表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第7章 蜘蛛の巣
354/489

異譚17 レースゲーム

 一階に降りた六人は、アミューズメント施設へと向かった。


 ホテルの一階にあるアミューズメント施設は、小規模ながらも様々なゲームの筐体が置いてある。クレーンゲームにシューティングゲーム、ワニをハンマーで叩くゲームに、レースゲーム等々。一通り楽しめるくらいには筐体が置いてある。


「春ちゃん、シューティングゲームやろう」


「花ちゃん、レースゲームやろう」


 唯と一は春花の手を引いて自分達がやりたいゲームの方へ連れて行こうとするも、二人がやりたいゲームの筐体は真逆にあるので、必然的に春花を引っ張り合う形になる。


「どっちもやるから、順番ね」


 春花は特に困った様子も無く、順番にゲームをしようと諭す。


 二人は春花の言う事を素直に聞いて、目を合わせるだけで最初にやるゲームを決めて春花を引っ張っていく。


 二人が選んだのはレースゲームで、筐体は四つもある。


「やった事」


「ある?」


「ううん。こういうゲームは初めて」


「「ふふふっ、なら、レクチャーしたげる」」


 にししっと笑みを浮かべながら唯と一が乗り込み、残るは二席となった時に朱里は春花の背中を押してゲームをするように促す。促されるまま座り、もう一つ空いた席には李衣菜が座った。朱里、白奈、李衣菜の三人で目配せをして誰が座るかを決めていたのだ。


「唯の」


「一の」


「「ドラテクが火を噴くぜ」」


「ふっ、こう見えて、私も運転は得意だ。フルスピードで走るのが私の人生だと言っても過言ではないぞ」


 ノリノリでハンドルを握る三人。魔法少女なので運転免許取得可能な年齢に達していなくとも、特例として三人は運転免許を取得する事が出来る。春花も対策軍の職員として、特定の条件下であれば自動車の運転は可能だ。アリスの姿であれば特に条件は付かないけれど、春花はあくまで対策軍に勤めているアルバイトである。そのため、特例での免許の取得は出来ないのだ。


 だが、訓練という名目で沙友里にサーキットに連れて行ってもらい、運転のコツやらなにやらを教えて貰っている。


「あら」


「うわ」


 ゲームが開始され暫くすると、背後から驚愕とも感嘆とも取れる声が漏れる。


「ぬぬっ」


「むむっ」


「このっ」


 運転をしていた三人も思わず眉を寄せる。


 春花の運転技術は抜きん出ており、巧みに三人の進路妨害をしながら最短コースを走り抜ける。


 最初から最後まで一位を譲る事無く、春花はトップでゴールをした。


「上手すぎやしないか!?」


 負けた悔しさもあるけれど、それはそれとして目を見張る運転技術に驚愕する李衣菜。


 選択した車種は全員同じなのでスペックに差は無い。ゆえに、己のテクニックだけが勝敗を決める。


 李衣菜はゲームセンターで遊ぶことも多い。このゲームの筐体は一世代前のものだけれど、内容は同じだ。他の人よりはやり込んでいる自信があったので、後輩に良い所を見せてやろうとしていたのに、結果は惨敗。素直に悔しい。


(たばか)ったな」


(はか)ったな」


「「ぶーっ」」


 そしてそれは、唯と一も同じである。


 二人共、可愛らしく頬を膨らませながら春花を見る。


「別に、二人を騙してた訳じゃ無いけど……」


「ていうか、アンタ達も人の事言えないでしょうに」


 困ったように笑う春花に、朱里が後ろから助け舟を出す。


「「なにが?」」


「初心者狩りしようとしてたでしょうに」


「最初に経験があるか聞いてたしね」


 朱里の言葉と、白奈の追撃に、双子はぶんぶんっと勢いよく首を振る。


「断じて」


「ノット」


「手取り」


「足取り」


「「教えようとしてた」」


「スタートから突き放そうとしているように見えたけれど?」


「「気のせい気のせい」」


 なんて言うけれど、唯も一もスタートから本気を出していた。春花をいじめたいという訳では無く、ゲームが上手だと春花に褒めて貰いたかったからだ。完全に動機が小学生である。


「くっ……このまま引き下がれない! 何より最下位だった自分を許せない! もう一戦、もう一戦お願い出来ないだろうか!?」


「唯も!」


「一も!」


 ふんすと鼻息荒くやる気満々の三人。春花は後ろに居る朱里と白奈を振り返るが、二人共どーぞどーぞと手で続けるように促す。


「じゃあ、もう一回……」


 春花はモニターに向き直り、再度四人でレースを行う。


「今度こそ」


「負けない」


「手加減無用だぞ!」


 やる気満々の三人。先程よりも目は真剣で、向き合う姿勢も本気だ。


 だが、結果は無情。春花は最初から首位を独占し、先程よりも良いタイムを出してゴールした。


(ざん)っ!!」


(ぱい)っ!!」


 悔しそうに天を仰ぐ唯と一。


「くっ……ここまでとは……っ!!」


 ハンドルに握り拳を置いて悔しそうに顔を顰める李衣菜。勿論、台パンなんてしてはいない。拳を強く握りしめているだけである。


「へ~、面白そうな事やってんじゃない」


 春花達がレースをしている間に集まったのか、珠緒達が後ろに立っていた。


「唯、あたしと変わりな。仇取ってあげるから」


「……ふっ、峠の女王、降臨……」


「面白そ~! まゆぴーもやゆ~!」


「残念……」


「無念……」


「侮るなよ、まゆぴー。彼は、出来る……っ」


 唯と一が珠緒と詩と変わり、李衣菜が真弓と変わる。


「僕も変わった方が良いかな?」


「アンタは変わんないで良いんじゃない? コイツ等、打倒アンタって感じだし」


 手首をこきこきと鳴らしたり、軽くストレッチをしたりと、三人共やる気は十分。


「……じゃあ、もう一回」


 春花以外のメンバーを変え、三度目のレースがスタートする。


 春花としては自分だけゲームをする事に負い目があったけれど、他のメンバーはチャンピオンに挑むチャレンジャー気分である。


 自ら挑むだけあって、三人のハンドル捌きは見事なものだった。最短コースを進むテクニック、後続車を妨害する位置取り。先程の三人よりも、そのテクニックは上だった。


 だが、それ以上に春花が上手い。


「上手すぎだろ……っ!!」


「……まさか、峠の、女神……?」


「にょわ~!? ぶつかゆ~!?」


 三者三様のリアクションを見せる中、春花は一位でゴールイン。


「じゃ、じゃあ交替だね! わ、わたしも頑張るよ~!」


「私もやります!」


「ほな、次はウチが行こか~」


 珠緒、詩、真弓からみのり、餡子、うさぎに交替する。


 春花は再度後ろに立つ朱里と白奈を見るけれど、二人共続けてとジェスチャーをするのみで変わってくれそうにない。


 どうやら、全員が春花に挑むまでは続きそうである。


 春花は諦めてハンドルを握る。


 結局、全員が春花に挑んだけれど、全員が完膚なきまでに春花に敗北した。


 別のゲームで勝負をしようとしたけれど、お夕飯の時間になったので一時中断となった。


「……春花ちゃん、レースの女王。つまり、レースクイーン……」


「クイーンじゃ無いですよ」


 それに、その物言いだとまったく別のモノになってしまう。


「後少しだったのにな~」


「惜しかったわね」


「く~! まゆぴーも惜しかったよ~!」


「あんたドベのくせに良く言うわ」


 悔しそうにしながらも、楽しそうにゲームについて話しながら、少女達はお夕飯を食べるために食堂へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ