異譚7 いざ、遊園地
気付けば100万文字書いてました。自分至上初ですね。
後日。予定を合わせ、童話の魔法少女全員で有名な遊園地に来ていた。
「遊園地、楽しみです!」
「……日差しが、きちぃぜ……」
うきうきとはしゃいだ様子の餡子とは対照的に、燦々と照らす太陽の日差しに呻いている。秋口とは言え残暑もあるのでまだまだ日差しは強い。日差しから逃れるように深く帽子を被る詩の手を、元気良く引いて入園ゲートへと餡子は進む。
「あれ乗るぜ」
「それ乗るぜ」
「「全制覇だー」」
「こら、走っちゃだめよ~、も~」
はしゃぐ唯と一を笑良は嗜めるも、足取りは軽くにこにこといつも以上に柔らかな笑みを浮かべている。普段は皆のお姉ちゃんのように振舞ってはいるけれど、笑良だって年頃の女の子だ。仲の良い友人達と遊ぶのが楽しくて仕方が無いのだろう。
「にぇ! にぇ! お化け屋敷あゆ! 絶対行こ! にぇ?」
「わーったって……おまえ、そのテンションじゃ一日もたねぇぞ」
「ご安心を。まゆぴーはオールウェイズこのテンションだ。つまり、一日中もつ。保証するよ」
「そんな保証要らねぇ……」
隣で大はしゃぎしながら携帯端末を操作して園内の情報を見る、星の魔法少女、射手座のまゆぴー――矢羽々真弓を見て、このテンションが続くのかと思うと少しだけげんなりする珠緒。
真弓曰く、一番でっけぇショートカットの少女、りぃちゃんこと乙倉李衣菜は特にげんなりした様子は無い。真弓がこの調子なのはいつもの事。最初は多少喧しいとは思っていたけれど、真弓と仲良くなるにつれて特に何も思わなくなった。これが矢羽々真弓なのだと分かったからだ。
「騒がしゅうなるけど、勘弁したってなぁ」
関西のおっとりお姉ちゃん、せりりんこと瀬里沢うさぎが後ろから珠緒にやんわりと伝える。
「君に誘って貰えたからテンション爆上がり中なんです。許してやってください」
「そーそー。あたしなんて夜中まで通話付き合わされたんだから。お陰で寝不足よ」
イケメン女子、そよぷーこと微風玲於奈と、羨ましい巨乳のまーぴーこと秤真昼も真弓の事を気にしなさんなと言う。
「いや、別に嫌ではねぇよ。嫌なら誘わねぇし」
星の魔法少女達を呼んだのは、他でもない珠緒だ。今回のお出かけを計画した朱里や白奈、一緒に行く他の面々にしっかり話を通してから、彼女達を誘った。
「ちょっとうるせぇなぁとは思うけど……まぁ、遊園地ってそういうとこだし、楽しいなら誘ったかいがあるし……あー、とにかく別に嫌な訳じゃねぇから! 勘違いすんなよ!」
言ってて恥ずかしくなったのか、安っぽいツンデレのような事を言ってしまう珠緒。
「かぁいいツンデレさんやねぇ」
「お株を奪われたな、まーぴー」
「別にあたしはツンデレじゃないけど!?」
「あたしも別にツンデレじゃねぇ!!」
からかわれてぎゃーぎゃー反論する珠緒と真昼。
そんな珠緒の腕にがしっと腕を通す真弓。
急に腕を組まれたので驚きながら真弓の方を見ると、真弓はむふーっと鼻息荒く嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「まゆぴーは誘って貰ってとっても嬉しいよ~! 今日は一杯楽しも! にぇ? ってことでゴー!! 早く入場すゆよ~!」
「うわっ、引っ張んな! ちったぁ落ち着け!」
「あんまり騒がしくするんじゃないぞー……って言っても、聞かないよな」
「テンション爆上がり中ですからね」
「新しい友達が出来て嬉しいんでしょ」
「そやねぇ。ほな、保護者として行こかー」
先を行く珠緒と真弓の後を追う星の魔法少女達。
「成長した……と言うより、前に進んでる感じね」
「そ、そうだね。自然体だし、楽しんでるみたいだし」
「まだアトラクションに乗って無いのにね。あれで体力もつのかしら?」
「だ、大丈夫だよ。皆、しっかり鍛えてるからね」
「ふふっ、そうね。あの様子なら皆大丈夫なんじゃない、朱里?」
珠緒の様子を窺っていた白奈は、最後尾を歩く朱里を意味ありげに振り返る。
「なんでアタシに言うのよ」
「さぁ? なんでかしらね」
ふふっと微笑んでから前を向く白奈。
ヴルトゥームに言われて、春花の事をあまりよく知らない自分に気付いた。本人が喋りたがらないというのもあるけれど、本人に語る事の出来ない過去があると言う事も関係している。
だから、春花自身も自分の事を語る事が出来ない。
だが、過去の事は語れなくとも、今を語る事は出来るはずだ。何が好きで、何が苦手で、何が楽しくて、何が退屈か。それを、一緒に遊びに行って知りたいと思った。
と同時に、最近訓練に根を詰めている少女達の事を思い出した。瑠奈莉愛を失ってから、彼女達は今まで以上に強くなろうと頑張っている。しかしそれは、救う事の出来なかった事に対する後悔と自責も含まれている。
ただ強くなりたい。その一心だけで打ち込むのであれば良いのだけれど、後悔や自責が彼女達を動かしているのであれば、彼女達が苦しみ続けるだけだ。
気持ちをリセットする訳ではないけれど、一度切り替える事は必要だ。しっかり訓練をするときは訓練に打ち込んで、しっかり心身共にケアする時は休養を楽しむのだ。
春花を知る事と、彼女達が休養を楽しむ事。それを同時に行えるのであればそれで良いし、別々に行うのであればそれでも良い。
教室で何気なく白奈かみのりが釣れそうな話題と行動をすれば、二人が話に入って来るだろうと思っていた。あまり露骨に誘っても気を遣っているとバレてしまうし、気を遣っている事がバレてしまえば彼女達も素直に楽しめなくなる可能性がある。
辛い事ばかりでは魔法少女はやっていけない。いや、魔法少女じゃなくとも、辛い事ばかりであればいずれ心は限界を迎える。そうならないように、心のケアは重要なのだ。
なので、春花と親睦を深めるためと皆に伝えればそれが良い理由付けになり、誰も朱里が気を遣っているだなんて思わないだろうと考えていたのだけれど、どうやら白奈には朱里の魂胆がバレていたらしい。因みに、みのりは特に何も分かっておらず、頭に疑問符を浮かべながら小首を傾げている。
「ったく、嫌に頭回るんだから……」
「どうかしたの?」
「何でも無いわよ。……てか、アンタやっぱり私服だと女子感満載ね」
「そ?」
「そうよ」
白のシャツにベージュの長ズボンに薄手の白色のカーディガン。それに加えて、つばの広い帽子を被っているので、雰囲気も相まってどこかの御令嬢のようにも見える。
「……それより、どうして急に?」
「なにがよ」
「僕と親睦を深めよう、って」
「あー……アンタとは一番付き合いが長いけど、アンタの事なんも知らないって思ってね。昔の事は分からなくても、今のアンタの事ならアンタでも分かるでしょ? 背中を預ける仲間として、少しは知っておこうって思ってね」
「そう……僕なんか知っても、特に面白くないとおもうけど」
「それはアタシが決めるわ。てか、アンタと居て楽しく無かったら、アンタの事知ろうだなんて思わないけど?」
「楽しい……? 僕と居て?」
「ええ」
「正気……?」
「アンタ自分の事卑下してんのよ……。良い事? ばか騒ぎするだけが楽しいって事にはならないのよ。一緒に居て居心地良いだとか、気を遣わないでいられるとか、そういうのもまるっと含めて、一緒に居て楽しいなの。分かった?」
「そう、なんだ……」
「そうなのよ」
朱里の言葉に、なるほどと頷く春花。
「いや、それもう……」
二人の会話を前で聞いていた白奈が思わずそう漏らすも、深く溜息を吐いて出て来た言葉を誤魔化す。
「ど、どうかした?」
「どうもしないわよ」
心配そうに訊ねるみのりに、少しだけ面白く無さそうに返す白奈。
白奈の様子に気付く事も無く、朱里と春花は他愛も無い話を続けていた。




