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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第7章 蜘蛛の巣
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異譚8 恋バナ

 園内に入る前から聞こえてくる楽しそうな悲鳴に心を躍らせながら、一行は入園ゲートを通る。


 家族、友人、恋人。関係は違えど、皆楽しそうに笑みを浮かべている。


「流石に混んでるわね~」


「どうする? 各々行きたいところも違うと思うし、二手くらいに別れる?」


 童話の魔法少女十人に加えて星の魔法少女五人。十五人の大所帯で来てしまっているので、一斉に動くには人数が多すぎる。


「それで良いんじゃないですか? 流石に、この人数では多すぎますし」


「十五人だし、五人組が三組の方が良いんじゃないか?」


「いえ、アトラクションは一グループ最大四人のモノが多いです! 四人組が三組、三人組が一組の方が回りやすいと思います!」


「じゃあ、そうしましょうか~」


 四人組三組の三人組一組で移動する事に決め、一行は早速組み分けをするのだけれど……。


「で、どう組み分けするの? ぐーちょきぱーで決める?」


 問題は組み分けの方法である。


 好きな者同士で固まっても良いけれど、その組み方をした場合は星の魔法少女は五人なので一人あぶれてしまう。適当に組んでも、星の魔法少女達と面識が無い者とは微妙な空気になってしまう可能性もある。


 何より、星の魔法少女達は春花とは初対面である。春花はアリスとして面識はあるけれど、それでも人見知りをしてしまう事には変わりない。


 組み分けで微妙な空気になる事を星の魔法少女達は望んでいる訳では無い。かと言って、こちらから提案するのも申し訳無い。


「……ドラフト、する……?」


「してる暇あるか。あんまうだうだしてても邪魔になるし、適当で良いんじゃ無いの? お昼に一回集合して組み分け変えても良いし」


「そうね。じゃあ、近くの人と組みましょうか」


 星の魔法少女達の懸念を他所に、朱里と白奈は適当に決めようとする。


「じゃあ……真弓、あたしと……行く?」


「にゅ!? う、うん!! 一緒に回ゆ~!!」


 珠緒にしては珍しく自ら一緒に回ろうと真弓を誘う。


 まさか珠緒の方から誘って貰えるとは思っておらず、嬉しそうに笑みを浮かべる真弓。


 そんな真弓と珠緒の様子を見た他の星の面々は、真弓は一人で大丈夫だろうと判断する。


「じゃあ、こっちは二人に別れるから、そっちの誰かあたし達と一緒に回ってくれる?」


「ではでは! 私と詩先輩がお供します!」


「……いぇぁ。ゲロ吐くまで、回るぜ……」


「唯と」


「一も」


「「一緒に回る」」


 早々に四人組を作り、あぶれたのは春花、朱里、みのり、白奈、笑良の五人。


「みのり、私達は珠緒と真弓さんと一緒に回りましょう」


「え、う、うん! 分かったよ!」


「じゃ、アタシと春花と笑良の三人ね。それじゃあ、一旦解散ね。お昼に集合しましょう」


 朱里の言葉を合図に、各グループは思い思いの場所へと脚を運ぶ。


「さ、行きましょう。アンタ達は乗りたいアトラクションはあるの?」


「特には」


「そうね~。有名なやつから乗ってみる~?」


「そうね。それで良いでしょ。それじゃ……これなんてどう? 瞬間最高速度3Gだって」


「素人が耐えられるものなの、それ?」


「稼働してるんだから大丈夫なんでしょ。待ち時間そこそこあるみたいだし、さっさと行きましょ」


 言って、すたすたとアトラクションまで歩いて行く朱里。


 アトラクションまで向かう朱里に付いて行く春花と笑良。


「うふふっ。遊園地なんて久し振りだわ~。春花ちゃんは、遊園地は来た事ある~?」


「いえ。記憶喪失前は分かりませんが、憶えている限りでは来た事はありません」


「そうなの~? なら、とっても楽しい一日にしましょうね~」


 春花が記憶喪失である事は既に知っている。そして、その事を春花自身が気にしていない事も知っている。なら、笑良が春花を憐れむのは違う。それは春花に対する侮辱だ。


 今日を目一杯楽しむ。それが、春花に対する最善の行動だ。


「あ、でも……遊園地初めてなら、最初にジェットコースターじゃない方が良いのかしら~?」


 朱里が提案をしたのは、この遊園地の名物アトラクションの一つでもあるジェットコースターだ。左右で席が別れており、左右合わせて四席、それが五つ連なっている。いわゆるジェットコースターとは形が違い、箱型では無く座席がむき出しになっているのが特徴であり、その座席が走行中に前後にぐるぐると回転する。


 朱里が提案したジェットコースターは初心者が乗るにはハードなものだ。最初は普通のジェットコースターで慣らしてから、乗った方が良いのではと考えた。


「大丈夫です」


 だが、春花は特に懸念などは無いようで、いつもの澄ました表情で返す。


「ソイツなら大丈夫よ」


 朱里も春花であれば問題無いと言い切る。


 笑良は知らないけれど、春花はアリスであり、アリスはジェットコースターも顔負けの速度で縦横無尽に飛行する事が可能だ。ジェットコースター程度であれば何ら問題は無い。


「そ~? だめそうなら言ってね~?」


「はい。お気遣いありがとうございます」


 自身を気遣ってくれる笑良に素直にお礼を言う春花。


 三人はお目当てのジェットコースターの列に並ぶ。そこそこ早めに来たからか、待ち時間は四十分程。それでも大分長い。


「よく、待ち時間長いと初デートには向かないって言うけど、あれ本当なのかしらね?」


 特に考えた様子も無く、朱里は二人に訊ねる。長い待ち時間という事でこの話題を思い出したのだろうけれど、笑良と春花は互いに顔を見合わせた後で小首を傾げた。


「さぁ? 僕、デートした事無いから分からない」


「あたしも~」


「いやアタシもした事ないけどさ。なんか、会話を繋げなくちゃいけない時間が増えるから大変らしいじゃない? でもそれって友達と行っても同じ事でしょ?」


「お友達なら会話を続けなきゃって気を遣ったりしないけど~、初デートともなると気を遣っちゃうからじゃないの~? 後は~、初デートでドキドキしちゃってるとかかしら~」


 突如始まった恋バナのような話に嬉しそうに返す笑良。笑良だって年頃の女の子。女の子同士で恋バナに花を咲かせたいのだ。


 魔法少女は恋愛を避ける者が多い。殉職率が高いからそうなった時に相手を悲しませてしまう、というのもあるけれど、メディアに露出している者はアイドルのような扱いだ。そのため、恋人がいない方が応援して貰いやすい。後は、打算で近付いてくる者が多いため、魔法少女側が警戒をしているというのもある。


 なので、魔法少女は恋バナをする事が殆ど無い。あまり無い機会なので、そういった年頃の女の子がするような話をしたい笑良にとっては嬉しい話題なのだ。


「そういうもん? なーんか、アタシいまいちピンと来ないのよね。アンタはどう思う?」


「僕? ……僕はそもそも、会話が得意じゃ無いから」


「お喋りが得意じゃなくても良いのよ~。一緒に居て居心地が良ければ無言の時間だって苦にならないわよ~。朱里ちゃんが相手に求めてるのって、見た目とかじゃなくて、一緒に居て居心地の良いところなんじゃ~い? だから、一緒に居る相手と話を繋げなくちゃ~って気にならないし、一緒に居て居心地の良い人としか遊んだりしないから、ピンと来ないのかもね~」


「あぁ、確かにそうかも……童話の連中だったら無言でも全然平気だし、何ならアタシより喋る奴もいるしね」


 当てはまる所があるのか、納得したように頷く朱里。


「そう考えると、笑良は平気そうよね。アンタ、気配り屋さんだから、色んな事話題に出来そうだし」


「え~? そうかな~?」


 朱里に褒められ、満更でも無い様子で照れる笑良。


「てか、アンタ達って好みの相手とか居ないわけ? 他の連中もそうだけど、こういう人が好みって聞いた事無いし……まぁ、恋愛御法度みたいな風潮あるから、当然っちゃ当然だけど」


「好みの相手か~。確かに、考えた事無かったかも~」


「僕も、恋愛が御法度な訳じゃ無いけど、特には……今は、友達が居てくれるだけで、嬉しいし……」


 春花の口から出た意外な言葉に、思わず目を丸くする朱里。


「なに?」


「……や、別に。そうね。アンタがそれで良いなら、今は良いのかもね」


 帽子の上から、乱暴に春花の頭を撫でる朱里。


 自己肯定感が低い春花の口から、明確に友達という言葉が出たのだ。親睦を深めるために遊園地に来たのだけれど、その必要も無かったかもしれないとも思ってしまうくらいに、朱里はその言葉で満足する事が出来た。


 だが、それはそれ、これはこれだ。来たからには十分楽しむし、更に仲良くなる事は悪い事では無い。


 春花の頭を乱暴に撫でる朱里を見て、笑良は少しだけ意地悪な笑みを浮かべる。


「そういう朱里ちゃんは、好きな人とか居ないの~?」


「居ないわよ。今は仕事が恋人みたいなもんだしね」


「えぇ~? ほんとうに~?」


「なに(うたぐ)ってんのよ。アタシ、学校でも男子とは一線引いてるわよ。ね?」


「うん。自分から話しかけてるとこは、見た事ないかも」


 同意を求める朱里に頷く春花。


 しかし、笑良にとっては二人のその会話だけで充分ではあった。


「そっかそっか~」


 春花に確認して、明確な答えが返って来る程の関係。つまり、学校でも二人は仲良しだという事に他ならない。


「なにによによしてんのよ」


「別に~? ふふふ~」


 楽しそうに笑みを浮かべる笑良。これは同じクラスの二人にも話を聞かなければいけないな~と心中で悪い笑みを浮かべる。


 そんな笑良の様子を見て、何が何やら分からない様子の春花と朱里は揃って怪訝な表情を浮かべるのであった。


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