異譚14 お昼ご飯
思い思いにアトラクションを楽しんでいた一行だけれど、時刻は既に十二時半。遊ぶ事に一区切り付けて全員が昼食を食べるために集まる。
「フードコートがあるみたいだけど、出店もあるみたいよ。どうする?」
「どっちに行きたいかで良いのでは? 食べたい物も皆違うだろうし」
「じゃあ、二手に別れましょうか~」
フードコートと出店で出ている食べ物が違うので、二手に別れる事に。
「アンタは何食べたい?」
「なんでも」
「そ。なら、アタシと出店回りましょう。色々食べたいから半分こね」
「うん」
朱里の提案に、こくりと頷く春花。
「じゃあ、ワタシも二人に付いて行こうかしら~」
二人の動向が気になって仕方が無い笑良は、特に食べたい物も無いので二人に付いて行く事にする。
「色々話も聞きたいから、星は星で固まりますか?」
「うちはそれでもええけど……詩ちゃんと餡子ちゃんはどないしはる?」
「……付いてく……屋内、入りて……」
「私もせっかくなので付いて行かせて頂きます!」
瀬里奈の言葉に、詩と餡子も付いて行く事にする。
二人が付いて来ると分かると、真昼は嬉しそうに口角を上げている。本人はクールに振舞っているつもりだけれど、表情豊かなのでバレバレである。
「唯も行く」
「一も行く」
唯と一は李衣菜に懐いたのか、李衣菜とずっと手を繋いでいる。
「ああ、良いぞ。フードコートでも良いか?」
「もち」
「ろん」
「そうか。なら、私達もフードコートにしよう」
「「おう」」
「あ、乙倉さん」
唯と一が別行動だと分かると、春花は李衣菜に声を掛ける。
「うん、なんだ?」
「二人が甘い物ばかり食べないか、見張って……監視……見守っていて貰っても良いですか? 目を離すと直ぐに甘い物だけしか食べなくなっちゃうので」
「見張ってって言った」
「監視とも言った」
「分かった。ちゃんとご飯を食べさせるよ」
「ありがとうございます」
「ママが口煩い」
「パパが教育熱心」
「ご飯ちゃんと食べれば、甘い物食べても良いから。しっかりご飯は食べてね?」
「「はーい」」
春花の言葉に、空いた手を上げて答える双子。
「あんた、本当にママみたいだな」
感心したような、呆れたような顔で春花を見る珠緒。
「まぁ、二人のお婆さんに頼まれてるから。それに、目を離すと直ぐに甘い物食べちゃうから……」
菓子谷家でご飯を作っている間に、二人は隠し持っていたお菓子を食べてしまう事がままあるので、時折見張っていなければいけないのだ。
「あんたも大変だな」
「そうでも無いよ」
別段、二人のお世話を大変だと思った事は無い。
ともあれ、出店とフードコートの二手に別れて昼食を食べる事になった。
星の魔法少女五人と詩、餡子、唯と一はフードコートへ。
春花、朱里、白奈、みのり、笑良、珠緒は出店へ。
「色々あるわね」
「ピザ、バーガー、ポテトにフルーツ飴もあるわ~」
「ど、どれ食べようか?」
「皆で食えるもん何個か買えばよくねぇか?」
「食べきれる量を買わないとね。残すの勿体無いから」
様々な出店があるので、目移りしながら歩いてしまう。
春花もきょろきょろしながら出店のメニューが載った看板や人々が持つ食べ物を見てしまう。
そんな風に歩いていたからだろう。不意に、春花は女性とぶつかってしまう。
「きゃっ」
「あっ……すみません。大丈夫ですか?」
「え、ええ……あぁ、申し訳ございませんわ。お洋服が……」
ぶつかってしまった女性に言われ、女性の持っていたアイスクリームが服に付いてしまっている。
「いえ、大丈夫です。こっちこそごめんなさい。アイス、ダメにしちゃって……」
「お気になさらないでください。アイスよりも、お洋服の方が大事ですわ。せっかくお似合いですのに……」
「本当に気にしないでください」
「ですが……」
「なに、何かあったの?」
春花が付いて来ていない事に気付いた朱里が、春花の元へやって来る。一瞬ナンパされたのかと思ったけれど、春花はぱっと見女性であるため、女性からナンパされる可能性は殆ど無いだろう。
困った様子の二人と、春花の服に付いたアイスの汚れを見て全てを察した朱里は、ポケットからハンカチを取り出して春花の服に付いた汚れを拭う。
「ぶつかっちゃったの? 大丈夫?」
「うん。でも、アイスが……」
「いえ、それよりもお洋服ですわ」
「服は良いわ。気にしないで。アイスはアタシが買い直すわ」
二人共、互いの被害を気にして話がまとまらないと判断し、解決策を提案する朱里。
「いえ、それには及びませんわ。食べられない訳ではございませんので」
「なら、こっちも気にしないで。洗濯すれば大丈夫だから。それでこの話はお終い。良いわね?」
「はい。そちらが、よろしいのでしたら……」
「僕は大丈夫です。こちらこそ、本当にごめんなさい」
「いえ、わたくしもよそ見をしていましたので。本当に、申し訳ございませんわ」
最後にぺこりと頭を下げて、向こうの方から離れていく。
連れらしき人達の元へ歩く彼女を見送ってから、朱里は春花に向き直る。
「アンタ気を付けなさいよ? ただでさえぼーっとして……って、大丈夫? 汗凄いけど」
「え?」
「てか、顔色も悪い。大丈夫? 具合悪く無い?」
心配そうに春花の顔を覗き込み、アイスを拭いた方と逆の方で春花の汗を拭う朱里。
春花に自覚は無いけれど、朱里がこうして心配しているという事は、相当顔色が悪いのだろう。
だが、体調が悪い感じは無い。眩暈もしなければ、頭痛も無い。気持ち悪さだって特には無い。
「ううん。大丈夫。……なんでだろう?」
「無理はしないでよ? ダメそうなら、アタシ達だけ先にホテルにチェックインしても良いんだからね?」
「ううん。大丈夫……って、ホテル?」
「え? アレ……言ったわよね、アタシ? ちょっと遠いから一泊二日だって……」
「……そうだっけ?」
小首を傾げる春花を見て、朱里は呆れたように溜息を吐いた。因みに、微風と李衣菜がレンタカーを借りて車二台で来ているので、荷物は車の中にある。
「はぁ……やけに荷物少ないと思ったら、そういう事……」
「ごめん。すっかり忘れてた……」
「……まぁ良いわ。ホテルに浴衣とかあるみたいだし。一応アンタも男だから、アンタは一人部屋で予約取ってるしね。もし不便なら、どっかで服でも買いましょ」
「うん」
「じゃ、体調が大丈夫なら行きましょ。でも、無理はしないでよ? 体調悪かったら言いなさいね? アンタが無理してたら、皆も楽しめないんだから」
「うん、分かった」
「よし。じゃ行きましょう」
「うん」
春花の体調が悪い訳では無いと分かれば問題は無い。今の春花であれば、体調が悪い事を隠す事はしないはずだ。
朱里は春花を連れて皆の元へ戻る。その背中を見詰める視線には、気付く事はなかった。




