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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第7章 蜘蛛の巣
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異譚46 思い出

 アリスの合図(こえ)を聞いたチェウォンは即座に技を放つ。


「燃えろ、百頭龍(ラードーン)ッ!!」


 気合の声と共に、チェウォンから百頭の龍が放たれる。


 百頭の龍は広範囲に広がり、アトラク=ナクアを襲撃する。


「なんでチェウォンだけネ!! 我も居るヨ!!」


 分身を使った凛風が如意棒や妖術を駆使して、広範囲に攻撃を仕掛ける。


 凛風だけでは無い。アリスの合図を聞いた全ての魔法少女が同時に攻撃を仕掛けていた。


流石のチェウォンでも、アトラク=ナクアの身体を全て網羅することは出来ない。作戦の概要を伝えられた際に、アーサーは全ての魔法少女に合図の後になるべく音が反響するような攻撃をするようにと伝えていた。


 全員が、アトラク=ナクアの身体に向かって攻撃を放つ。


 攻撃はアトラク=ナクアの身体を震わせる。衝撃は振動となってアトラク=ナクアの身体を揺らし、音は波紋となって体中に広がる。


 トランプの兵隊(カードソルジャーズ)は収音装置をアトラク=ナクアの身体に付け、音の波形から神核の位置を割り出そうと収音と計算を繰り返す。


 他にも耳の良い魔法少女達は必死に耳を澄まし、神核の位置を割り出そうとしている。


 小さな音の違和感も聞き逃さない。全神経を自身の感覚器官へと集中させる。


 けれど、それだけではきっと足りない。その足りないモノを補うために、魔法少女達は補助魔法をかける。


 アリスの作り出したトランプの兵隊(カードソルジャーズ)の収音範囲は広い。だが、それでも網羅できない程にアトラク=ナクアの身体は巨大である。


 それを考慮した上で、アリスはある程度の当たりを付けてトランプの兵隊(カードソルジャーズ)を配置している。


 それでも、神核の反応を捉える事は出来ない。音の反響する深度が足りないのか、そもそも音では神核を割り出す事が出来ないのか。いや、そんなはずはない。それが概念的なものであれば音を跳ね返す事は無いだろうけれど、神核は実在しているのだから、音くらい跳ね返すはずだ。


 アリス・エンシェントの時に使った、ウジャトの眼では神核の有無を確認は出来た。正確な位置などは眼が限界を迎えてしまったために知る事は出来なかったけれど、それでも神核は在るのだ。


 もう少しで脚を切断しきれる。そうすれば、アリスも神核を探す事にリソースを割ける。


 それなのに――


「もうっ、時間が……っ」


 ――残された時間はもう少ない。魔法少女達の猛攻に焦ったのか、喰らう事に全力を注いでいる。強靭な牙は岩盤を砕き、酸性の毒を垂れ流して地中を溶かす。そもそも、亀裂も深かった。喰らい尽くすのに初めからそう時間は掛からない。


既に、大部分を喰らい尽くしている現状。アリスが脚を斬り落とすよりも、アトラク=ナクアが地球の核に届く方が早い。


 魔法少女達は絶えず攻撃を続けてくれている。それでも、神核の位置を割り出す事は出来ない。


 脚を諦めてもう一度アリス・エンシェントのウジャトの眼で神核の位置を探した方が早いだろうか? それとも、脚を斬り落とす事を諦めてアリスも神核を探し出した方が良いのだろうか?


 アトラク=ナクアが現状で脚を動かさないのは動けば自壊するからであり、アリスが致命の極光を止めた途端に脚を回復させて喰らいやすいように体勢を整えるだろう。 


 アリスの致命の極光の効力が薄いのは、アトラク=ナクアが頑丈なのもあるけれど、有りえない程に再生能力が高い事も上げられる。


 アトラク=ナクアの体内に居る灰色の織り手が即座に糸を飛ばし、新しい身体を作り上げて損傷個所を埋める。魔法少女よりも灰色の織り手の方が圧倒的に数が多いため、回復の妨害をするけれど間に合わない。


 悠長に戦っている時間が無い以上、アリス達は一発勝負に賭けるしか無いのだ。


 その賭けの勝率を上げる事を優先するべきだ。例え、八本の脚が人々に甚大な被害をもたらしたとしても、地球が無くなってしまえば元も子も無いのだから。


 それは分かっている。分かっているけれど。


「……っ」


 脳裏に過ぎるのは瑠奈莉愛の笑顔。瑠奈莉愛と買い物をしたスーパー。瑠奈莉愛やその姉弟達と遊んだショッピングモール。海や、プール。


 瑠奈莉愛達だけじゃない。沢山の人と関わり合ったこの街には、あまりにも思い出が多すぎる。たった二年しか記憶の無いアリスですら、この街に思い出があり、思い入れがある。


 なら、この街にずっと住んでいた人達はアリス以上に思い出が在るはずだ。それを軽々に切り捨てる事は、今のアリスには出来ないし、断腸の思いだとしても、やはり出来ない。


「私は……どうすれば……っ」


 これだけ強くなったのに、まだ足りない。それなら、また鍵を――


「アリスッ!! しゃんとなさいッ!!」


 下方から、致命の極光の音に搔き消される事が無い程に大きな声がアリスを叱咤する。


 声の主は、下方に注意を払いながらも、アリスの様子逐一確認していたロデスコだった。


 無茶をしている様子だったから、倒れた時に即座に対応出来るように時たま様子を確認していたのだ。


 そんなアリスが珍しく苦悩したような顔をしていたから、ムカッと来て思わず声を張り上げてしまった。


「んな不細工な顔してどーすんのッ!! アンタが信じて託したんだから、最後までアタシ達を信じ抜きなさいッ!!」


「ロデスコ……」


 ロデスコに視線を合わせるアリス。


 目が合うと、ロデスコはふんっと呆れたように一つ息を吐いてから視線を下ろした。


「安心なさいな。ウチの子達は優秀よ」


 ロデスコが下した視線の先。そこには、アトラク=ナクアの体表を走る一人の猫の姿が在った。


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