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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第7章 蜘蛛の巣
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異譚9 泣きつく

 春花、朱里、笑良の三人が乗ったのは『えぇじゃないのぉ』というジェットコースター。


 瞬間最高速度3Gという驚異的な数字もさることながら、特筆すべきはその開放感だろう。


 むき出しの座席に座らされ、シートベルトと安全バーのみが身体を支えている。その状態で一回転させられるのだ。高速で移動しながら前転後転を繰り返し、高所で逆さ吊りにされる恐怖は乗った者にしか分からないだろう。


 春花、朱里は上空での高速戦闘に慣れている。この安全バーが外れ、その上でシートベルトが外れるかもしれないと考えると、確かに恐怖を感じた。


 だが、高速戦闘に慣れており、落下したと分かれば即座に変身して対処できる判断力と経験からくる自信がある二人だからこそ、その程度の恐怖で済んでいるのだ。


 一般人からすればその速度も、逆さ吊りにされる恐怖も普段は味わう事の出来ないものだ。ゆえに、きゃあと悲鳴を上げ、その絶叫は遠くまで響き渡る程に大きい。


 アトラクションが終わった後、春花と朱里はけろっとしていた。


「まあまあだったわね」


「うん」


 朱里の最高速度には遠く及ばないし、実戦ではもっと酷く無理矢理な回転をしている。


 春花もアリスになった時に似たような事をしているので、さして恐怖を覚える事は無かった。


「まあでも、自由の利かない中でぐるぐる回されるのは少し怖かったわね」


「この状態で安全バーが外れたら僕は死ぬ……って考えると怖かった」


 だが、完全に恐怖が無かった訳では無い。変身すれば平気なのは分かっているけれど、生身である事には変わりない。


 自由が利かず、速度も回転も委ねるしかない。いつも自由自在に高速移動をしている二人からすれば、一般人とは少しだけ違う角度の恐怖感を味わった。


 ただ、それでもある程度の恐怖感に他ならない。平気な様子ですたすたと歩く春花と朱里だけれど、その後ろを笑良はよたよたと歩く。


「う、うぅ……きぼちわるい……」


 三半規管をやられたのか、笑良は口元を手で覆いながら春花の肩に手を置く。


「大丈夫ですか?」


「だめかもぉ……」


「まったく、だらしないわねぇ」


「あたしは朱里ちゃんみたいに高速で戦闘してないも~ん。仕方ないじゃな~い」


 笑良は春花や朱里のように高速戦闘をするタイプの魔法少女では無い。常人よりは素早く移動できるけれど、驚異的な速さという訳では無い。


 ジェットコースターよりも速く動ける二人よりも慣れていないのは当たり前である。


「この間アリスの背中に掴まって戦闘してたじゃない」


「あの時はアリスちゃんを信じて目をぎゅうぅって瞑ってたの~」


「戦闘中に目ぇ瞑ってんじゃないわよ。目ぇ瞑ってると反応も遅れるし、アンタが補助魔法を使う時だって対象を探さなきゃだし――」


「朱里ちゃんが意地悪言う~」


 朱里の言葉を遮って、ひえ~んと泣き真似をしながら春花を盾にする笑良。


「今日はオフなんだから、仕事の話は禁止~! 意地悪も言っちゃだめなんだから~!」


 春花を盾にしながら朱里に抗議する笑良。


 そんな笑良を呆れたような目で見る朱里。


「はいはい分かったわよ。確かにアタシが無粋だったわね」


 笑良の言う通り、今日はオフなのだ。仕事の事は抜きにして楽しむべきだろう。


 素直に非を認めた朱里に、笑良は満面の笑みを浮かべる。


「むふふ~。分かれば良いのよ~。今日は目一杯楽しむんだから~。ね~?」


 同意を求められた春花はこくりと頷く。


「頑張って、楽しみます」


「頑張るもんでもないでしょうが。ああでも、考えてみれば、女子ばっかで気を遣うわよね……アンタ、男子の友達とか居ないの?」


「居ない」


それに、そもそも明確に友達と胸を張って言える相手が非常に少ない。居ない事に関しては胸を張って言えるけれど。


「男の子のお友達欲しいって思わないの~?」


「……全然」


 少し考えて、春花は素直に答える。


「一人で居るのは好きですし、映画も読書も一人で出来ますし。それに……」


「それに~?」


 春花は笑良から視線を外して朱里の方を見やる。


「今は、東雲さんが声を掛けてくれるので、寂しいとかは無いですし」


 朱里が話しかけて来れば、自然と白奈やみのりも声を掛けて来る。そうでなくとも、白奈やみのりの方から声を掛けてきてお喋りをする事もある。


 今でも、菓子谷家のお婆さんに料理を教わりに行っているし、料理を作れば菓子谷姉妹とお婆さん、春花の四人で食卓を囲んでいる。


『ママ』


『パパ』


『『つまりマパ』』


 なんてよく分からない事を言っていたけれど、ご飯を食べ終わった後は二人共春花の膝に頭を乗せてぶーたらしながら携帯端末をいじったりゲームをしたりしているので、春花を良く思ってくれている事は確かだろう。


 たまに童話のカフェテリアにお邪魔する事もあり、童話の魔法少女達とも交友を深めている。


 本当なら、交友は深めない方が良いのだろう。春花がアリスだと判明した時、きっと皆騙されたと思うに違い無いのだから。


 騙されたと糾弾されれば春花は傷付く。けれど、騙された彼女達の方がもっと傷付くはずだ。それを考えると、今日だって来ない方が良かったはずだ。


 それは分かっている。分かっているのだけれど、誰かに求められる事を嬉しいと思ってしまう自分がいる。


 別段、友人が一杯欲しい訳でも無い。それでも、友人だと思った相手に遊びに誘われれば嬉しい。それこそ、二つ返事で誘いに乗ってしまうくらいに。


 一人で良いと思っていたのに、寂しくても構わないと思っていたのに。


「へ~ふ~ん、そ~なんだ~」


 そんな春花の心中をさて置いて、春花の言葉を聞いた笑良はによによ~っと楽しそうに笑みを浮かべる。


「なにニヤニヤしてんのよ気持ち悪い」


「別に~、って気持ち悪い~!? 言うに事欠いて、女の子に気持ち悪い~!? ひど~い!」


「酷か無いわよ。まったく、下衆な勘ぐりするんだから」


「下衆じゃないわよ~! ひぇ~ん、春花ちゃ~ん! 朱里ちゃんが酷い~!」


 泣き真似をしながら、笑良は春花に泣きつく。


「下衆……?」


 しかして、特に思い当たる事が無いのか、春花は朱里の言葉に小首を傾げる。


「良いのよ、分かんないなら気にしないで。ま、無理に誰かと仲良くする必要は無いわよ。ゆっくり気楽に、自分のペースで、ね?」


「うん」


 朱里の言葉に、春花は素直にこくりと頷く。


「さ、それじゃあ次に行きましょうか。あ、あの空中でぶん回されるの良いんじゃない?」


「え、ちょ、ちょ~っと抑えよう? ね~?」


「駄目よ。アンタが反省するまで絶叫系に乗るんだから」


「ひ~ん。春花ちゃん助けて~」


 再度春花に泣きつく笑良。


 春花はどう助けて良いのか分からず朱里を見るけれど、朱里は楽しそうに笑うだけだった。


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― 新着の感想 ―
なんか日常の中の楽しい非日常があると不安になるね
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