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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第2章 三本の剣

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異譚8 ママ

 居間に入って来たのは、よれたシャツと使い込んだジーンズを履いた派手な髪色をした女性だった。


「ただいまぁ~、アタシのかわいい子供達~……って、あらら?」


 女性は居間を眺めると小首を傾げる。


「一、二、三、四……」


 指差し確認して人数を数える女性。


「八、九! 九!」


 数字を確認した後、女性は嬉しそうにぱぁっと笑みを浮かべる。


「やだぁ、娘が一人増えてる~!」


「違うッス! ママの娘じゃないッス!」


「違うの?」


「当り前ッス! そんなポンっと娘は現れないッス!」


「そう……残念……」


 心底残念そうにするママと呼ばれた女性。


「自分の先輩魔法少女のアリスさんッス! 国の英雄ッスよ!」


「言われてみれば……確かにそうね! どっかで見た事あると思ったのよぉ! やだぁ、ウチに英雄が居る~!」


 きゃっきゃと嬉しそうに笑う女性。


 緩く、柔らかい雰囲気の女性が瑠奈莉愛達の母親なのだろう。


「ほら! 自分の先輩なんッスから! ちゃんと挨拶するッス!」


「それもそうねぇ。アタシはこの子達のママ、安姫女(アンジェ)よぉ。気軽にママって呼んでねぇ!」


「違うッス! 人ん()のお母さんを気軽にママとは呼ばないッス!」


「そぉ?」


「そうッス!」


 母――安姫女にツッコミを入れる瑠奈莉愛。慣れたようにツッコミを入れているので、きっといつもこんな感じなのだろう。


「ママー! おうちきれいしてもらったー!」


 幼児が安姫女のところまで行って、安姫女の手を引いてアリスが直した場所を案内しようとする。


「こら! まだご飯食べてる最中ッスよ! ご飯食べてからッス!」


「やぁー!」


「やじゃ無いッス! 食べるッス! ほら、まだこんなに残ってるじゃないッスか!」


「やぁー!!」


 残っているご飯を食べさせようとする瑠奈莉愛に抵抗すべく、幼児は安姫女の後ろに隠れる。


「ダメよぉ、虹空(にあ)。ちゃんとご飯食べないとぉ」


 言って、安姫女は幼児――虹空を抱き上げて虹空の座っていた場所、つまり、アリスの隣に座らせる。


 安姫女が自分を座らせたのが嫌だったのか、ぶっすぅっと頬を膨らませて怒る虹空。


「後で一緒に見に行こうねぇ」


 言って、安姫女は虹空の頭をよしよしと撫でる。


 虹空はぶすっとした顔ながらも、安姫女の言う事は聞くのか黙々とご飯を食べる。


「私、席空ける」


 九人でも手狭なテーブルに、小柄とは言えアリスが居ると安姫女もゆっくりご飯を食べられないだろうと思い、アリスは自分で使った食器を持って台所へと向かおうとする。


「気にしないで~。ご飯はみんなで食べた方が美味しんだからぁ」


 言って、安姫女は立ち上がりかけたアリスの両肩を掴んで座らせる。


「はい、ママのッス!」


「あらぁ、ありがとう瑠奈ちゃん」


 瑠奈莉愛が持ってきたご飯とお味噌汁を受け取ると、虹空を抱き上げて自分の膝の上に座らせる。


「いただきまぁ~す!」


 安姫女はにこにこ笑顔でご飯を食べ始める。


「ん~、おいひぃ~! 瑠奈ちゃん、また料理の腕上げた~?」


「今日は自分だけじゃくて依溜にも手伝って貰ったッス!」


「や~ん! 依溜ちゃんありがと~! 二人共もういつお嫁さんに出ても恥ずかしく無いわねぇ~!」


「気が早いッス! 自分達まだ中学生ッス!」


「そ、そうだよぉ。相手も居ないし……モテないし……」


「え~? 二人共こんなにプリティなのに~?」


 心底信じられないと言った顔をする安姫女。


 完全に子煩悩な捉え方ではあるのだけれど、客観的に見ても瑠奈莉愛と妹の依溜は可愛い。すらっと伸びた手足に整った顔立ち。二人共スタイルが良い上に、瑠奈莉愛は性格も明るく社交的だ。思春期の男子であればその距離感の近さにどぎまぎさせられる事間違い無しだろう。


 それに、明るいけれど決して抜けている訳では無く、背も高く面倒見が良い事から大人っぽさを感じる事だろう。


 客観的に見てもモテそうだなとアリスも思う。


「それに、自分は魔法少女に成ったッスからね! 魔法少女は恋愛御法度(ごはっと)ッス!」


「キヒヒ。そんな事は無いよ」


 瑠奈莉愛の言葉に、チェシャ猫が返す。


「あらぁ、可愛い猫ちゃん!」


 そこでようやくチェシャ猫の存在に気付いた安姫女は、相好を崩してチェシャ猫を撫でる。


 撫でられ、ゴロゴロと喉を鳴らすチェシャ猫。


 ほんわかした雰囲気を醸し出す二人はさておき、瑠奈莉愛はきょとんとした顔をする。


「え、恋愛オッケーなんッスか……?」


「別に禁止はされてない。ただ、推奨もされてない」


「……イメージ的にって事ッスか?」


 魔法少女の仕事は異譚を終わらせるだけでは無い。そのルックスやキャラクターを用いてアイドルのように活動をする者も居る。


 朱里(ロデスコ)や笑良はそういった活動も含めて魔法少女として活動しているし、他の面々もファッションモデルや写真集を出したり、漫画雑誌のグラビアを飾ったりもしている。


 童話の中ではアリスだけが戦う事だけを魔法少女の活動としている。因みに、詩はゲーム実況をしていたり、みのりは子供向けの番組によく呼ばれている。


 瑠奈莉愛も餡子もいずれは戦闘以外の仕事を受ける事もあるだろう。そう考えた時に、彼氏が居たりするとそういった活動に支障が出る可能性が高い。


 そういう意味も込めての質問だったのだけれど、アリスの答えは少し違った。


「嫌な言い方だけど、魔法少女はお金になるから。利用しようと近付いてくる悪い人は多い。そういう意味も含めて、推奨はしない」


「ダメよぉ! 瑠奈ちゃんを利用なんてさせないんだから! 瑠奈ちゃん! 何かあったらすぐにママに言うのよ?」


「そういう話もあるってだけッスよ! 自分、まだまだぺーぺーなので、そんな話が来る事は無いッス!」


「逆。無知を利用しようとする人も多い。ヴォルフ(・・・・)に近付いてくる人が居たら警戒して。道下さんに報告も忘れないで。身辺調査してくれるから」


「りょ、了解ッス! 自分、絶対に騙されないッス!」


「偉い! 偉いわ、瑠奈ちゃん!」


 ふんすと鼻息荒く気合を入れる瑠奈莉愛を見て、安姫女がぱちぱちと拍手をする。


 だが、騙されないと警戒している人ほど簡単に騙されたりするものである。特に、純真無垢な瑠奈莉愛は騙されやすいだろう。


 騙されて利用されて、お金を搾り取られるという事案はそこそこ報告されている。


 流石に英雄であるアリスに接触してくるような間抜けはいないけれど、朱里や白奈が狙われた事も在る。


 誰がいつ狙われるか分からない。誰であれ、そういう事に警戒をしておいて損はないだろう。


 願わくば、現役時代は彼氏を作らないというのが理想である。つまり色々な面で余計な手間がかかるので、対策軍としては推奨していないという事になる。


 因みに、アリスにアプローチをかけてくる男はいない。そもそも、アリスとしてプライベートを過ごさないのでアプローチなどしようが無いのだけれど。


「でも、本当に好きな人が出来たのなら、自分の好きにした方が良い。そういう人も居ない訳じゃないから」


「す、好きな人だなんて……そんなの、自分にはまだ早いッスよ……!」


 アリスが言えば、瑠奈莉愛は照れたように顔を赤くして否定する。初心(うぶ)な瑠奈莉愛の事だ。そういった話にはあまり耐性が無いのだろう。


「そ、それに、今は魔法少女として頑張る方が先決ッス! 自分、まだまだ未熟ッスから!」


 ふんすと鼻息荒く言う瑠奈莉愛。


 そう言った瑠奈莉愛を見て、安姫女の表情が少しだけ陰る。それを見た瑠奈莉愛はまるで自分の失言を理解したかのような表情を浮かべた後、誤魔化すように笑う。


「そ、そうだ! 今日はデザートがあるッス! アリスさんが買ってくれたッスよ!」


「デザート?!」


「やったー!」


 デザートの存在を知った子供達はきゃーっと嬉しそうに声を上げる。


 申し訳なさそうに笑みを浮かべる安姫女。きっと、どちらにも申し訳無さを感じているのだろう。


 魔法少女には夢がある。けれど、夢だけではない事を、アリスは良く知っている。そこにはしっかりと、魔法少女達の現実が存在しているのだ。


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