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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第7章 蜘蛛の巣
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異譚44 酒池肉林祝勝会

 ロデスコはアトラク=ナクアを蹴り付け続ける。


 何度も、何度も、何度も、何度も何度も何度も――


「かったいわねぇッ!!」


 蹴り付けながらも、それがアトラク=ナクアにとって致命傷にならない事をロデスコは実感している。


 堅いけれど、破壊しているという手応えはある。ただその破壊が神核に届いていない。


「でかいから、核を探すのも一苦労ね!!」


 とはいえ、時間は無い。ゆっくりと核を探している間に、アトラク=ナクアは星を喰らい終えるはずだ。それだけの巨体をアトラク=ナクアは誇っている。


 巨体はそれだけで強さとなる。その身体が強固であればなおさらだ。


 それに、これだけの巨体だ。何処に神核があるのか、探るまでに時間が掛かる。


「ロデスコさん!!」


 ロデスコが絶えず蹴りを放ち続けていると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。


 声の方を見やれば、そこには見覚えのある魔法少女の姿があった。


「え、チェウォン!?」


 ロデスコの元へやって来たのは、韓国の魔法少女カム・チェウォンだった。


「どうしてチェウォンが此処に?」


「それはこちらの台詞です。此処は韓国(私達)の担当区域ですよ? ロデスコさんの担当区域からかなり離れてますけど……」


「え、マジ?」


「マジです」


 どうやら蹴り続けている韓国の魔法少女達の戦闘区域に入ってしまったらしい。


 ロデスコが攻撃を始めてから大した時間は掛かっていない。攻撃をしながら進んでいたので、一直線で移動した訳でも無い。にもかかわらず、ロデスコは遠く離れた場所まで短時間で移動してきてしまった。


 夢中で蹴り続けていたとはいえ、自身の火力はある程度ちゃんと認識できているつもりだったが、まだまだ自身の火力を正確に認識できていないようだ。


「まぁ、それは良いでしょう。神核の方は見付けましたか?」


「絶賛探索中よ。こんだけ大きいと、探すのも一苦労だわ……」


「分かりみ、深き事、山のごとし」


「深いなら海でしょ?」


「森が深いという意味でしょうか?」


「ん?」


「え?」


 しれっと会話に入って来た謎の台詞を、一瞬だけ自然に受け入れてしまうも、直ぐにそれがおかしい事に気付く。


「余計な事を言うな、レディ。二人共、驚かせたならすまない」


 聞き覚えのある、礼儀正しく、美しい声が聞こえて来て、誰が来たのかを理解する。


「イギリスから遠路はるばるご苦労様。アンタ、不法入国でしか来れない訳?」


「不法入国に関してはロデスコさんも人の事言えませんよ」


 空間に空いた穴。小窓程度の穴からこちらを覗いているのは、イギリスの魔法少女アーサーとレディ・ラビットだ。


「うい。罪な女。それが、ワシ」


「罪が増える女の間違いじゃないですか?」


「そうとも言う。罪作りな、ワシ」


 なにが照れ臭いのか、てへへと照れたように笑みを浮かべながら穴を広げ、こちら側に出て来る二人。


「罪状が増えるって意味だと思うけど」


「今回は世界的な緊急事態だ。本部の許可も貰っているから、怒られる事も無ければ罪に問われる事も無いさ。それよりも、コイツの神核だ。もう見付けては……」


「まだこれっぽっちも」


「……だろうね。だから、探査が得意なラビットを連れて来た。音の反響でどうにか分からないかと思ったんだが」


「でっけぇ。ムズイ」


 自信満々に胸を張って言い切るレディ・ラビット。


 確かに音の反響で中の構造は大まかに分かるけれど、中に居る蜘蛛の音などが邪魔して正確に音を拾う事が出来ない。


「難しくとも、やってみるしか無いのでは? あまり時間も残されていないようですし」


「そうだが、こう大きくてはレディ一人だと限界がある」


「なら、マーメイドも連れて来るわ。後は……そうね、覚醒ほやほやのアリスにでも聞いてみるわ」


「あの極光を見た時にまさかとは思ったけど、彼女また覚醒したのかい?」


「ええ。不健康な奴が更に不健康な見た目になったわ。なんか科学兵器っぽいの使ってるし、なんとかなるでしょ。チェウォン、ラードーンってまだ撃てる?」


「ええ」


「合図をしたら、出来るだけ広範囲に放って」


「分かりました。上空で待機しておきます」


「お願い。アーサーは場所が分かったら本気で攻撃して。アタシも加わるけど、遠慮はしなくて良いから」


「心得た」


「時間も無いから、さっさか準備しちゃいましょう。アタシはアリスに伝えて来るから、アンタ達は準備お願いね」


「ワシ、アリス、見たい」


 ふんふんっと鼻息荒く言うレディ・ラビット。地球滅亡の危機だと言うのに、いつも通りの彼女を見て思わず呆れを通り越して感心してしまう。


「アンタは配置に着きなさいよ。サボったらアリスに嫌われるわよ」


 それだけ言い残し、少しだけ距離を取ってから馬鹿みたいな火力で急加速し、アリスの方まで飛んで行くロデスコ。


「あっちゅっ」


 あまりの熱量に目をバッテンにしてアーサーの後ろに隠れるレディ・ラビット。アーサーはマントで熱風を防ぎ、熱に強いチェウォンは特に熱がる様子は無いけれど、熱風に乱れそうになる髪を抑える。


「ロデスコ、火力上がってないかい?」


「見た目も少し違いました。大した変化では無かったので、イメチェンかと思ったのですが……」


「海上都市で一緒に戦った時より、速度も熱量も増してるね」


「追い付いたと思ったのですが……また引き離されるとは。私も、もっと鍛錬が必要ですね」


 アーサーとチェウォンの二人はロデスコの変化に気付いたけれど、レディ・ラビットは頭上に疑問符を浮かべて小首を傾げてアーサーの背後から顔を出す。


「そなの?」


「そうなんだ。見て分からなかったか?」


「アリスの異変なら、直ぐびびっと、直感と本能で気付くます」


「相変わらずアリス以外に興味が無いな、君は……」


「うい」


「うい、じゃないが……」


 アーサーの言葉に自信満々に頷くレディ・ラビット。


「さて、では私は上空で合図を待ちます。……って、よく考えればアリスに私から通信で話せば良かったのでは? アリスからの通信は受け取れた訳ですし」


「恐らく無理だろう。最初の通信の時にアリスに声を掛けてみたけれど、返答は無かった。科学的な力を使っていると言っていたから、アリスの方から無理矢理こちらの無線機に割って入ったのだろう」


「なるほど。であれば、一番速いロデスコに任せて正解でしたね。では、今度こそ失礼します」


 そう言い残し、上空へと飛び上がるチェウォン。


 そのチェウォンと入れ替わるように、小さな雲が近付いてくる。


「久し振りネ、アーサー! ラビット! お前達も核探しに来たカ?」


 入れ違いでやって来たのは中国の魔法少女である孫凛風(ソン・リンファ)だった。


「ああ。という訳で、散開だ。君は分身をして上空で待機していてくれ。合図があったら、範囲攻撃を頼む。なるべく、音が響く攻撃で頼むよ。チェウォンと範囲が被らないようにね」


「もう散開するネ!? 我来たばっかヨ!? 作戦何も聞いて無いヨ!? さっきロデスコとチェウォン見えたヨ! 我だけ仲間外れ寂しいネ!」


「親睦会は後だよ。これが終わったら、皆で祝勝会を開こうじゃないか」


 レディ・ラビットを抱え、凛風に指示を残して出来るだけ中心に向かって走るアーサー。


「キーッ!! 我だけ仲間外れネ!! 許せないヨ~~~~っ!!」


 来たばっかりで即座に散開となり、觔斗雲の上で地団駄を踏む凛風。


だが、指示にはちゃんと従うようで、そのまま上空へと向う。


「絶対絶対、酒池肉林祝勝会するネ~~~~ッ!!」


 肉欲の限り叫ぶ凛風。例えこの戦いが終わっても、開かれる事が無い会の開催を願いながら、チェウォンとは逆方向へと觔斗雲を飛ばした。


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