異譚45 機械化兵
此処数日、無気力状態が続いてなーんも書けませんでした。寒いからですかね?
今年中にはこの章を終えられるので、安心してください。
爆速でアリスの元へ向かうロデスコは、途中でマーメイドを見付けて音の反響で核を見付けるから準備をしておけと伝える。
二人に伝えた後、上空で待機しているアリスの元へ一直線に空を駆ける。
「アリス!!」
「っ、ロデスコ!! 神核は!?」
『無事で良かった』や『心配かけてごめん』なんて言葉は後回し。今はそんな事よりも優先する事がある。
「それを今から探すのよ! 音の反響で神核の位置を割り出すわ! マーメイドとラビットには話してあるけど、あの二人だけじゃ広大な範囲をカバー出来ないわ! アンタ、手ぇ回せる!?」
「――っ、やってみる……!」
アリス・エンシェントの時と同じようにほぼ無限の魔力を使用する事は出来るけれど、衛星軌道上に配置した転移装置の維持に多くのキャパシティを割いているために、それ以外の魔法を使う事が殆ど出来ない状態だ。
今のアリスに出来る事は少ないけれど、ロデスコの提案に力添えする事は出来る。
アリスはトランプの兵隊を生み出す。だが、見慣れたはずのトランプの兵隊とは様子が異なっていた。
通常、召喚されるトランプの兵隊は薄っぺらいカードの身体から頭と手足が生えており、手には各々武器を持っている。
だが、今回アリスが召喚したトランプの兵隊は、通常とはまったく異なる見た目をしていた。
薄いトランプの身体に変わりは無いけれど、その身体は通常よりも分厚く、材質も紙ではなく重厚な金属のようであった。手足もまた同じで、今までの少しだけ愛嬌のある見た目とは違い、造り物めいた不気味な雰囲気を醸し出している。
アリスに生み出されたトランプの兵隊は即座に背部に装着されたジェットパックで空を飛び、事前に決められた所定の位置へと散らばっていく。
「トランプの兵隊に戦闘能力は無い! 音を拾うだけの収音装置でしかないから、破壊される前に神核の特定を急いで!」
アリスの生み出したトランプの兵隊は通常の戦闘能力は有していない。魔法行使のキャパシティが限界のため、一つの行動しか行えないのだ。
だが、今は収音だけで充分だ。
「了解よ!! 準備が出来たら、チェウォンに合図送って!!」
即座に、ロデスコはその場を離脱する。
アリスの助力は得られた。次は、自分が役目を果たす番だ。
全体を大まかに見渡せる高度に留まり、ロデスコはその時を待つ。
最高火力を出すのに時間は要らない。最高速度を出すのに距離は要らない。何処でも即座に行けるように、高度を維持しているだけだ。
高速で飛翔するトランプの兵隊を見て、ロデスコは顔を顰める。
収音装置でしか無いと言っていたけれど、その速度は並みの魔法少女を軽く凌駕している。それこそ、速度は戦闘機並みと言っても良いだろう。
「……数足りなくない?」
トランプの兵隊はスペード、クラブ、ハート、ダイヤの四種にそれぞれ十三体ずつ存在している。けれど、今目の前で移動をしているのはたったの十三体。アリスはしっかりと五十二体のトランプの兵隊を召喚していたはずだ。
アリスの方を見やれば、その答えに気付く。
「座標指定完了。転送空間固定完了。転送出力安定化完了」
アリスの周囲に留まるクラブ、ハート、ダイヤのトランプの兵隊を三つの円形の機器が囲む。三種のトランプの兵隊は、それぞれひとまとまりになっており、それぞれが円形の機器の中に納まっている状態だった。
ただの移動では間に合わない。近場であれば良いけれど、相手は惑星を喰らう程強大な化物だ。アリスやロデスコの速度であれば、アトラク=ナクアの縦断にそう時間は掛からないだろうけれど、トランプの兵隊ではそうもいかない。
ただの移動では間に合わない。けれど、アリスには転移という移動手段がある。
もう既にかなりの体積を食い荒らされている。アトラク=ナクアは惑星全てを喰らう訳ではない。惑星の中心に位置する核のエネルギーさえ吸収出来れば良いのだ。
そうさせないためにも、多少の無茶は必要だ。
「……っ」
アリスの目、鼻、耳から血が流れる。致命の大剣の出力を落さず、八つの人工衛星による転送も維持している上で、更にトランプの兵隊の召喚と転送を行うのだ。
頭が痛い。いや、頭だけじゃない。身体中が悲鳴を上げている。
「ぐっ……ほっ……」
内臓から血がせり上がり、盛大に吐血する。
アリス・エンシェントの時よりも、身体が弱い。身体が弱いから、魔法を行使するためのキャパシティが足りない。流れる膨大な魔力に耐えられないのだ。それでも、行使する魔法はどれも規格外だけれど。
「全工程正常値確認。転送……開始……っ!!」
トランプの兵隊を転送すると同時に、更に大量に吐血をするアリス。致命の大剣を支える手からも力が抜けそうになるけれど、ぐっと堪える。
脚の切断まであと少し。自重で自壊するにはアトラク=ナクアは強度が高過ぎるので、ギリギリまで致命の極光で削らなければいけない。
本来であれば核があるであろう場所を致命の極光で狙った方が良かった。けれど、最終的に倒せたとしてもその時には地球は無くなっている。
頭を狙う事も考えたけれど、体内に残る灰色の織り手は直ぐに頭を織り治すはずだ。それに、致命の極光の照射で地面に大穴を開ける事になる。結果として、捕食までの時間を短くするだけになる。
ただ生き残るだけであれば、アリスが脚ではなく本体を攻撃し続けた方が賢明だ。けれど、人々の生活にはその先が在る。その先を続けるために、出来るだけ壊れて欲しくない。
「お、願い……ロデスコ……ッ!! 絶対に、倒して……ッ!!」
転送が終わり、トランプの兵隊はがそれぞれ配置に着くのを確認した直後、アリスは通信でチェウォンに合図を送る。
『準備完了!! チェウォン、放って!!』




