異譚16 ちょっと一息
感想、評価、ブクマありがとうございます。
コンテスト用のを書き始めてしまっているので、投稿が若干遅れるかもです。
送らせないようには頑張ります。
三人部屋に入った春花達は、ひとまず身体を休めるために荷物を置いてベッドに腰を下ろす。
「ったく、予約が出来てないってどういう事よ。アタシはちゃんとネットで予約したってのに」
一応は納得したものの、ちゃんと予約が取れていなかった事に不満を漏らす朱里。こちらの不手際では無い事で割を食うのは納得が出来ない。愚痴の一つや二つ漏らしてしまうのも当然だろう。
だが、本来ではいらないはずの手間をかけさせてしまった当人としては申し訳無さを覚えてしまう。
「ごめんね、僕のせいで余計な手間を……」
「アンタが謝る事じゃ無いわよ。向こうのミスなんだから」
「そうよ。有栖川くんが気にする事じゃ無いわ。それに、手間だなんて思うくらいなら誘わないもの。ね?」
「ていうか、アタシがアンタを誘って、その他が乗っかって来ただけだけどね。手間を増やしたのはアタシとアンタ以外の全員なんだから」
「その分、運転手が二人も付いて来たんだから良いじゃない。それに、皆で遊んだ方が楽しいわ。ふふっ、みのりと珠緒ちゃんが、もう面白くって……」
言っている最中に思い出してしまったのだろう。言葉の途中でふふっとおかしそうに笑いを漏らす白奈。
「……まぁ、アタシも今日は楽しかったわよ。アンタはどうだった? 楽しく無かった?」
「楽しかったよ。ジェットコースターに乗るのも初めてだったし、お化け屋敷も面白かった」
「そう。なら自分が余計な手間を作ったとか考えないの。今日は楽しかった。今のアンタは、それだけで良いのよ」
普段、アリスとして必要の無い事にまで気を回しているのだ。このくらいの事を手間だと思って欲しく無いし、朱里としても別段手間だとは思っていない。
「ついつい愚痴っちゃったけど、アンタと同室なのが嫌な訳じゃ無いから。週刊誌とかにすっぱ抜かれても、ホテル側の不手際ですで通せるし、誰もアンタを男だなんて思わないだろうしね」
「ぱっと見は女子の集団だったものね」
「そうそう。それにコイツ、一人でお手洗い行った時にナンパされてたしね」
「誰にされたの? その男は何処に居るの? ちゃんと制裁は加えたかしら?」
「するかそんな事! アタシがちゃちゃっと追っ払ったわよ」
「うん。ちゃちゃっと追い払ってくれた」
自分で追い払った訳では無いにも関わらず、自信満々で頷く春花。
一瞬で目からハイライトを消して春花強火勢モードに入っていた白奈だけれど、朱里が上手く追い払ってくれたと聞いて落ち着きを取り戻す。
「そう。なら良いの。少しの不幸を望むくらいにしておきましょう」
「いや不幸も望むな。今日はそういうの無しよ、無し。ぱーっと楽しんで息抜きするんだから。よしっ、気持ち切り替え! 下の売店に行ってお菓子でも買ってきましょう! なんだか修学旅行みたいでわくわくしちゃうわ~!」
ぴょんっとベッドから降りて、一階にある売店へ向かう事に決めた朱里。少し無理矢理な話題転換のような気もするけれど、春花はまったく気付いた様子は無い。
「うん。でも、お夕飯前だから少しだけだよ?」
「分かってるわよ。アタシにまでお母さんしなくて良いのよ」
朱里の言葉に、春花は自分の言葉を思い返して苦笑する。
「ごめん。ちょっと、癖になってるみたい。最近、二人の家に行く事が多いから」
双子が春花をいたく気に入ってしまったようで、よく春花を家に呼ぶようになった。恐らく、かいがいしく面倒を見てくれるのが嬉しいのだろう。それが楽だという訳では無い。ただ、春花と居るのが楽しいのだ。お母さんのように優しく、柔らかく、温かい。母と父を知らない双子にとって、それはとても新鮮で温かいものだった。
二人と聞いただけで、朱里も白奈も唯と一の事だと分かり、納得したように頷く。
「アンタ、本当に二人のお母さんになっちゃうんじゃない?」
「ふふっ、その内授業参観とかにも呼ばれちゃうかもね」
からかうように言う白奈。だが、春花は至極真面目に答える。
「この間プリント渡されたけど、流石に断ったよ。僕も授業あるし」
「そ、そうなの……」
もうすでに授業参観の日程の書かれたプリントを渡されているとは思っておらず、思わず双子に呆れてしまう白奈。
白奈が双子に呆れていると、どんどんどんっと扉がノックされる。
『『デトロ!! 開けろイト市警だ!! ……あ、間違えた。開けろ!! デトロイト市警だ!!』』
『こら、廊下で騒ぐんじゃない。というか、何故デトロイト市警なんだ?』
ノックの後に聞こえてくる、まるで海外の刑事ドラマのような台詞。なんだか少し様子のおかしい呼びかけだけれど、様子がおかしいのはいつもの事でもある。
朱里が扉を開ければ、扉の前には唯と一、そして、李衣菜が立っていた。
「どしたの?」
「一階にアミューズメント施設があるみたいだから、一緒にどうかと思ってな」
「春ちゃん、ゲームしよー」
「花ちゃん、卓球もー」
朱里越しに唯と一が春花に声を掛ける。
目の前のアタシは無視ですか、なんて思いながらも、二人が春花に懐いた証拠でもあるので特に気にはしない朱里。
「って、言ってるけど、アンタ達どーする?」
「疲れているなら、無理はしないでも大丈夫だ。他の面々も、まだ暫く身体を休めたい者も多いしな」
確かに、少し疲れてはいるけれど、ゆっくりと休む程では無い。暇を持て余しそうになっていたところなので、三人の提案は渡りに船でもある。
「折角だから、一緒に行く? お夕飯まで時間もある事だし」
「うん」
「じゃあ、アタシ達も一緒に行くわ」
丁度売店に行く用意はしていたので、春花達はそのまま一階のアミューズメント施設へと向かった。




