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魔法少女異譚【書籍化決定】  作者: 槻白倫
第7章 蜘蛛の巣

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異譚32 蜘蛛団子

 圧倒的な突破力で亀裂の奥底へ進むアリス達。


 だが、亀裂の底へ進めば進む程、蜘蛛の巣はより過密になっていき、蜘蛛の数も増えていく。それだけでは無く、糸の強度も上がっている。ロデスコの蹴りで壊せない程では無いけれど、その度に突進の速度が落ちてしまう。


「ロデスコ、交代」


「……了解」


 不服そうにしながらも、アリスの言葉に素直に従うロデスコ。


 アリスは致命の剣列(ヴォーパルソーズ)の斬撃と炎の二本の大剣を手に持ち、前方の巣と蜘蛛の群れを蹴散らす。


今のロデスコの速度では足りない。アリスの負担は増え、速度だけが落ちて行く。アリスの致命の剣列(ヴォーパルソーズ)であれば速度を落とさずに障害物を突破出来る。それ以外の迎撃だって、アリスの魔法であれば簡単だ。最初の突進だって、ロデスコでなくても良かった。


アリス一人で事足りる。


その事実に、ロデスコは顔を顰める。これでは、アリスにおんぶに抱っこだ。


「み、見えたよ!! あ、あっち!!」


 だが、そんな事を気にしている余裕も無い。


 サンベリーナが声を上げて指をさす先にはまだ何も見えない。だが、方角さえ分かればアリスには十分だ。


致命複合ヴォーパルコンポジット十剣(テンソード)


 十剣を構え、アリスは道を切り開くために致命の極光を放つ。


 十剣の放った致命の極光は巣を抉り、一直線に道を切り開く。


「速度を上げる」


 アリスは速度を上げ、ロデスコもその後に続く。


 そこは、開けた場所だった。糸は張り巡らされているものの、ある程度の空間がある。巣の中心。張り巡らされた糸の中、チェシャ猫が言った灰色の織り手とも、灰色の織り手の長であるチィトカアとも違う。


 巣の中心に座するは、大きな蜘蛛。他のどの蜘蛛よりも大きい蜘蛛は、八つの目をアリス達に向ける。


 だが、驚くべき程大きな訳でも無ければ、圧倒的魔力を感じる訳では無い。素直な反応をするのであれば、旧支配者とは思えない程に脆弱だ。


「コイツが、アトラク=ナクア……?」


「そ、それにしては魔力反応が弱い、ような……?」


 異譚支配者と同等の魔力量は有しているけれど、それでも異譚侵度Bくらいだ。異譚支配者化した瑠奈莉愛や鼻付き、羽付きの方がずっとずっと強大だった。


「関係無い。倒せば全て解決する」


「そうね。てか、八分の一を引き当てるなんてね。運が良いんだか悪いんだか……」


 十剣を構え、戦闘態勢を取るアリス。ロデスコも火力を上げる。


 アリス達の戦う意志を感じ取ったのか、周囲から灰色の織り手とチィトカアがわらわらと集まって来る。


 何処にそんなにいたのか、一瞬にして百を超える数が現れる。いや、百どころではない。二百、三百、あり得ない程過密に蜘蛛達が現れる。


 それはそうだろう。此処に来るまでに何体もの蜘蛛を迎撃してきたけれど、それ以上にスルーしてきた蜘蛛の数の方が多いのだ。それがアリス達を追って来たのであれば、囲まれてしまうのは当然の帰結と言えた。


 そもそも、此処はアトラク=ナクアの巣。囲まれない方が不自然である。


「ロデスコ、アトラク=ナクアをお願い。それ以外は私がやる」


「上等よ。速攻で蹴散らしてやるわ」


 即座にアリスはロデスコにアトラク=ナクアを任せると判断した。


 互いに得意な方で戦おうという役割分担でもあるのだろうけれど、ロデスコであればアトラク=ナクアを任せられるという信頼の表れでもある。


 その信頼が嬉しくもあるけれど、その信頼を置かれるのに相応しい実力を示せているのかどうか、今のロデスコには分からない。


「出方は待たない」


 即座に、アリスは幾つもの剣を生み出し、蜘蛛達に向けて放つ。同時に炎を巻き上げて糸を燃やし、巣の破壊を進める。


 アリスの動きに合わせてロデスコも炎熱をまき散らしながら、アトラク=ナクアに迫る。


 が、その進行方向にチィトカアや灰色の織り手が割り込む。


「チッ……!! 邪魔ぁッ!!」


 蹴り殺し、蹴り燃やし、蹴り裂きながらアトラク=ナクアを目指す。


 だが、あまりにも数が多い。


 自慢の突進力は削がれ、停滞を余儀無くされる。最高火力に達するにも時間が足りず、この数を蹴散らすだけの火力を放出出来ない。


 ロデスコが苦心している間にも、敵は数を増していく。


 同様に、アリスの方にも蜘蛛達は殺到する。


 百、二百、三百……時間が経てば経つ程に、数は増えていく。


「わ、わわ……こ、こんなにたくさん……!!」


 映像では確認していたので大群が相手になる事自体は覚悟していた。蜘蛛なんて気持ち悪いし鳥肌必至だけれど、なんとか頑張れると思った。


 だが、映像で見た数を遥かに凌駕する蜘蛛の群れに、気持ち悪さ以上に恐怖を感じた。


「これは……っ」


 アリスですら対応が間に合わない。


 亀裂の中での戦闘なので、あまり派手な魔法は使えない。それこそ、致命の大剣(ヴォーパルソード)は使用厳禁だ。下手に地面を穿って、そこから地面が崩れる可能性がある。地面の崩壊がどれだけ地上に影響を及ぼすかは分からないのだから。


 大量の剣を放出し、風の斬撃や、氷の散弾など、あらゆる魔法で手を尽くすけれど、地崩れを考慮するとあまり派手な威力は出せない。


 本来の力を振るえるのであれば、物の数では無いと言うのに。


 多対一が得意なアリスが、場が悪いとはいえ苦戦する数。そんな数を相手に、多対一よりも一対一を得意とするロデスコが苦戦しない訳が無かった。


 突進力が削がれる。力を溜める時間も無い。無限に思える程湧き出て来る灰色の蜘蛛達。一体一体は雑魚だ。それは灰色の織り手の長であるチィトカアも例外では無い。


 だが、多勢に無勢という言葉もある。


 ロデスコが迎撃するより数よりも、殺到する数の方が圧倒的に多い。


 これが、今の自分の限界。これが、今の自分の現在地。


 なんて、余計な思考が一瞬頭をかすめる。


 その瞬間、蜘蛛はロデスコを組み敷くように飛び掛かる。


「――っ!!」


 迎撃が間に合わず、ロデスコは防御を余儀なくされる。その隙を逃す程、蜘蛛達は優しくない。


「くっ、このっ……!!」


 わらわらと蜘蛛達はロデスコに集る。


 押し合い圧し合い、あっという間にロデスコに取り付く。


 その様子はまるで蜘蛛の団子。


圧倒的な個の力が、圧倒的な数の力に抑え込まれる。


「ロデスコ!!」


アリスが向かおうとするけれど、圧倒的な数を前にアリスでも対応が間に合わない。アリスは、即座に自由自在に動き回り蜘蛛達を切り刻む風の龍と、蜘蛛とその巣を燃やしながら進む炎の龍を十体ずつ作り上げる。


ある程度自立して動いてくれるけれど、その動きの全てをアリスが自在に操れるわけでは無いし、龍の動きを気に掛ける余裕も無い。半端な大きさでは蜘蛛には勝てないので、ある程度の巨体を作り上げる必要もあるが、その分壁面に衝突した時のリスクは大きい。


なにせ、巨大質量の龍が壁面に衝突するのだ。地盤が脆くなっているところにでも当たったら地崩れの可能性すらある。


だが、今は多少のリスクには目を瞑り、一刻も早い殲滅を優先する。


その他大勢の相手を十体の龍に任せ、アリスはロデスコを救出しようと試みる。


「――ッ!! 邪魔!!」


 しかし、アリスの進路を遮るようにして、蜘蛛達はアリスに襲い掛かる。


 十剣を振るい極光を放つも、その極光も威力を抑える必要があるために広範囲に撃つ事は出来ない。


 その間も、ロデスコには続々と蜘蛛が集っていく。


 そうして、辛うじて糸に乗っかっていた蜘蛛団子だったけれど、その重量に糸が勝てずにたわみ、その衝撃で蜘蛛団子は亀裂の底へ向かって落ちて行く。


「――ッ!! ロデスコ!!」


 アリスが声を張り上げるも、ロデスコからの返答は無い。


 蜘蛛団子は亀裂の底。巣のあった地点よりも更に深淵へと落ちて行った。


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― 新着の感想 ―
これはロデスコ覚醒エピソードになりそう ワクワク
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