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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第7章 蜘蛛の巣

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異譚34 葛藤

 躍動する糸を見るに、恐らくもう猶予は無い。


 魔法少女達が破壊するよりも多く巣を張っているのかもしれない。何せ、魔法少女達よりも蜘蛛の数の方が多いうえに、巣があると思われる八か所に戦力を集中させているのだ。魔法少女達の殲滅力が間に合わなくてもおかしくはない。


「速攻で片を付ける!!」


 十剣を両手に持ち、周囲に大量の剣や槍を展開し、自身を起点にして周囲に雷をまき散らす。


「チェシャ猫は危ないから戻ってて」


「キヒヒ。了解だよ」


 アリスに言われ、チェシャ猫は直ぐに姿を消す。


「サンベリーナはしっかり掴まってて」


「わ、分かったよ!」


 ぎゅっとアリスの髪にしがみ付くサンベリーナ。


「――ッ!!」


 高速で飛び、十剣の極光で蜘蛛達を蹴散らす。極光の効果範囲はいつもより狭めている。壁面を崩す心配は無い。


 同時に、浮遊させていた剣や槍を射出し、蜘蛛達を貫く。本当であれば彼等の上に剣を出現させるアリスの得意技である『執行』を行った方が良い。けれど、あまりにも数が多く、巣の奥までとなると巣が密集しているのでスペースも足りない。


それに、あれは少しばかり溜めが必要になる。この数を相手に、少しとはいえ溜め()を見せてしまえばたちまちロデスコのように集られる。


今は、これが最善。


「退け」


 前方に突風を発生させながら進む。突風には風の刃が含まれており、容赦無く蜘蛛達を切り刻む。


 突風と雷。その様はまるで小型の嵐。


 突風で前方の邪魔な蜘蛛を吹き飛ばしながら切り刻み、剣と槍、雷で横槍を入れて来る周囲の蜘蛛を蹴散らす。


 物の数には物の数で対抗する。アリスに許された個の放つ絶対的な数の暴力。


 みるみるうちに蜘蛛は数を減らすが、それはアリスの周囲に限った話。直ぐに別の所から蜘蛛はわらわらと姿を現す。


 さしものアリスとは言え、時間を掛ければ掛けるだけ不利になる。それに、時間を掛けている間に巣は完成してしまう。


 ちんたらしている時間は残されていないし、ちんたら攻略するつもりも無い。


 広範囲攻撃を続け、その圧力で全方位の蜘蛛を蹴散らしながらアトラク=ナクアへ向かう。


 雨霰(あめあられ)のように降り注ぐ蜘蛛達だけれど、アリスの圧倒的な力の前に成すすべ無くその身体を砕かれる。


 蜘蛛の群れを無理矢理割って進み、とうとうアリスはアトラク=ナクアの元へ辿り着く。


「容赦はしない」


 アトラク=ナクアと対峙したアリスは、アトラク=ナクアが何かを仕掛ける前に両の手に持った十剣を振るう。


 致命の極光は直前に間に割り込んだ蜘蛛達を巻き込みながらも、狙い違わずアトラク=ナクアに直撃する。


 致命の極光が直撃する寸前に、糸で防御をしようとしていたけれど、アリスの致命の極光に苦し紛れの防御は通用しない。


 致命の極光に飲み込まれ、アトラク=ナクアの身体は消滅する。


「……?」


 あまりに呆気無く消し飛んだアトラク=ナクアに肩透かしを食らうアリス。


 弱い。あまりにも弱すぎる。旧支配者。異譚支配者の枠組みの更に上の存在だと言うのに、あまりにも手応えが無さ過ぎる。これでは、星間重巡洋艦と融合する前のヴルトゥームの方が遥かに強かったほどだ。いや、それどころか、異譚支配者よりも弱い。


 それに、アトラク=ナクアに交戦の意志は無いように見えた。いや、戦う意志は希薄だがあったのだろう。その証拠に脆弱ながらも糸での防御を試みていた。


 無かったのは、生存意識。生き残ろうと言う意志が感じられなかった。


 生きていたら良いけれど、そうでなくとも構わない。アトラク=ナクアの対応には、そんないい加減さが見受けられた。


 巣作りの邪魔をされるのを極端に嫌うはずのアトラク=ナクアが、自身の死に頓着しないなどあり得るだろうか。何せ、巣の完成を待ちわびているのは他でもないアトラク=ナクアであるはずだ。


 そのアトラク=ナクアにこれ以上の生存意志が無い。言うなれば、継戦意思が無い。


 考えられる要因は幾つか在る。


一、巣作りを諦めた。


二、残りの七体に巣作りを任せた。


三、巣作り自体は、アトラク=ナクア無しでも完遂出来る。


四、既に――


「巣が、完成してる……?」


 その可能性に思い至った直後、張り巡らされた糸の躍動が強まる。


「――ッ。何!?」


 糸から糸へ糸が伸びる。まるで意思を持ったように蠢く糸は、蜘蛛達を巻き込む事を気にもせずその体積を急激に増やしていく。


「あ、アリス!! こ、このままじゃ巻き込まれちゃうよぅ!!」


「まだロデスコが!!」


 ロデスコを救出しようと、下に降りようとするも、既に下でも同様の現象が起こっており、アリス達の進路を塞ぐように糸と糸の結合が行われていた。


「い、一旦上に行こう!? こ、このままだと、わ、わたし達も飲み込まれちゃうよぅ!!」


「でも……!!」


 サンベリーナの言いたい事は分かる。それに、サンベリーナの判断が正しい事も分かる。


 けれど、やはり見捨てる事は出来ない。


 チェシャ猫はロデスコがまだ生きていると言っていた。アリスだって信じたい。それでも、心配なものは心配なのだ。


「あ、アリス!! た、退路が無くなって来てるよぅ!! そ、それに、未曽有の事態には、あ、アリスの力が必要だよぅ!!」


 サンベリーナだって、ロデスコを心配している。だが、此処でまごついていては助けられる者も助けられない。それに、明らかに巣が異常な反応を見せている。アトラク=ナクアを倒した今、現状この場に留まる事にはリスクしかない。


 アリスが迷っている間にも、糸は蜘蛛を巻き込みながら結合し、希薄だった魔力の色がぐんぐんと濃くなっていく。


「――ッ!!」


 きつく奥歯を噛みしめる。十剣を持つ手にも力が入る。


 選ばなければいけない。


 ロデスコかその他大勢か。


「私は……ッ!!」


 あれだけ偉そうに異譚が優先だと講釈を垂れていたくせに、いざ自分が同じような状況になると迷ってしまう。


「私はッ!!」


 アリスは致命の剣列(ヴォーパルソーズ)から、致命の大剣(ヴォーパルソード)に持ち替えて振りかぶる。


 そして、下方に向けて致命の極光を放つ。


 致命の極光は張り巡らされた糸を消し飛ばし、巣に風穴を開ける。


「サンベリーナ、上空には誰か居る!?」


「い、いないよ!!」


 アリスが何を思って致命の大剣(ヴォーパルソード)を振るったのかは分からないけれど、サンベリーナはアリスの問いに即座に答えを返す。


 その直後、上空に向けて同じように致命の極光を放つ。


「……ロデスコなら、この風穴を通って戻って来るはず」


 下方と上方にぽっかりと開いた風穴。これから何が起きて、どうなるか分からないけれど、ロデスコが生きているのであれば、この道を通って上まで戻って来られるはずだ。ロデスコが戦闘の出来ない状態だとしても、帰り道さえ作っておけばロデスコであれば簡単に帰って来られる。


 これが、アリスの出来るロデスコへの最大限の手助け。


「上空から確認する。速度を上げるから、振り落とされないようにしっかり掴まってて」


「わ、分かったよぅ!!」


 サンベリーナが頷いた直後、アリスは高速で上空へと飛び上がる。


 どんどんとロデスコから離れて行っている。悔しさと不甲斐なさで歯噛みする。


「死なないでね、ロデスコ……!!」


 今は祈る事しか出来ない。


 仲間を見捨てる事への罪悪感に心を痛めながら、アリスは巣を後にした。


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― 新着の感想 ―
いつしかチェシャ猫が、アリスのレベルアップに激情がうんぬん言ってた気がするけど、アリスにもまた転機が近づいているのかもね。今章ではなさそうだけど。でもカギによる強化だとニャルの思惑っぽいし、難しいなぁ…
この風穴が蜘蛛の糸
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