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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第7章 蜘蛛の巣
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異譚4 諦めましょう

「邪神……邪神ねぇ」


 植物用の栄養剤の入ったコップを片手に、触手でタブレット端末を操作してネットサーフィンをしているヴルトゥームを見て、本当にこの怪植物が邪神なのかと思ってしまう。


 あの日、旧支配者が邪神であると語ったヴルトゥームは、疲れたので寝ますと言った後、本当に眠りについてしまった。


 翌日には朝日と共に起床し、栄養剤を喇叭飲みしていた。


『まだ本調子では無いので、睡眠が必要なのです。まあ、周期的に千年程眠ったりもしましたが、不完全なこの身体では貴女達人間のような生活サイクルになりますね。この美しい私とお早うからお休みまで一緒、という事です。良かったですね』


 なんて(のたま)っていたので、少しだけ水道水をかけてやった。いやぁぁっと悲鳴を上げていたけれど、無視して学校へ行った。


 水道水が気に食わなかったのか、二日程ぷんすか怒って旧支配者について訪ねても『知りませーん』『自分で考えてくださーい』と言って教えてはくれなかったけれど、高めの栄養剤を買って来たら機嫌を直した。


「で、旧支配者について教えてくれるかしら?」


 そして今日、機嫌を直したヴルトゥームに続きを促す。


 タブレット端末を操作していたヴルトゥームが朱里を見やる。


『今、少女漫画を読んでいるのですが?』


「そんなのいつでも読めるでしょ。アタシが留守の間は適当に使ってて良いから」


『むぅ……続きが気になる所ですが、まあ良いでしょう』


 タブレット端末を置き、以前書いたルーズリーフを取り出すヴルトゥーム。


『では、前回の続きです。旧支配者は邪神。異譚支配者は旧支配者の下位互換。此処まではよろしいですか?』


「ええ」


『では、今日は旧支配者について深堀して行きましょう』


 何処からともなく伊達眼鏡を取り出して、すちゃっと掛けるヴルトゥーム。


「いつ作ったのよそんなの……」


『ヘアピンを一つ拝借しました。蔦でちょちょいです。……さて、そんな事はさておき、旧支配者と呼称される邪神達についてです。旧支配者の名の通り、彼等は支配者です。とはいえ、既にその支配者の座からは退いていますけれど』


「アンタは……確か火星に居たんだっけ?」


『ええ。ですが、私の場合は少し特殊と言いますか……母星を敵性生命体に追われ、火星での潜伏を余儀なくされました。火星(アイハイ)人に信奉され、結果火星を支配する形にはなりましたが……火星はぬるかったと言うか、誰も欲しがらなかったと言うか……』


 説明している間に段々肩を落としていくヴルトゥーム。


『前にも言いましたが、私は旧支配者としては下の下なのです。科学力は持ち合わせていたのですが、個の力は大した事無いのです』


「あれだけのビーム放っといてよく言うわよ……」


 ヴルトゥームは、アリスの致命の極光と競り合えるくらいの規模と破壊力を持つ極光を放つ事が出来ていた。それでも自分は旧支配者の中でも下の下だと言う。


『あれは科学力の賜物です。庭園で戦った時の私の戦闘能力が、本来の私の戦闘能力です。下準備が無ければ、直ぐに摘まれる可愛い花なのです。そこら辺は、貴女達人間と似ていますね』


「まぁ、銃を作ったり武器を作ったり、個人の力以上を引き出すところは同じかもね」


 人間の力には限界がある。強靭な野生動物には勝てないし、高い所から落ちたら死ぬ。空を飛べる訳でも無ければ、極光を放つ事も出来ない。


 魔法少女に変身すれば話は別だけれど、変身をしなければそんな事は出来ない。


『はい。ですが、私は人間よりは強いです。圧倒的な科学力を有してもいます。ですので、旧支配者としてカテゴライズされる事となりました。旧支配者は人間を超越する圧倒的な力を持っているのです。その力を持って、人類史以前の地球を支配していました』


「人類史以前……恐竜の時代とか、それよりも前からって事?」


『はい』


「そんな前から……って言っても、あんまりピンと来ないわね。スケールがデカいってのは分かるんだけどさ」


 何万年、何十万年、ともすればそれよりもずっと前から、この地球を支配していたという事になる。


 人類史だって遠い昔の話だというのに、それよりも前の話となると想像が付かない。


異譚支配者のビジュアルが旧支配者と変わらないのだとすれば、あの怪生物達が地球を支配していたという事も、やはり想像は付かない。


『記録にも残っていませんからね。最早、地層しか当時の事を記録していません。後は、我々旧支配者と幾つかの神、それと、幾人かの……おや、これは検閲の対象のようですね』


 話の途中で、ヴルトゥームは口を閉ざす。


「その検閲って、あの胡散臭い男も言ってたけどなんなの?」


『胡散臭い男?』


「魔導士エイボンよ。アンタ、知ってる?」


『ああ……あの男ですか。……なるほど。どうやら、貴女に賭けているのは私だけでは無いようですね』


「賭ける?」


『いえ、こちらの話です。……検閲についてですね。我々旧支配者は異譚に関わる際に、首謀者とある契約を交わしました。首謀者の意に沿わない情報を露呈してはならない、というものです。その契約がある以上、私達は首謀者の意に沿わない言葉は発せられないのです。一度負けて、神核も無くなった私は契約が不完全になりましたので喋れる事は多いのですが……核心に触れる事は言えないようです』


「なるほど。どうしても隠したい事情がある、って訳ね」


『そういう事です。あの性悪の事です。そこら辺については、いずれ明らかになるでしょう。どんな形であれ、ね』


 例えそれが最悪の形であろうとも明らかにされる。それだけは、事の全てを知っているヴルトゥームには分かる。


 だが、そんな事はどうでも良い。大事なのは、明かされた真実のその先なのだから。


『話を戻します。人類史以前を支配していた旧支配者達ですが、現在は封印されている者が大半です。私のように直接出向いて戦える者は少ないでしょう』


「少ないって事は、絶対に居ない訳じゃ無いのね……」


『はい。とはいえ、条件が揃わなければ封印が解かれる事はありません。旧支配者が襲撃してくる事はそうそうある訳では無いはずです』


「でも確率としてはある訳でしょ? なら、可能性の一つとして考えておかないとね。実例が目の前に居る事ですし」


 朱里がヴルトゥームを冷たい目で見やれば、ヴルトゥームは得意げにブイサインをする。


 ふてぶてしい態度のヴルトゥームの頭を指でぐりぐりとしながら、朱里は話を続ける。


「一つ聞きたいんだけど、旧支配者ってどれくらい強いの?」


『どれくらい……うーん、相性とかもありますけれど、平均的な強さは異譚侵度Sの異譚支配者くらいですかね』


「……それって、平均的な強さを持つ奴らは、って事よね?」


『はい。異譚侵度A以上の異譚を広げられる力を持つ旧支配者がもし襲撃してきたとしたら……』


 そこまで言って、ヴルトゥームは花が咲くような笑顔を浮かべて断言した。


『人類に勝ち目は無いので諦めましょう』


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