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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第7章 蜘蛛の巣
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異譚13 キュートアグレッション

 先頭の白奈が通った瞬間プシューッとガスが噴出する。センサーで感知しているのか、それとも人力でやっているのかは分からないけれど、突如噴出されたガスに驚く四人。


「おぉ」


「にょわっ」


「ぴぃっ!?」


「ひぎっ!?」


 白奈は冷静に、真弓はびくっと身を跳ねさせて白奈の方に寄り、みのりと珠緒は互いにタックルするかのように身を寄せ合う。


 ガスの噴出はお化け屋敷の定番の仕掛けと言っても良いだろう。ある程度予想は出来ていたので、白奈は特に驚く事は無かった。


 真弓は事前情報など何も仕入れてはおらず、知識なども特には無い。驚かされるという体験を予備知識無しで楽しんでいるので、新鮮な反応を見せている。


 完全にビビってしまっている二人は、定番中の定番の仕掛けにも関わらずかなり驚いており、互いに爪が食い込む程強く手を握り合っている。


「にゅふふ! お化け屋敷って楽しいにぇ!」


 心底楽しそうに笑みを浮かべる真弓。


 お化け屋敷に入った事が無い真弓にとっては全てが新鮮な体験だ。適度に沸き上がる恐怖心。それを刺激するように絶妙なタイミングで発動する仕掛け。


 それだけでも十分楽しいけれど、新しく出来た友人と一緒という事が真弓のテンションを爆上げする要因となっていた。


 にゅふふと屈託無く笑う真弓に、白奈も笑みを返す。


「そうね。まだまだ序盤だけど、院内の造りも良いしね。さすが、日本最高峰のお化け屋敷。それに何より、後ろの子達を見るのも楽しいしね」


 笑いながら、白奈は背後でおっかなびっくり歩く二人を見る。


「ど、どどどどうって事ねぇな……」


「そ、そそそそうだよね……」


 互いに身を寄せ合いながら歩いているせいか、非常に歩きづらそうな二人。


「ドSだにぇ……」


「ふふっ、キュートアグレッションよ」


 笑いながら先に進む白奈。白奈の雰囲気だけを見れば、およそお化け屋敷に居るようには見えない。さながらウィンドウショッピングを楽しんでいるかのようだ。


けれど、珠緒とみのりに目を向ければしっかりとお化け屋敷だと分かるくらいには二人は怯えている。そんな二人の姿を見て、なんだかチワワのようで可愛いと真弓も思ってしまう。


「分かる気がすゆ」


「でしょ?」


 そんな二人のお喋りを気にする余裕も無く、珠緒とみのりは常に周囲を警戒している。


「お、おいみのり。お前、周囲の敵とか感知出来ねぇのか?」


「む、無理だよぉ。た、珠緒ちゃんも、お、音で分からないの?」


「む、無茶言うな。こっちは変身してねぇんだからよ……」


「わ、わたしだって変身してないよ!」


 会話をしながらも、二人は警戒を続けていた。だが、おざなりもおざなり。それに、魔法少女に変身していないのであれば魔力感知も出来ないし、研ぎ澄まされた五感も鈍るというもの。


 最後尾を歩く珠緒とみのりがとある扉の前を通った直後、ガスの音と共に扉から脅かし役のスタッフが出て来る。


「ヴォォォ「「ぎゃぁぉぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああっ!?!?」」」


「え、なに?」


「にょわっ!? なにごとぉ!?」


 突然悲鳴を上げた二人に驚いた白奈と真弓。ガスの噴出音は聞こえて来たけれど、スタッフの脅かす声は聞こえてこなかった。


 そのため、白奈と真弓は二人がガスの噴出で驚いたのだと思った。


 振り返ってみれば、驚いた表情を浮かべる珠緒とみのり、そして、迫真の演技で二人を脅かす幽霊(スタッフ)が立っていた。


「……? あら?」


「増えてゆ!」


 しかして、背後に覚えの無いスタッフ(五人目)が立っていたところで、驚く様子を見せない白奈と真弓。白奈に至っては、何か驚いてるなと思って振り返った後、幽霊が居る事では無く人数が増えている事に疑問を抱いて幽霊を二度見する始末。


 一瞬、白奈と幽霊の視線が合い、言い様の無い気まずい空気が漂う。驚かず、なんか増えてるなぁくらいで二度見をする白奈と、幽霊に驚くのではなく、人数が増えている事について言及する真弓。


 一瞬の気まずい空気の後、白奈は謎に会釈をしてから前に向き直り先に進み、真弓は逃げようとする珠緒とみのりに押される形で前に向き直った。


 後には、驚かし甲斐があるのだか無いのだか分からない一行の背中を見送る、微妙な顔をしたスタッフだけが残された。


 そんなスタッフなどお構いなしに、一行は更に先を進む。


 先に進めば進む程、珠緒とみのりの絶叫は増え、大きくなっていく。


 ベッドが勝手にがたがた揺れれば叫び声を上げ。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」


 前方に幽霊役のスタッフが現れ、その横を通り抜ける時は謎に謝り。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」


 ちょっとカーテンが揺れただけで体当たりするように前の二人を押す。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁああああああ!?」


 前後で幽霊役のスタッフに挟まれ、後ろの幽霊役のスタッフが迫れば前を歩く二人を押し退けて前方の幽霊役のスタッフの横を絶叫しながら通る。


「早く早く早く!! 早くって言ってんじゃん早く行けって!!」


「びぃ!? こ、来ないでくださいごめんなさいもうしませんからぁ!!」


 その様子を見て白奈はくつくつと笑い、真弓もにぱぁっと楽しそうに笑みを浮かべる。


 そうして、最後まで絶叫を上げ続けるも、長い道のりを無事に踏破した四人。


 憔悴しきった様子でお化け屋敷の出口から出て来た珠緒とみのりを見て、たまたま順番待ちで並んでいた春花、朱里、笑良の三人が驚いたように声を掛ける。


「アンタ達入ってたのね……って、随分やつれたわね」


「そんなに怖かったの~?」


「でも、後ろの二人は笑ってるけど……」


 春花達に声を掛けられ、ようやく三人の存在に気付いた珠緒とみのり。


 二人は三人を見やると、一度深呼吸をしてから、何食わぬ顔で乱れた髪や服を整える。


「別に、怖く無かったけど?」


「そ、そうだよ! ちょっと音とかでびっくりしただけだよ!」


「もう全然平気。もう一回入っても余裕」


「な、なんなら、今日はここだけでも良いくらいだよ!」


 二人は情けない所を見られたくないと見栄を張る。


だが、先程までの憔悴しきった顔を見られているので、今更取り繕ったところでもう遅い。


取り繕ったように答える二人に、白奈はぷっとおかしそうに吹き出す。


「じゃあもう一回入ゆ~?」


「それは勿体無いから別のとこ行こ!! な!?」


「そ、そうそう!! いっぱい色々回ろうね!! それが良いね!!」


 意地悪を言う真弓の腕を引っ張って、別のアトラクションへと向かう珠緒とみのり。


「ふ、ふふっ……あー面白かった」


 そんな二人を見て、目に涙を溜めて笑う白奈。


「アンタ、変な楽しみ方してるわね……」


「二人の驚きようが面白くてね。ふ、二人共、スタッフさん相手にごめんなさいって何度も謝って、ふふっ、何に謝ってるんだろって感じで、ふふふっ」


 説明している途中で思い出し笑いをする白奈。よっぽど、珠緒とみのりのリアクションが面白かったのだろう。


「良い性格してるわねアンタ」


「ただのキュートアグレッションよ。それに、あの二人のリアクションが完璧だっただけだわ。お手本のように驚くんだもの」


「物は言いようだわ……」


 白奈の物言いに呆れた様子を隠しもしない朱里。


「まぁでも、お化け屋敷としても面白かったわよ。デティールも凝ってるから、きっと楽しめるわ」


「そう。なら期待しちゃおうかしら」


「ええ。おいて行かれちゃうから、もう行くわね。楽しんで」


「ええ」


 それじゃあと手を振りながら、三人の後を追う白奈。


「春花、アイツ性悪らしいから気を付けなさいよ」


「うん、分かった」


「分からないであげて~。二人の反応(リアクション)が面白かっただけだと思うから~」


 酷い事を言う朱里と、朱里の言葉に素直に頷いてしまう春花に苦笑しながらも、笑良は白奈のフォローをする。その後、自分がリアクションする側に回ってしまい、朱里が白奈と同じように笑う事になるとは、この時の笑良には知るよしもない事であった。


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