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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第7章 蜘蛛の巣
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異譚35 脚

 アリスがアトラク=ナクアを倒したのとほぼ同時刻。残る七ヵ所でもまたアトラク=ナクアとの決着がついていた。


 数は多く、苦戦も強いられはしたけれど、それでもその数を対処できる力があれば倒す事は出来た。


 アトラク=ナクアを倒す事は出来た。その報告は直ぐに上がり、全世界の対策軍に共有もされた。アトラク=ナクアは倒された。


だと言うのに、糸の躍動は止まらない。


 八体全てが倒された上での異常事態だという事を知らないアリスだったけれど、明らかな異常事態だったので上昇する速度を緩める事は無かった。


高速で上昇し、見える範囲でも良いので全体を確認するために在る程度の高度まで上がった後に停止する。


何度かサンベリーナが吹き飛ばされそうになっていたので、途中で絶対に落ちないようにポケットにしまっている。あまりの速度にポケットの中でグロッキーになってしまっているけれど、そんなサンベリーナを心配している余裕は無かった。


「これは……」


 目の前に広がる光景に愕然とする。


 亀裂の中の糸は繋がり、一つの形になろうとしていた。


 全容は掴めない。ただ、途轍もない魔力の広がりを見るに、それがただ事では無い事を理解するのは簡単だった。


今までに感じた事の無い、圧倒的魔力。それこそ、ヴルトゥームや海上都市の異譚支配者二体とも比較にならない程の魔力。


 即座に、アリスはアリス・エンシェントへと姿を変え、ウジャトの眼と発動する。


「――ぅっ……!!」


 ウジャトの眼で一目見た瞬間、アリスの目は真っ赤に染まり、血の涙を流す。


「だ、大丈夫アリス!?」


「へ、いき……っ」


 とは言うけれど、アリスは目を抑え、痛みに顔を顰める。


 圧倒的な情報量が眼を通り、その処理に眼と脳が追い付いていない。頭が割れそうな程に響く頭痛に思わずふらつくも、直ぐに堪えて身体を起こす。


「あ、アリス。め、眼の治療するね!!」


「そんな暇は無い……っ!!」


 即座に、アリスは下降して蜘蛛の巣に向けて致命の極光を放つ。


 致命の極光は巣を穿つも、巣を完全に貫く事は出来なかった。アリス・エンシェントになって致命の大剣(ヴォーパルソード)の威力は上がっている。だと言うのに、巣を貫く事は出来なかった。


 亀裂の中に居た時は確かに貫く事が出来た。通常形態で貫けたのに、アリス・エンシェントとなって貫けない理由など一つしかない。


「強度が上がってる……ッ!!」


 巣の強度が上がっている。致命の極光すら防ぐ程に。


 アリスは小型無線機で連絡を取ろうとするけれど、なりふり構わず高速移動をしたせいか移動途中で外れてしまったようで耳には何も嵌っていなかった。


 サンベリーナもまたそのサイズ故に小型無線機は付けていない。


 アリスは即座に地上で交戦している仲間達の元へ向かう。


 まずは、遊撃をしているであろうマーメイド、ヘンゼルとグレーテルの三人の元へ向かう。


「ヘンゼル、グレーテル、マーメイド!!」


「アリス」


「大変」


 アリスがやって来て、ヘンゼルとグレーテルは蜘蛛達の迎撃をしながらも、アリスを見やる。


「アリス」


「お目々」


「血が出てる」


「大丈夫?」


「私の心配は良い。襲撃の状況は?」


「わんさか」


「わらわら」


巣が躍動をしてからも、蜘蛛達の襲撃は止んでいない。二人共異常事態だと言う事は分かっているけれど、蜘蛛の対処に追われており巣の方まで手が回らない。


「……やな音……きぼちわるォオロロロ……」


 マーメイドもアリスの元へやって来るけれど、巣が躍動し始めてからずっと嫌な音を感じ取っており、気持ち悪さに耐えられずに何度も嘔吐してしまっている。


「分かってる。緊急事態。ヘンゼルとグレーテルは()を狙って欲しい。マーメイドは無理そうなら下がって」


「「脚?」」


 脚と言われ、ヘンゼルとグレーテルは小首を傾げながら迫る蜘蛛達を指差す。


「いっぱい」


「たくさん」


「違う。アレじゃない。あっち」


 アリスは躍動する巣の方を指差す。


「アレを攻撃して。蜘蛛達は他の人に任せて良いから」


「「分かった」」


 アリスの指示に従い、ヘンゼルとグレーテルは蜘蛛達への攻撃を中断して巣への攻撃を始める。


 範囲攻撃を持っているヘンゼルとグレーテルが抜ければ他の魔法少女達の負担が増えるけれど、そんな事を気にしている余裕は無い。


「……アリス、私は……?」


「さっきも言ったけど、無理そうなら下がって良い。でも、大丈夫そうならマーメイドも巣の方を攻撃して」


「……分かった。ゲロ浴びせて来る……」


 顔色を悪くしながらも、マーメイドは撤退するつもりは無いようで、ヘンゼルとグレーテルに続いて巣への攻撃を開始する。


 三人が攻撃に加わったのを確認して直ぐに、アリスは防衛を行っている四人の元へと向かう。


 四人もまた戦闘中であり、前線から漏れた蜘蛛達の撃破を行っていた。だが、前線組が奮闘してくれているお陰か後方支援組には余裕があるように見受けられた。


「四人共、集合!!」


 スノーホワイトの元へ行き、戦闘中の四人を招集するアリス。


「どうしたの、アリス?」


 近場で戦闘していたので、四人は即座にアリスの元へと集まった。アシェンプテルは元々スノーホワイトの後ろで待機していたので、集まるも何も無いけれど。


「あ、アリス先輩! 目から血が!」


「そんな事はどうでも良い。緊急事態。アシェンプテルとシュティーフェルは他の部隊に合流してそのまま戦闘を続けて。イェーガーとスノーホワイトは巣の破壊をお願い」


「あ? 此処は良いのかよ?」


「良い。此処よりも巣の破壊が優先。アシェンプテル。道下さんに防衛よりも巣の破壊を優先するように伝えて。此処だけの話じゃなくて、全世界でそういう対応をするように伝えて」


「了解よ~」


「前線の三人にも巣の破壊を優先するように指示を出した。だから、こっちまで来る蜘蛛の数が多くなる。抑えきれなかったら、戦線を下げても構わないから」


「了解です!!」


「それじゃあ後はお願い。あ、サンベリーナを置いて行く。シュティーフェルとアシェンプテルの部隊に組み込んで」


「え、わ、わたしも一緒に行くよぅ!!」


「ダメ。本気の速度で戦う。サンベリーナを振り落としかねない」


 ポケットからひょこっと顔を出したサンベリーナをむんずと掴み、シュティーフェルに渡すアリス。


「あ、アリスの治療する!! 防御魔法もかけるからぁ!!」


サンベリーナは必死に抵抗したけれど、抵抗虚しくシュティーフェルに手渡される。


 サンベリーナを渡し、踵を返して巣の方へ向かおうとするアリス。


「待ってアリス。ロデスコは?」


 スノーホワイトがアリスの背中に問いかける。


 ロデスコ程派手な魔法を使うのであれば、遠くからでもその存在を確認できる。だが、ロデスコが戦闘をしている様子は見られない。


「……ロデスコは、大丈夫だから。皆は自分のするべき事をして」


 冷たく言い残し、アリスは高速で前線へと飛んで行く。


 アリスの反応だけで、ロデスコに何かがあったのは理解できる。


「ちっ、あの馬鹿」


 イェーガーは苛立たし気に舌打ちをする。


「言っても仕方無いわ。アリスの言う通り、私達は私達のすべきことをしましょう。行きましょう、イェーガー」


「ああ。おまえらは無理すんなよ」


「うん。そっちもね~」


 イェーガーはスノーホワイトに掴まり、スノーホワイトは足元に氷を生み出し続け、その勢いを利用して前方へと進む。


 戦況が逼迫している事を誰もが理解している。だが、どれほど逼迫しているのかを正しく理解しているのはアリスただ一人。


 世界は、刻々と終焉へと向かっていた。


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読んでるこっちまで息上がってくるわ
ロデスコォォー!
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