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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第2章 三本の剣

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異譚11 合同訓練

 魔法少女は日がな一日カフェテリアにて待機している訳では無い。訓練施設で魔法の修練や身体能力向上のためのトレーニングをして異譚に備えている。


 童話、星、花。区分は関係無く、皆が訓練をしている。


 それぞれに訓練施設が備えられており、他の系統の魔法少女と合同で訓練する事は稀である。


「はい、それじゃあ訓練を始めますよ。今日は基礎訓練、戦闘訓練、魔法制御訓練をやります」


 此処は花の魔法少女の訓練施設。今日も訓練として招集された彼女達であったけれど、その様子はいつもとは違い、少なくない動揺が見て取れた。


 が、彼女達の前に立つ指導役の魔法少女達に動揺は無い。二人程いつもより嬉しそうな表情を浮かべ、それ以外は面白くなさそうな表情だけれど、それだけだ。この状況を理解し、少なくとも納得はしているのだろう。


「あ、あの……」


 一人の新米魔法少女が発言の許可を求めて手を上げる。


「はい、なんですか?」


「えっと……どうして、彼女(・・)が此処に……?」


 当然と言えば当然の疑問。全員の視線が、この場においてかなり珍しい存在である一人の少女に向けられる。


「今回からなんとスペシャルゲストとして来てくれる事になったのでーす」


 わーぱちぱちーと軽快に拍手をする花の魔法少女。


 一人だけやたらテンションが高い彼女の拍手は広い訓練施設内に虚しく響く。


 基本的に、他の所属の魔法少女同士が訓練をする事は無い。特に、童話の魔法少女は能力が多種多様であり、花と星と比べても個性的なものが多い。花にも星にも個性的な魔法を使う者はいるけれど、ほんの一握りである。


 チームとして足並みを揃えて戦うのが花と星であるのに対し、一人一人がやりたいようにやるのが童話である。


 そのため、合同訓練などしたこともない。したとしても所属(チーム)としての理念が違うために、上手く噛み合う訳がない。


 その点、花と星は理念が合致しているので、しばしば合同訓練をしている。


 それを全員が理解しているからこそ、彼女の存在はまったくの予想外なのであった。


「それじゃ、知らない人は居ないと思うけどご挨拶を」


 挨拶を促され、少女は一歩前へ出る。


「アリス。上はチェシャ猫」


「キヒヒ。よろしくね」


 少女――アリスは名乗った後に頭の上に乗っているチェシャ猫も紹介する。


「どうぞよろしくお願いしますね」


「うん」


「キヒヒ。アリス、そういう時はこちらこそって言うんだよ」


「そう」


「そうだよ。キヒヒ」


「でも、果たして私に学ぶ事があるかどうか……」


 アリスの挑発とも取れる言葉に、その場に居た大半がムッとしたように顔を顰める。


「なら来なけりゃ良いのに」


 一人の魔法少女がぼそっと呟く。


「弱いままで良いなら帰るけど?」


 その呟きに、アリスが淡々と返す。


「私は、私が最強であると自認してる。本気の私に勝てるのなんて、それこそロデスコだけ。それ以外の人には負けた事が無い」


 近接戦に限るけれど、アリスが唯一勝ち越せない相手がロデスコであり、それ以外の相手には負けた事が無い。


 無論、強くなるまでに何度も負けたけれど、アリスの強さが確立したその後からはロデスコ以外に負けた事は無い。お互い本気の()を使って戦った事は無いけれど、互いに致命の剣列(ヴォーパルソーズ)赤い靴(ロデスコ)を使えばどちらかが大怪我では済まないのは分かっている。


 本気で戦い合えばどちらに分があるかは未知数だけれど、日本の魔法少女の最強格がアリスとロデスコの二人である。世間的に言えば、唯一Sランクの異譚を終わらせた魔法少女であるアリスが最強という事になっているけれど、本人はあまり納得していない。


 なので、最強であると自認しているという言葉はただの煽りだ。対抗意識がある分、煽れば乗って来るとふんであえて言っている。


「私と戦える(・・・)のはチャンスだと思った方が良い。良い経験になると思う。棒に振るつもりなら、お好きにどうぞ」


「アリスちゃんの言う通りですよ。強い相手と戦うという経験はしておいて損は無いです。相手との実力を測る指針にもなりますし、何より自身の足りない部分を知るいい機会にもなりますよ。それに、他のチームでも童話組との合同訓練を既に始めています」


 代表の花の魔法少女の言葉に、他の者達が騒めく。


 そう、合同訓練を行うのはアリスだけではない。他の童話の魔法少女達も他のチームと共に訓練を開始しているのだ。


 良くも悪くも、童話の魔法少女はパラメータが特化している者が多い。全てを教える事が出来なくとも、その特化した一点であれば他の誰よりも優れている。


 その優れている部分を教えて他の魔法少女を伸ばし、魔法少女達の戦力を底上げするのが今回の合同訓練の目的である。


 チームワークよりも個々の力の底上げがメインだ。


 瑠奈莉愛の家に行った帰りに沙友里に電話で提案をしたら、即可決された。星と花からすれば、戦力の底上げをすればその分だけ成果を上げられるし、何より異譚も年々脅威度が上がってきている。何の対策もしないでむざむざ魔法少女を死なせる訳にもいかないので、この話を承認した。


 つまり、この話を断っても良いけれど、他の魔法少女にかなりの差を付けられる可能性が在るという事だ。


「ま、この訓練自体上からの命令なので、拒否権なんて無いですけどねー」


 最後のダメ押しとばかりに笑いながら言えば、全員が諦めたようにも、吹っ切れたようにも見える表情を浮かべる。


「という訳で、アリスちゃんから今回の訓練の内容と目的をどうぞ」


 話を振られ、アリスはこくりと頷く。


「まず、此処に集まって貰った人は皆バランス型志望の人。私が教えるのは……というより、叩き込む事になるのは素早い判断力。それと、対応力の引き出しを増やしてもらう」


 バランス型はなんでもそつなくこなせる。近距離も、中距離も、遠距離も。流石に、回復や相手を強化する補助魔法はアリスには使えないので教える事は出来ないけれど、どのタイミングで回復や補助をするのが適切なのかを経験として叩きこむ事は出来る。


「そのために、貴女達にはひたすら私と戦ってもらう。細かい事は教えられないけど、何百何千と負けて戦いを経験してもらう。私と戦う事で訓練的な戦い方じゃ無くて実戦的な戦い方を学んでもらう」


 何百何千と負かすと包み隠さずに言うアリス。


「バランス型は戦い方の引き出しが多い分、戦いの際にどの引き出しを開くかの判断力を求められる。一瞬の判断の遅れが死に直結する。逃げるにしろ、防ぐにしろ、瞬時に判断が必要」


 バランス型だけが求められる訳では無いけれど、引き出しの多さはそれだけ解を多く持っている事に他ならない。


「どの状況でどの解答が正解なのかを経験として叩き込む。それと、能力の向上も目指す。全てにおいてそつなく(・・・・)じゃなくて、全てにおいて高水準(・・・)になってもらう。それが、今回の目的」


「なるほど。平均(バランス)というより万能(オールラウンド)として活躍できるように訓練するって事ですね」


「うん」


「それで、その訓練内容は?」


「他よりも忙しくなるけど、遠、中、近の全ての強化訓練をする。そこから、様々な相手との戦闘を考慮した実戦訓練を行う。多対一、一対一、様々なシチュエーションでの戦闘を行う」


 中々にハードな訓練内容に、魔法少女達は先行きの悪さに顔を顰める。


 が、最後にアリスは大きな爆弾を落とす。


「勿論、最後に私との実戦訓練もする。本気で相手してあげるから、そのつもりで」


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