精一杯戦って、精一杯生きるって決めたのだ。


 まだ一人じゃなんにも出来ない自分だけど、これくらいの事はやってみせないと美奈に顔向けできない。


 本体に到達した後も、シュティーフェルはひた走る。


 空を機械化したトランプの兵隊(カードソルジャーズ)が飛び、アトラク=ナクアの背中に等間隔に並ぶ。


 音で神核を探すという事をアーサーからの通信で知った。機械化されたトランプの兵隊(カードソルジャーズ)は音を拾うためにアトラク=ナクアの背中に張り付いているのだと理解した。


 それが分かれば、魔法のイメージがしやすい。


 遠くの方で百頭の龍が降り注ぐのが見える。至る所で魔法が放たれ、神核を探そうと様々な旋律を奏でている。


 それでも、神核は見つからない。見つからない理由は分からない。神核まで音が届いていないとか、そもそも神核が音を反射しないとか、色々考えられるけれど、今のシュティーフェルにそんな思考(ノイズ)は必要無い。


 ただ、嘘を真にすれば良い。


 ただ、運命を捻じ曲げれば良い。


 ただ、己を信じて叫べば良い。


「――すぅ……っ」


 息を吸い込む。


 空に浮いているロデスコが目に入る。


 神核を見付けた後が心配だったけれど、ロデスコが居るのであれば安心できる。


 吸い込んだ空気を音に変え、音に魔力を乗せて言葉を紡ぐ。


『皆さんは、神核を見付けられます。絶対に、絶対に、です!!』


 爆音に負けないくらいに声を張り上げた。


「っぉ……っ」


 直後、膨大な量の吐血。視界が真っ赤に染まり、手足に力が入らなくなり、その場に倒れ込む。


あまりにも大きな嘘の為、限界(キャパシティ)を軽々と超えてしまったのだ。


「ま……だ……まだ……ぁ……っ」


 それでも、シュティーフェルは更に言葉を紡ごうとする。


「いいえ、大丈夫よ」


 その口を、ひんやりとした冷たい手が優しく塞ぐ。


「良くやったわ。偉いわね」


 力無く倒れるシュティーフェルを、途中でシュティーフェルを見かけて追いかけて来たスノーホワイトが優しく抱き上げる。


「後は、私達に任せて」


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