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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第7章 蜘蛛の巣
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異譚25 アトラク=ナクア

 会議が終了し、朱里は凝った身体を解すように伸びをする。


『人間って、会議大好きですよね』


 会議が終わった途端、ヴルトゥームがそう声を掛けて来る。


 朱里が会議に参加していたのは自室。長丁場になるだろうからと、着替えを持って来ると言って一度帰宅したのだ。帰宅した理由、勿論ヴルトゥームに今回の騒動について何か情報が無いか聞くためだ。


 その前に会議が始まってしまったので、ヴルトゥームに詳しく聞く事は出来なかったけれど、会議中に『これは異譚では無いです』とヴルトゥームが言うものだから、少しばかり驚いた。


「アンタみたいに絶対的上位者が全てを決めてる訳じゃないからね。……で、アンタ今回の事なんか知ってる訳?」


『ええ。良く知ってますよ』


 ヴルトゥームはえっへんと胸を張り、自信満々に亀裂の件に関する説明を行う。


『この亀裂の主は旧支配者アトラク=ナクアです』


「あとらくなくあ?」


『蜘蛛の旧支配者です。あれは自分の作業を邪魔される事を極端に嫌いますからね。今回の襲撃も貴女達が調査を始めたから、嫌がって襲撃してきたのでしょう』


「作業?」


『巣を張る事です。あれはどうしてだか、巣を張る事に固執しています』


「蜘蛛だからじゃないの?」


『仮にも上位者ですよ? 本能的な習性のみで動きはしません』


「じゃあ何のために巣を張ってんのよ」


『さあ?』


「さあって……」


 肩を竦めるヴルトゥームを見て、思わず呆れたような目でヴルトゥームを見てしまう。


「アンタ、良く知ってるんじゃ無かったの?」


『貴女達よりは情報は多いですよ。良いですか? あれは自分の作業を邪魔されるのを極端に嫌います。理由は定かでは無いですが、一説によれば巣が完成すれば世界が滅びるとまで言われています』


「巣の完成が世界滅亡? それって、世界が征服されるって事? それとも、文明が崩壊するって事?」


『詳しくは私も分かりません。何せ、巣が完成したかどうかも分かっていないのです。巣が完成していれば世界が滅びてしまうのでそれを伝える者は途絶えますし、巣が完成していないのであれば結果を語り継ぐ事も出来ません。ゆえに、巣をつくる事の意味が誰も分からないのです』


「なるほどね。でも、アンタとか外部から観測できなかったわけ? 超越的な科学力を持ってるんだしさ」


『残念ながら、観測する機会はありませんでした。何処か適当な星で巣を作ってくれていれば、観測は出来たのですけど』


 だが、その場合はその星が滅びる事になる。自分達に関係の無い星とは言え、そこに生命体が存在しているのであれば、その機会があれば良かったとは口が裂けても言えない。


「他にはなんか知ってんの? ソイツの特徴とか、弱点とか」


『特徴としましては、人間くらいの大きさです。多数の昆虫の器官を持ち合わせる身体には丸太のように太い脚が備わっています。その眼は深紅で、黒檀色の体毛に身を包まれています。私の船さえあれば、立体映像で説明が出来るのですけど……』


 触手でルーズリーフにアトラク=ナクアと思しき生命体を描いて行くヴルトゥーム。


「他にはなんかある?」


『後は――』





「キヒヒ。手下の事しか分からないね」


「そう」


 チェシャ猫から今回の騒動の主――アトラク=ナクアについて聞きながら、次に備えて休息を取るアリス。


 アリスとチェシャ猫は小さな声で話をしている。アリスを挟むようにしてアリスの肩に自身の頭を預けて眠る唯と一への配慮である。


 警戒はアリス一人で事足りる。いつ寝る事が出来るかも分からないので、こういう隙間時間にでもちゃんと睡眠をとるべきだ。


 アリスが用意したタオルケットに身を包み、双子はぐっすり眠る。


「キヒヒ。通常の手下は灰色の蜘蛛。彼等は『灰色の織り手』と呼ばれているよ。そして、その灰色の織り手の長がチィトカアと呼ばれる劣等支配者レッサー・オールド・ワンだ」


劣等支配者レッサー・オールド・ワン?」


「キヒヒ。旧支配者の眷属、その眷属を束ねる長をそう呼ぶのさ。まぁ、旧支配者に届かない小神にも当てはまるけどね。それでも、異譚というフィルターを通していないからね。実力の減衰は無い。侮れる相手じゃ無いよ」


「異譚生命体を侮った事は無い」


「キヒヒ。分かってるとも。とまあ、()が知っているのはこれくらいだね。何分、情報の少ない相手だ。アトラク=ナクアが幽閉されていたとされる大陸も最早無い。一応は沙友里に伝えておくけど、あんまり期待しないでおくれよ」


「それでも、情報が無いよりはマシ。今の情報を伝えて来て」


「キヒヒ。了解したよ」


 頷き、一瞬で姿を消すチェシャ猫。


「世界の終焉、か……」


 ぽつりと、言葉を零すアリス。


 今までの敵はこの世界を支配しようとしていたけれど、今回の敵の目的は世界の終焉。だが、それは一説によった話であり、本人から直接聞いた訳では無い。実情はもっと違うかもしれない。


 ヴルトゥームが提唱したような管理社会を作りたいのであれば、人類が滅亡する事は無いけれど、人類の文明社会は終焉を迎える。それはある意味では世界の終焉であり、新しい世界の幕開けでもある。


 アトラク=ナクアが世界を管理する事を求めるのかどうかは分からないけれど、なんにせよこのまま放置して良い問題では無い。実際、蜘蛛による人的被害が出ているのだから。


 何を目的にしているのかは分からないけれど、それが人類のためにならない事だけは断言が出来る。


 ゆえに、やる事はいつもと変わらない。


 殲滅だ。一匹残らず、殺し尽くす。だって、この世界は――


「……?」


 一瞬、違和感を覚えて小首を傾げる。直ぐに、何に違和感を覚えたのかすら忘れてしまうけれど、心に引っ掛かる違和感であったのは確かだ。まるで、先程まで見ていた夢を、起きた事で忘れてしまうような、そんな感覚に等しい。


 だが、特段気にする事でも無いのだろう。一瞬だけ覚えた違和感なのだから。


 そう判断し、アリスも少し身体を休めるためにソファに深く身体を預ける。眠りはしないけれど、それでもこうしてリラックスするだけでも意味がある。


 ソファに身体を預け、次の指令を待つ。


 違和感は既に消えてなくなっていた。


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― 新着の感想 ―
↓なるほど…この世界は既にアリスが侵略した後の世界と考えられるか。
―――私のものだから・・・とか?
駆逐してやる…この世から、一匹残らず…!!
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