異譚19 お泊り女子会
夕飯を食べ終えた後、アミューズメント施設に行く者、温泉に行く者、部屋でリラックスする者、売店を物色する者に別れる。
春花は特にやることも無いので、珠緒に誘われてシューティングゲームをしていた。真弓、朱里、真昼、餡子はダブルスの卓球をしており、銃弾の音に混じって小気味良いピンポン玉の音が聞こえてくる。
「っし!! ステージスリークリア!! いぇーい!」
「いぇーい」
珠緒とハイタッチをする春花。
全五ステージあるけれど、順調にステージスリーをクリアした。流石と言うべきか、ゲームとは言え珠緒の射撃の腕は一級品だ。春花も射撃が苦手な訳では無いけれど、それでも珠緒には劣る。
だが、二人のハイレベルな銃撃があれば、この程度のゲームのクリアは容易いだろう。
それは珠緒も分かっているけれど、そんな事よりも、誰かと一緒にゲームをする事が楽しいのだ。
春花達だけでは無い。皆が、仲良く楽しんでいる。
こういう時間が、こういう時間だけ、続けば良いと春花は思う。心底、そう思う。
「ちきちき、第一回、お泊り女子会開催~!! かんぱ~い!!」
いぇーいと楽しそうに声を上げ、ペットボトルに入ったジュースを掲げる笑良。
それに合わせて、他の少女達もノリノリで各々が手に持った飲み物を掲げる。
一通り遊び終わり、温泉に入ってからさぁ寝ようと思ったのだけれど、部屋に戻れば女子達が待ち構えており、既に女子会をする気満々でお菓子を広げていた。
しかし、全員が居る訳では無い。
唯と一、珠緒に餡子、真昼とみのりは遊び疲れてしまったのか、既に眠ってしまっている。
残りの面々だけ集まって、女子会を開くようだ。
「僕、女子じゃないけど」
なんて春花の言い分が聞き届けられる事は無く、少女達は楽しそうにお喋りを始める。
女三人寄れば姦しいとは言うけれど、これはきっとそれ以上だろう。
きゃっきゃっと楽しそうにお喋りに興じる。
春花はベッドの端に座りながら、ちびちびとお茶を飲む。
大変に居心地悪い。全員が温泉に入り、浴衣に着替えているので完全に気を抜いたオフの姿だし、何より狭い部屋に七人も少女が居るのだ。車内でもそうだったけれど、閉鎖空間に男一人というのはやはりそんなに居心地が良いものではない。
だが、今日一日を振り返ってみて、楽しく無いわけでは無かった。自分が記憶している中で遊園地に来た事は無かったので楽しみだったし、実際に来てみて色んなアトラクションを体験出来て楽しかった。それに、こうして友人と思える人達と遊園地に来る事は無いとも思っていた。
自分の心に正直になるのであれば、楽しかったの一言に尽きる。
今日は楽しかった。自分がアリスである事や、それを皆に打ち明けられない事など、色々考えてしまうし、失われた過去の記憶や人型の異譚支配者が自分の事を知っている理由など、問題は山積みだけれど、その問題を一時でも忘れる事が出来た。それくらい、楽しかった。
ぼーっとそんな事を考えていたからか、春花も一日の疲れが蓄積していたからか、うつらうつらと眠気に誘われ、気付けば隣に座る朱里の肩に頭を預けてしまっていた。だが、その時点で春花は既に夢の世界へ旅立っており、健やかな寝息を立てているので朱里の肩を借りている事には気付いていない。
しかし、肩を貸している当の本人は気にした様子も無く、春花の手から飲み物を取り、蓋をしてこぼれないようにする。
「ごめん、ちょっとコイツ寝かせるから」
そう言って、春花が使う予定だったベッドを空けて貰い、春花を横抱きにして持ち上げてベッドに寝かせる。
その間、春花は一切起きる事は無く、すやぴよと心地良さそうな寝息を立てている。
「女子会はお開きにする~?」
「わいわい騒いでる中でぐっすりなんだから、そんなに大きな声で話さなかったら大丈夫でしょ」
「じゃあ、ちょっと声量落としましょうか」
春花が寝ているのもあるけれど、騒ぐには遅い時間でもある。少女達は、声量を抑えながらも楽しそうにお喋りに興じる。
あそこの化粧品が良いだとか、この香水が良いだとか、他愛も無い事を喋り続ける。
普段とそんなに変わらない話題だけれど、こうして集まって夜更かしをしながら話すと言う事に意味があるのだ。
少女達は静かに語らう。話題は幾つも移ろい、尽きぬ程の言葉が溢れ出る。
そんな中、詩は春花の眠るベッドの布団を整え、春花の手を組ませ、何故か髪の毛まで整える。詩がちょっかいをかけても春花は起きる様子は無いので、詩はこれ幸いにと作業を続ける。
春よりも髪が伸び、だいたいショートボブくらいの長さになっている春花の髪に髪留めを付け、目元がよく見えるようにする。
そうして全てを整えた後、詩はぱしゃりと写真を撮る。
「何してるの?」
怪訝そうな顔で白奈が問えば、詩は得意げになって答える。
「……眠り姫の、撮影……シャーロット、とかに、思い出の、共有……」
なんて言うけれど、本音半分趣味半分だ。
「程々にしなさいね」
「……うい……」
白奈に釘を刺されながらも、詩は納得いくまで写真を撮り続ける。
翌日、その写真を欲しがりそうな人物達に送り付け、一緒に泊ったのかどうかを問い詰められたのは、また別のお話。




