異譚28 二度目の襲撃
二度目の灰色の蜘蛛の襲撃。
アリス達広範囲殲滅が得意な魔法少女達は前線へ、それ以外の者は第一次防衛線を抜けて来た敵の対処に当たる。
「暇ね。良い事だわ」
「そうね~」
「それだけ前線で皆が頑張ってくれてるって事だものね」
「つっても、こっちもあんま気ぃ抜けないけど」
「はい! 適度に緊張感を持たないとですよね!」
第二次防衛線で待機をしている五人は、ロデスコ、アシェンプテル、スノーホワイト、イェーガー、シュティーフェルである。
それ以外の、アリス、サンベリーナ、ヘンゼルとグレーテル、マーメイドは前線で蜘蛛退治を行っている。
いつ前線から灰色の蜘蛛が抜けて来るか分からない。小型通信機で状況の報告は行っているけれど、前線も事細かに実況をし続ける余裕は無い。
「それにしても、どうして蜘蛛は襲撃をしてくるのでしょうか?」
「巣を作るのを邪魔されるのが嫌みたいよ」
明確な答えが返って来ると思ったなかったシュティーフェルは驚いた様子でロデスコに訊ねる。
「どうして分かるんですか?」
どうして分かるのかと言われれば、内緒で匿っているヴルトゥームに教えて貰ったから、なんて素直に言える訳も無い。
だが、その情報を口にして良い状況になっているので問題は無い。
「チェシャ猫からの情報をまとめた報告書が上がってるわ」
ご飯を食べていたので気付かなかったけれど、チェシャ猫による灰色の蜘蛛の情報の報告書がメールに添付されていた。
亀裂で待機していた魔法少女にはいち早く通達されており、それ以外の者には全ての情報を纏めてから伝えるつもりだったので、ロデスコ達への通達が遅れていた。それでも、最速で情報をまとめ、『巣作りを邪魔されるのを嫌がるので、極力こちらから手を出さないように』と世界中の対策軍に通達している。
「巣作りの邪魔をされる事を極端に嫌う……じゃあ、今回襲撃があったのって、誰かがちょっかいをかけたからって事?」
携帯端末で報告書を確認するスノーホワイト。
「そこまでは分からないわよ。相手側から襲撃をしかけて来る事だってあるだろうし」
「邪魔されないために先制攻撃、ってこともあるかもね~」
「なら、こっちから攻撃した方が良いんじゃね? タイミングをこっちで決められる方が良いだろ」
「そのタイミングを向こうが待ってくれるかが重要でしょうね」
「それに、待ってる間に巣が完成する可能性もあるし。ま、何をもってして完成になるのかは分からないけど」
詳しくはチェシャ猫もヴルトゥームも知らない。どの程度で完成するのかが分からないのであれば、常にある程度破壊し続ける他無い。
「巣の破壊だけならアタシだけでも行けそうだけど、現状だとそうもいかないわよね」
「相手の数が多いからね~。少しでも戦力を戦闘にあてたいし~」
「やっぱり、こちらから攻めるタイミングを作るしか無いんですかね?」
「その場合、亀裂の周辺の避難地域を更に拡大しないといけなくなるわね。防衛線が手薄になるから、戦車とか銃火器の使用も視野に入れないといけなくなるし」
「今回は異譚じゃ無いから、魔法少女じゃなくても戦闘は出来るからね。まぁ、安全性とか考えると、前線には引っ張り出せないけど」
「異譚じゃないものね。普通の異譚生命体よりも個体としては強固だろうし」
「なんにしろ、調査が進まない事にはこうやって護る事しか出来ない訳だろ?」
「ですが、継続的に巣を破壊し続けないとですよ。巣の完成が世界の終焉なんですから」
「それだけ聞くと、なんだか都市伝説じみてるわよね~」
「マヤの予言とか、ノストラダムスの大予言みたいなね」
「マヤの予言は、何年何月に世界滅亡、ってやつだっけ? のす……なんとかは、恐怖の大王だっけ?」
「そーそ。空から恐怖の大王が降って来る、ってやつ。まぁ、実際には何も降って来なかったけどね。……あ、でも、予言とは関係無しに降って来たのも居るか」
特に予言があった訳では無いけれど、宇宙から降りて来た者なら心当たりがある。
「恐怖の大王じゃなくて、自称火星の女神だったけどね」
「正確には旧支配者って神様らしいけどね。更に正確に言うと、どっかの惑星に住んでたのを追い出された、可哀想な植物らしいけど」
本人が聞けばしょんぼりしながら反論してくるであろう事実。だが、此処に本人は居ないし、居たとしても特に構わず言うだろう。
「空から降って来るにしろ、地面割って出て来るにしろ、あたし達にとっては良い迷惑だけどな。戦うのはあたし達な訳だし」
「同感です。何も無いに越した事は無いです。平和が一番です」
「そうよね~。平和が一番よね~」
なんて話をしている間に、二度目の襲撃が終了したのだろう。小型無線機から『状況終了』とアリスの声が聞こえて来た。
「出番無し。うん、良い事良い事」
「今回は短かったわね~」
「数が減ったとか?」
「相手の総数の変動は分からないけど、損耗率で撤退した可能性は十分考えられるわね」
「なんにせよ、一旦本部に戻るわよ。数値の算出が終わってれば、調査もしやすくなるんだけどね……」
二度目の襲撃を凌ぎ、少女達は一度対策軍本部へと帰還した。




