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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第7章 蜘蛛の巣
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異譚42 力の制御

 身体の奥底から熱が溢れる。


 鍵を使わないと決めたあの時、思い出したのは憎き炎の化身の姿だった。


 アリスが自身の過去を話してくれた時に見た映像。その映像に映っていたのは、存在するだけで圧倒的な被害を生み出した生きる炎。


 あの姿を思い出して気付いたのだ。


 そうだ。炎になれば良いのだ。誰も寄せ付ける事の無い、圧倒的な炎になれば良い。そうすれば、誰も自分に近付けない。多勢に勢いを削がれる事も無い。


 だからと言って、化け物に成るつもりは無い。


 人として、魔法少女として強くなる。魔法少女は兵器でも無ければ、化け物でも無いのだから。


 イメージする。人のまま、生ける炎となる自分を。


 その姿をイメージした瞬間、ロデスコを起点に周囲に激しい熱波が発生する。


 熱波の衝撃により、ロデスコを取り囲んでいたモノが全て吹き飛ばされ、その熱によって消し炭になる。


「はぁ~窮屈だったわ~」


 久し振りに見る蜘蛛以外の光景に、軽く伸びをするロデスコ。


 ロデスコは気付いていないけれど、ロデスコはアトラク=ナクアの脚の中に居た。落ちる途中で糸に完全に引っ掛かり、その状態でアトラク=ナクアが覚醒し、そのまま脚の中に閉じ込められてしまっていた。


 脚の中に閉じ込められているのは割と危機的状況だったけれど、本人に気付いた様子は無い。


「って、なんか凄い事になってる……衝撃波凄っ。これアリスの致命の大剣(ヴォーパルソード)? なんで真上から? え、アレ誰? なんで皆此処攻撃してる訳? てか何で空の上に居るの? 何? どうなってんの?」


 上空から降り注ぐ致命の極光に驚いて上を見やれば、遥か上空から降り注いでいるわ、なんか見た事の無い魔法少女が上空に居るわ、周囲を見やれば色んな魔法少女がロデスコの立つ場所を攻撃しているわで、最早訳が分からない。


「てめぇ!! 急に爆発すんなくそ女ぁッ!! 危ねぇだろうがぁッ!!」


 上の方で、マーメイドの背中に乗ったイェーガーが文句を言ってくる。


 しかし、ロデスコはイェーガーの文句を聞いた様子も無く、丁度良い所に事情を知ってそうな奴が居たので、簡単に事情を聞きに行こうと一つ炎を上げる。


「っと――」


 ほんの少し。力を込めただけだった。いつもの調子であれば、ある程度の速度でイェーガー達の元へ行けるくらいの力加減。


「――ぉっ!?」


 だが、ロデスコは弾かれたように高速でイェーガー達の元へ飛来する。


「危ねッ!?」


「……危険が危ない……!!」


 慌てて回避するマーメイドとイェーガー。


 目にも止まらぬ速さで飛来して来たけれど、元々移動途中だった事も幸いし、何とかロデスコアタックを回避する事に成功する。


「何してんだテメェ!?」


「……のーもあ、人間ミサイル……」


 二人から文句が飛んでくるけれど、二人の文句はロデスコの耳には入っていなかった。


 思っていた以上の力が出て、自分でも困惑している。


「わっとっとっ」


 勢いが良すぎる。力加減が出来ない。細かい力の制御が出来ない。


 慌てて姿勢を制御するために炎で調整するけれど、それすらままならない。


 火力が上がっている。いや、上がり過ぎている。今まで思い通りになった炎が、自分の思い通りにならない。微調整はおろか、ちょっとした調整すらままならない。


 みっともなくふらふらと空中を弾けるロデスコを見て、何事かと思わず空中で弾けるロデスコを目で追うイェーガーとマーメイド。


 二人に見守られながら、ぼんぼんっと空中を弾けるロデスコ。


 こんなに力が制御できないのは初めて(・・・)だ。魔法少女になった時から、火力の制御は得意だった。どれだけ力を込めれば良いか、どれだけ肩の力を抜けば良いか、感覚でどうにかする事が出来た。


 それが、今はどうにもこうにもままならない。こんなに力の調整が難しいのは初めてだ。


 困惑しながらも、力を調整しようと苦心するロデスコ。


 少し力を込めただけで、思った以上の力が出過ぎてしまう。


 今のロデスコは気付いていないけれど、火力だけでは無く見た目も変化している。


 髪は今までより炎の部分が増え、具足や手甲の意匠が以前より凝ったモノとなっている。スカートは動きやすいように以前よりも短くなっている。服に付いたフリルは炎のような半透明になり、絶えず熱を放ち続けている。


 恰好は変わっているけれど、大きく変化をした訳では無い。以前より戦いやすく洗練されたというべきだろう。


 自身の上がった火力に苦心しながら、ロデスコはイェーガーとマーメイドの元へ向かう。


「これ、何があったわけ? このデカブツ何?」


「あ? なんであんたが知らねぇんだよ。アリスと一緒だったんだろ?」


「かくかくしかじかであそこに埋まってたのよ」


 そう言って、ロデスコは自身が埋まっていた場所を指差す。


「てか、あれ何?」


「……あれ、脚……」


「脚? なんの?」


「知らねぇけど、アリスが脚って言ってた」


「ああそう。で、そのアリスは?」


「……多分、あそこ……」


 マーメイドが指差す方向には、白銀の魔法少女の姿が見受けられる。


「……また姿変わってんの?」


「多分な。誰も変身したとこ見てねぇから、分かんねぇけど」


 言って、イェーガーは視線をアリスからアトラク=ナクアへ移す。


「とにかく、今はこっちだ。まだ完全に覚醒してないから、倒すなら今しかねぇんだとよ。どっかに核があっから、探して壊せってさ。あんたもサボってた分、きっちり働けよな。行くぞ、マーメイド」


「……うい……」


 アリスの事は気になるけれど、今は完全覚醒前のアトラク=ナクアを倒す事が重要だ。アトラク=ナクアがどんな生き物なのかは知らないけれど、この巨体が脅威である事に変わりはない。


 マーメイドと一緒に、脚では無く何処にあるか分からない神核を探しに行くイェーガー。


「なるほどね……」


 なんとなく事態を察したロデスコ。どうやら、自分が蜘蛛団子になっている間にとんでもない事になっていたようだ。


 再度、ロデスコはアリスの方を見やる。


 自分の不甲斐なさで、アリスに要らない心労を掛けただろうか。自分が不甲斐無かったから、こんな事態を招いたのだろうか。心配かけたとか、アンタは大丈夫だったとか、色々言いたい事はある。


 けれど、覚醒前のアトラク=ナクアを倒す事が最優先だ。反省も謝罪も心配も、アトラク=ナクアを倒した後で良い。


 アリスから視線を外し、ロデスコはイェーガー達の後を追う。


 気合を入れて一つ火を噴けば、ロデスコは明後日の方へ飛んで行った。


「締まらないわね、もうっ!!」


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― 新着の感想 ―
カギを使ったアリスと自力で覚醒したロデスコ。ニャルとクトゥグア。いい対比ですね。アリスには何とかしてニャルの思惑を壊してほしいですねぇ。奴の思い通りになるとろくでもないことになるのは確実なので。そのた…
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